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生物学を斬る#4 【生命倫理】

2018年11月、中国でヒト受精卵に対するCRISPRを用いたゲノム編集が行われ、遺伝子改変が施された赤ちゃんが誕生したというニュースが広まった。
目的はHIVによるエイズ感染を予防するための変異を導入するという医学的なものであったが、まだゲノム編集の安全性が確立されていない、まだ当該遺伝子の機能が十分に明らかにされていないため副作用がある可能性がある、受精卵への遺伝子改変は子孫の細胞に半永久的に伝わるため生涯を通じて取り返しがつかないことになりうるなどといった理由から、倫理的な問題が指摘された。

一方で、この研究は最先端のバイオテクノロジーを用いればヒトのゲノムをある程度自由に編集可能であるということを世間に広く知らしめた。
遺伝病の原因遺伝子を持つ親の受精卵をゲノム編集の技術により野生型へと変化させるといったことが今後行われるようになるかもしれない。
他にも様々な人類古来からの夢がゲノム編集によって達成できうる。

例えば、このゲノム編集を用いればテロメアが縮むことによる寿命の限界を人類が克服することができるようになるかもしれない
染色体中のテロメア配列が細胞分裂ごとに短くなっていき、テロメア配列が無くなると細胞分裂ができなくなることが、ヒトの寿命を決定している一つの要因と考えられている。
テロメアの短縮を防ぐ酵素としてテロメラーゼが知られており、その遺伝子は特定されているため、これをすべての細胞で恒常的に発現させればテロメアが縮むのを防ぐことが理論上可能である。
(現実的には、テロメラーゼを発現させたら発生がうまく進まなくなる、がんになりやすくなるなど様々な副作用の可能性が考えられるが…)

  • では、ゲノム編集によりヒトの寿命を延ばすことは許されるのだろうか?

  • 治療目的ならば受精卵へのゲノム編集もしていいのだろうか?

  • 逆に、ゲノム編集による治療技術があるのに苦しむ人に治療を施さないことは許されるのだろうか?

  • そもそも治療と能力の増強(エンハンスメント、ドーピング)の明確な違いは存在するのだろうか?

  • 僕らはゲノム編集されたデザイナーベビーが100 m走の世界記録を樹立したら素直にすごいと思えるのだろうか?

  • 人間はどこまで改変を加えられても人間でいられるのだろうか?

生命倫理という分野にはこれ以外にも遺伝子組み換え作物の問題や、脳死の問題、優生思想の問題など様々な問題が存在しているが、新たなテクノロジーの進歩によりさらに重大な問題が生じつつあるということは認識しておいても損はないと思う。

参考文献

中国でヒト受精卵に対する遺伝子改変が施された赤ちゃんが誕生した。HIVによるエイズ感染を予防するための変異を導入するという医学的なもの。ゲノム編集によりヒトの寿命を延ばすことは許されるのだろうか。

ELYZA DIGESTを用いて要約
サムネイル画像はとりんさまAI(@trinsama)により生成