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風力発電に復活の兆しWind Energy Is Starting to Revive. The Election Could Throw a Wrench in the Works.ニューヨークに巨大タービン建設へ

米国の新しい産業が築かれる」

ニューヨーク・ブルックリンのウォーターフロントで今月、再生可能エネルギー会社の幹部や政治家が風力発電タービンの起工式を行い、休眠状態だった工業用埠頭(ふとう)が再び活気づいた。タービンは高さ952フィートで、約50万世帯の照明やエアコンを稼働させるのに十分な電力を供給する予定だ。

このプロジェクトを推進するエクイノール・リニューアブルズ・アメリカスのモリー・モリス社長は「こうして米国の新しい産業が築かれていく」と強調した。

ようやく風力発電が立ち直り始めた。2023年にさまざまな打撃を受けた風力発電事業者の中には、気を取り直して仕事に復帰する会社も出てきており、各州政府も風力発電への支援を強化している。

洋上と陸上の風力発電にとって、朗報はこれ以上早く訪れることはないだろう。陸上風力発電は米国最大の再生可能エネルギー源で、全米の電力の約10%を供給しているが、2023年には設置件数が過去7年間で最低となった。高金利がプロジェクトをより高価なものにしており、事業者は地元で強い反対運動に直面している。

洋上では材料費の高騰とサプライチェーン問題で陸上よりも強い逆風が吹いており、幾つかの事業者はプロジェクトの中止に追い込まれた。アナリストによると、2030年までに1000万世帯分の洋上風力発電を増やすというバイデン大統領の目標を達成できる可能性はほとんどない。

復活の兆しが見えてきたとはいえ、投資家が風力発電に賭けるのはまだ早い。幾つかの風力関連株は過去12カ月で40%超下落しており、復活にはまだ高いハードルがある。特に政治的なハードルは高く、風力発電が成功するためには大統領から個人の土地所有者まで、あらゆるレベルで行政支援が必要だ。トランプ前大統領はすでに、風力発電に反対の立場を表明している。


STEVE PFOST/NEWSDAY RM VIA GETTY IMAGES

GEは電力部門を分離

ブルックリンのプロジェクトは確かに希望の兆しだ。このプロジェクトを推進していたノルウェーの巨大エネルギー企業エクイノール<EQNR>が5カ月前に撤退し、プロジェクトは立ち消えになったかのように見えた。エクイノールは、デンマークのオーステッド、シェル<SHEL>、BP<BP>など、材料費の高騰を理由に東海岸沿いの風力発電契約をキャンセルした数社のうちの1社だ。

シェルは3月にマサチューセッツ州のプロジェクトの権益を手放し、BPは最近ニューヨーク州の大規模風力発電計画を無期限延期した。

しかし、風力発電が復活しつつある証拠もある。最初の契約が破談になった後、エクイノールは再入札を行い、当初の契約より30%割増した金額を支払う契約を勝ち取った。オーステッドも同様だ。

洋上風力発電は州や連邦政府の補助金によって、再び採算が取れるようになりそうだ。消費者は電気料金の値上げによってその一部を負担することになり、ニューヨークのプロジェクトでは月額約2ドルと推定されている。

投資家にとっての問題は、この回復が短命に終わる可能性があることだ。経済性が向上しているとはいえ、風力発電はまだ高いハードルに直面している。ゼネラル・エレクトリック<GE>は昨年、洋上風力発電事業で11億ドルの損失を出した後、電力部門をGEベルノバ<GEV>としてスピンオフ(分離・独立)した。ベルノバは風力発電に多額の投資をしている数少ない米国企業の一つだ。

ベルノバは4月、「洋上風力発電の新規受注を厳選する。米国における陸上風力発電の大幅な受注増の正確な時期については不透明だ」と述べた。

トランプ氏は反対を明言

最も不吉な懸念は大統領選挙だ。トランプ前大統領は、風力発電はコストがかかりすぎ、動物に害を及ぼすとして反対を明言している。タービンの騒音がガンの原因になるとも言うが、これには根拠がない。

トランプ氏は先月、風力発電について「就任初日に大統領令で終わらせる」と述べた。これがすべての風力発電開発をストップするという意味なのか、洋上風力発電だけを指すのかは分からない。いずれにせよ、事業者は大統領選挙前に認可を得ようと急いでいる。

連邦政府も風力発電所建設に前向きだ。洋上風力発電を担当する海洋エネルギー管理局(BOEM)は、合計で約390万世帯分の電力を供給できる8件の大規模プロジェクトを承認した。そのうち1件はすでに稼働しており、ニューヨークの7万世帯分の電力を供給している。

トランプ氏が風力産業を壊滅させると、誰もが信じているわけではない。

スペインの電力会社イベルドローラ傘下のアバングリッドは、数年前から米国で再生可能エネルギー開発に取り組んでおり、マサチューセッツ州沖に風力発電所を建設中だ。アバングリッドのペドロ・アザグラCEOは「われわれは4年間、トランプ政権と非常にうまくいっていた」と述べた。

グッゲンハイム・セキュリティーズのアナリスト、ジョー・オーシャ氏は、トランプ氏は議会で可決された再生可能エネルギー税控除を承認したと指摘する。同氏は「トランプ政権はひっそりとだが、とにかく承認した」と語った。

ブルックリンの新しいタービンは風力発電業界にとって最良のシナリオであり、期待できそうだ。しかし、まだ強い逆風も吹いている。

原文 By Avi Salzman
(Source: Dow Jones)
翻訳 時事通信社

この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。