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ポーラーショートカットというカクテルのレシピを間違えたら、1920年代の味がした。

偶然というのはコントロールできないものの、時に私たちに思いもかけない喜びをもたらしてくれるものです。例えばカクテルの、一つのレシピを間違う事で、全体に想像もしなかった変化を及ぼすということがあります。

今回はそんなことから生まれたカクテルのお話です。そもそもポーラーショートカットとは、1957年、コペンハーゲンのバーテンダー、ポール・ドジャール氏が、コペンハーゲンと東京を結ぶ、北極周りの航空路線の開設を記念して作られたカクテルです。

ポーラーショートカット
写真:サントリーウェブサイトより

ダークラム
ヒーリングチェリー
ホワイトキュラソー
ドライベルモット

名前は知っているものの、最近すっかりと作らなくなったこのカクテル。おそらく5年ぶり位に恐る恐るミキシンググラスの中に材料を。丁寧に液体窒素でステアして、味見をした瞬間。「!」まず驚いたのはそのうまさです。リキュールばかり扱っている私は、糖分によって引き出される、ボタニカルの重層的な味わいと言うものに、そもそも感銘を受けやすいからなのかもしれません。

しかしこれにはそれだけではない、どこか懐かしいような、温かみのある香りがします。考えること半刻ほど、ようやくその正体を突き止めました。

1920’s Hesprany Bordeaux

うちの店でも最も古い部類に入る、ボルドーのオレンジリキュール「エスプラニー」20年代です。100年ほどの経年変化は出ていないものの、基本的な骨格としてはほとんど同じと言っていいでしょう。

この味に至る前に、私は1つの大きなミスと、1つのアレンジを加えています。1つはポーラショートカットのレシピである、ドライベルモットではなくスイートベルモットを使ってしまったこと。1つはホワイトキュラソーではなく、コアントローのノワールを使ったこと。

コアントローノワールの中にあるくるみや、アーモンドが、コクと酸化した風味を与え、スイートベルモットが苦味で全体を支えています。そのおかげでダークラムを主体としたこのカクテルが、ヒーリングのチェリーを入れるにもかかわらず、甘みに偏らず、さっぱりとした印象に仕上がっています。

失敗が産む成功もある。まさにそのことと、既に知ったリキュールの組み合わせの中にも、まだまだ知らない味が隠れているという楽しみを思い出させてくれるカクテルでありました。

では後ほど。

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