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第4章 栓抜き②「巨人との戦い①」

山形県鶴岡市、赴任後すぐ
衝撃の車両飛び込み事故を片付けると
トラブルは絶えず訪れる

「○○の担当をさせてすまない
 でもお前ならできると思ったから」
仕事のご褒美は仕事・・・と
やりがい搾取のようなセリフに
新卒新米の私はまんまと
気持ちよく騙された

某クライアント=(いご、巨人)
身長190cm
当時50歳
奥様と夫婦で経営をされており
高校生の娘が一人

彼の取引先やお客様からは
クレームが絶えず
そのクレームに謝罪することなく
2次、3次クレームを貰うまで揉めた
あげく、相手が折れて絶縁する
これが彼のクレーム処理だった

自分に厳しく、人に厳しい
つまり厳格な性格

道理は通っているが
それを押し付ける節があり
奥様はもちろん、娘さんも
心が離れていた
暴言、暴力、気分屋
振り回される経営に
スタッフも離れ絶えず
人不足に悩まされていた

私は巨人の担当を引き受け
同僚から同情の言葉や
悪い噂を絶え間なく受け取った
「あの人を担当した人はすぐ辞める」
「あの人を担当した人ノイローゼになるんだ」
「あの人を受け持つのか、お気の毒に」
「理不尽なことは世の中どこにでもある」
「十得、まぁ頑張れ、お前の成長には
 必ずなるはずだ」


月並みな脅しと激励は
どこの職場にでもあるだろう
私は色眼鏡をかけることは好きになれない
『俺をこれまでのボンクラと一緒にするな
見てろ、あっという間にそんな評判
ぶち壊してやる』

そう思い訪問初日。
「おはようございます!!!!」
巨人「・・・・ちょっと裏へ・・・。」

「そんなバカみたいな非常識挨拶あるか!!!」
 体育会部活動じゃないんだ!
 社会人の挨拶覚え直し出直して来なさい!!!
 挨拶は伝えるものじゃない伝わるものだ
 学生あがりと話すことなど何もない!
 出ていけ!!!!!」

私の挨拶の100倍でかい声で
怒鳴り散らされ私の初日は終わった

翌日。
私「おはようございます」
(昨日の10%ボリューム)
(30度のお辞儀、敬礼に近い歯切れ)

巨人「・・・。」
  「今忙しい、昨日来るなと言ったはずだ」
私「そうです、挨拶をやり直しにきました
  それだけです、本日はありがとうございました」

それから毎週2回
定期的な訪問を繰り返すが基本は不在
奥様がホトホトと・・・私にお詫びをする中
私は訪問の証拠のように資料と手書きのメッセージを
毎回残す日々が1ヶ月ほど続いた

6週間後
訪問も20回目を迎えた
奥様に残そうと事前に手紙を持参
私は事務所の扉をノックする
巨人は事務所の社長席にいた
事務所の扉を開けすぐ
私「おはようございます」
巨人「おはよう」
私「ありがとうございます」
巨人「何がですか?」
私「お会いして挨拶頂きまして
  ありがとうございます」
・・・巨人はツカツカと入り口の私に
詰め寄ると、私の胸ぐらを掴み
巨人「ここは私の会社だ
   私がここにいちゃいけないのか?
   挨拶ができないとでも小馬鹿にしたいのか?
   帰れと言ったはずだ2度とくるな」
大きな手で歪められたネクタイは
そのまま形を残した
目の前には大きな音で閉められた
事務所の扉が顔の10cmの所にあった
これは漫画か、ドラマの再現なのか?

風速50mほどの唾と罵声に
心拍数はバイブレーション並に
超振動をしていた
しかし私は怒りや、驚きよりも
巨人の言動の理由を知りたくなった

なんて複雑な栓なんだ
この栓はどうやって開く?
何を使う、角度は、力加減は?
そもそもコツなのか

思考を巡らすと
ワクワクが止まらなくなった

そうこうしながら事実を
訪問報告書にまとめた
上司からは「大丈夫か」
「まぁ、無理はするな
それが仕事だ」
『はぁ????』
何を言ってるんだ
巨人よりこの小人のが
とんでもない重症患者かもしれない
私はそう思った

次回 栓抜きpart③『巨人との戦い②』

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