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2023.8.26 J1第25節 川崎フロンターレ vs 北海道コンサドーレ札幌


川崎のホームゲームです。
札幌は前節から4人変更。フィールドプレイヤーでは小林、中村、青木に代わって、スパチョーク、福森、馬場が入りました。スパチョークは浅野とともに前線に、馬場はCHに、福森は左CBに入ります。またGKには夏の移籍で獲得した高木が、加入後1週間ほどですがスターティングメンバー入りしました。ベンチには深井、大森など調整明けのプレイヤーも入っています。
川崎は車屋が復帰して左CBに入りました。また情報を入手できていないのですが左SBは登里ではなく佐々木です。新加入のゴミスはまだベンチ入りできる状況にないようです。

川崎が自陣へ下がっていく事情

4月の対戦時には札幌にあえてボールを持たせ、WGの宮代と山田をディフェンダーの裏のスペースへ走らせるプランを実行した川崎ですが、このゲームは「普通」の振る舞いでした。札幌からボールを取り上げ、札幌陣地で時間を進めることを狙います。

そのために川崎は、前進しようとする札幌を守備の圧力で押し返す必要がありますが、特別な手段を準備しているようには見えませんでした。4-1-2-3の初期ポジションのまま札幌のと向き合います。
一方札幌は4-1-5の初期配置を基本としていますが、このゲームでは最終ラインが3枚に近く、3-2-5のように振る舞います。左CHの馬場が、岡村と同じレベルにまで下がっていくことで4バック化するのではなく、右CHの荒野と同じレベルに留まります。
札幌が4-1-5であれば、CFの小林がCBの横パスの経路に立ってサイドへ誘導し、瀬川と家長はその誘導先を予測しながら田中や馬場へアプローチすることができていたかも知れません。さらにIHの脇坂と橘田が荒野や福森をケアすれば、札幌は出口を失う、というのは最近の札幌のビルドアップがプレスによって行き詰まるパターンにもなっています。
しかしこのゲームは岡村が後方に一人残るような状況で、小林だけでは札幌のCB3人のパス経路を限定することができません。同時に、荒野、馬場、駒井、さらにスパチョークのポジション移動によって、札幌の中盤には厚みが生まれます。
川崎の前線がサイドを限定できない結果として、川崎のWGの家長と瀬川は、対面の田中や福森にアプローチするか、札幌のWBをケアするために下がるか、能動的にアクションをとりづらい状況に置かれていました。

家長と瀬川がディフェンス面で機能しないとなると、サイドでは川崎のSBに対して札幌のWBとCBが1vs2に近い状況が生まれることになります。サイドでの優位を札幌に明け渡すことになると、川崎はブロック全体を下げざるを得ません。

そもそも川崎は、札幌陣地の深いところでボールを持ち続けることを志向しています。札幌ボールを高い位置で奪回したり、ビルドアップの初期段階でボールを放棄させることができれば、帰陣することなく、失点のリスクも下げることができます。
しかしこのゲームでは、新加入のGK高木が札幌の選択肢を増やす働きをしており、川崎のプレスの行き届かない経路を使ったビルドアップを成功させていました。札幌はそこまでできないだろう、という計算があったとすれば、川崎にとってこのことは誤算になったでしょう。

具体的に高木が可能にしていたのは、中央の荒野へのパスと、降りてくるスパチョークを使うプレーです。GKの横に立つ岡村と馬場がマークを背負っている状況で、高木はボールを持ちながら川崎のプレスの圧力を観察します。そして荒野が反転するスペースや、スパチョークの動きにつられて福森がフリーになるタイミングを見つけて、そこへパスを送っていました。

札幌のビルドアップの初期段階で川崎がプレスを成功させていれば、それをきっかけに札幌を押し込むプレーも可能になっていたかも知れませんが、このゲームでは、川崎のプレスが札幌陣地を広くカバーしようとする意図を、札幌のビルドアップが隙間を見つけて使うプレーが上まわっており、何度も後退を強いられるうちに川崎のプレスの意欲が低下していく様子が見えました。

中盤の攻防

ゲームは札幌が川崎を圧倒して始まります。川崎のプレスは空転し続け、川崎が本来表現したいであろうワンサイドのゲームを札幌が展開します。
川崎はボール保持においてもうまくいきません。札幌の対人マークの圧力を受けるとバックパスが相次ぎ、最後はチョンソンリョンからボールをラフに前線に送るプレーに終始します。小林に対するフィードには岡村が待ち構えており、ここを個人で打開できるプレイヤーはリーグに数名しかいないと思われます。川崎は札幌のプレスの圧力に屈してボールを捨て続けてしまいます。

札幌は川崎の中途半端なフィードや、マークを背負ったまま中盤で無理にプレーしようとして生じたエラーからボールを得て、高い位置から攻撃を開始することができていました。川崎の守備ブロックが札幌をサイドに誘導できないでいると、札幌のポジショニングの幅広さが活きてきます。
特に中央の馬場には多くの選択肢がありました。サイドの菅への展開、菅を警戒した山根が追いつけない高さまで移動したスパチョークへの縦パス、荒野を経由した右サイドへの展開、福森へのバックパス、などです。多くの選択肢を持つボールホルダーには、対面のディフェンダーもうかつに飛び込めません。

札幌は馬場、荒野だけでなく、駒井、スパチョーク加えた4人で中盤を構成し、3-4-3でプレーしていたとも言えそうです。橘田、シミッチ、脇坂の3人では対応しきれず札幌のプレーに制約がかかりません。
札幌の後方にはいつものように大きなスペースが広がっていましたが、川崎は札幌の分厚い中盤に向かってプレーしてボールを失い、札幌にボールを持たれるとサイドへの展開を恐れてブロックを下げる、という札幌の思惑通りの振る舞いを続けます。

29分までスコアは動きませんでしたが、札幌が先制します。
福森のフリーキックの跳ね返りが、ゴール正面やや低い位置でフリーになったスパチョークに渡ります。強烈なボレーが決まりました。

35分にも札幌が得点。札幌が右サイドからボールを引き上げて中盤に戻した場面から、馬場がSBの背後に抜ける動きを見せたスパチョークへスルーパスを出します。これをややもつれながらゴール方向へ運び、クロス。CBの背後からキーパーとディフェンスの間に入り込んだ駒井が合わせました。

前半は一方的な展開で終了。札幌が0-2とリードしてハーフタイムを迎えます。

約束された結論、スペース強襲

川崎は、後半から瀬川とシミッチを下げ、マルシーニョと瀨古を入れました。左WGマルシーニョ、橘田を1列落として瀨古と横並びになる、4-2-3-1に変更します。
後半の川崎は、田中の背後へマルシーニョを走らせるボールを使うようになりました。橘田や瀨古が自陣で時間を作った後、前向きの車屋や佐々木へ落として、そこから一気に加速します。

後半開始からしばらく、札幌が前半のようにプレーできるか、マルシーニョのサイドに川崎が出口を見出すか、攻防が続きましたが、50分、岡村の退場という形でゲームが動きます。

札幌が前線の浅野へ届けようとした縦パスを車屋がカットし、そのまま持ち上がります。攻撃のためにポジションをとっていた札幌は後方が薄く、マルシーニョと田中のあいだに距離がある状態が生まれていました。車屋からの縦パスがマルシーニョに渡るのを見て、遅れてアプローチした岡村のプレーがファウルになり、決定機阻止で退場になります。

10人になった札幌は浅野を下げて宮澤をCB中央へ入れ、2点のリードを守る構えを見せます。スパチョークを前線に残し、駒井を下げた5-3-1のブロックで川崎と向き合います。

川崎はマルシーニョのスペース強襲をきっかけに札幌の圧力を動揺させ、札幌陣地でプレーする時間を作りたいという意図だったでしょう。マルシーニョを走らせるためのパスの出所として、橘田と瀨古の2人を置いて、札幌のプレスに対抗しようとしたとも思われます。しかし早々に岡村の退場によって、前方のスペースは消えることになりました。
ビハインドの川崎としては、札幌の守備の意欲が向上するようなアクシデントは、必ずしも好ましくなかったかも知れません。川崎のプレイヤーたちの表情はそれほど明るくないように見えました。

しかし66分、札幌のビルドアップにミスが起こります。札幌がキーパーからのリスタートの権利を得て、時間稼ぎが始まるかと思われた場面、高木から宮澤への短いパスの意図が合わず、流れたボールがマルシーニョに渡ります。これを中央の脇坂へ送り、ゴール。
さらに70分、ハーフスペースへランニングしたマルシーニョへパスが通り、クロス。逆サイドの山根のシュートがミートせず、中途半端な軌道になったところへ佐々木が詰めてゴールします。
川崎が一気に2点を挙げて、2-2の同点としました。

川崎のクオリティが発揮されたと言うよりも、札幌が自滅のような形で連続失点。人数で優位に立つ川崎の攻撃が勢いづくかと思われましたが、あまり得点の可能性を見せることができません。遠野、宮代をIHに置く4-1-2-3に戻したり、トップにレアンドロダミアンを入れるなど打開を図りますが、意外性のないクロスや、マルシーニョや橘田の個人的な打開に終始して、札幌のブロックを揺さぶることができません。
川崎が攻撃で怖さを見せられずにいると、札幌が活性化します。自陣でボールを奪い返した場面から、交代で入った深井、小林がキープ、ルーカスのドリブルで持ち上がり、川崎ゴールに迫る場面を作って行きます。
終盤は両チーム体力の問題もありトーンダウン。2−2のドロー決着となりました。

感想

川崎はここ数年、移籍によって身ぐるみ剥がされてしまっている形です。アタッカーはリーグのなかで悪くないレベルを保っている一方、ディフェンダーは隠しようがなくスカッドが細くなってしまっているように見えます。相手チームを自陣に押し込んで、それを嫌がって前に出てこようとするところをひっくり返して得点、という形を支えるにも、プレスをビルドアップで押し返すにも、攻守に穴のないディフェンスラインが必要だと思いますが、橘田選手の奮闘が目立つばかりで、かなり厳しい印象です。
自陣で狭く守って前線のアタッカーに頑張ってもらう、といった形なら現スカッドでもそれほど問題にならないのかも知れませんが、川崎はそうではないだろう、という周囲の目線や自意識、かつてのチャンピオンチームであることが重荷になっているのかも知れません。ゲーム後、インタビューアーにこんな内容でいいんですか、的な質問で責められている脇坂選手が気の毒に感じました。

でもそんな周囲の雰囲気とかつらみみたいな問題は、チーム力が下がっていくときにあるあるの現象で、取るに足らないかも知れません。どちらかというと川崎が移籍収支において大赤字が続き、戦力を維持できず、ピッチ上にそれが現れてしまうというときに、チャンピオンがこんな感じでリーグは大丈夫なんだろうか、というより構造的な問題のほうが深刻かも知れません。
川崎は、DAZNによってJリーグが資本的に次のステップに進んだはずの最初の期間、チャンピオンとして君臨していたクラブで、パンデミックで強化配分金が止まったということはあるかも知れませんが、他のチームより相対的に高く恩恵を受けています。もし川崎がうまくお金が使えなかった、Jリーグチャンピオンの地位の活用に失敗した、という状況があれば、これはリーグの投資対象としての価値の問題になってきます。移籍市場の流動性が低いのか、ディフェンダーの補強の優先度が不当に低いのか、川崎が単に失敗したのか。わかりませんが、横浜FMと川崎が揃って勝てない25節は、Jリーグってそのへんもう少し頑張らないと将来やばいかも、という想いが頭をよぎりました。

ミシャ監督の嘆き節も聞こえてきました。低予算についての言及が多くなって来ているな、とは思っていたんですが、このゲームでは判定についても露骨に批判しています。9ゲーム勝ちなしで苛立ってしまってるんでしょうか。
セットディフェンス、というよりディフェンダー同士のカバーの関係を意図的に整備しないなら、速い人に走られて引っかかったり倒しちゃったりすることは避けられないですね、と個人的には思いますし、そんなことはミシャ監督もわかってる気がします。
マルシーニョ突撃でゲームがひっくり返ってしまいましたが、札幌のこの構造においては一定の確率でやられちゃうだろうことが、起こっただけと捉える必要があると思いました。田中選手の背後を、チームのためにカバーしようとした岡村選手は、出場できなくなったりして個人的にもダメージを負うわけで。札幌の構造から出てくる被害者とも言えます。

ポジティブなこととして、中断明けの札幌のインテンシティは高いですよね。新潟戦あたりはどうなることかと思いましたが、鹿島、鳥栖、京都、そしてこの川崎とのゲームは夏の札幌にしては走れていて、これは現場は相当な努力をしてるんだろうなと思いました。負けが決定的な状況でもあまり落ちませんし。すごいことだと思います。

それから、高木選手がすごかったです。三上GMがラジオで言っていた、今のチームを向上させるために後ろのポジションから改善する方法もある、と言ってたことに納得しました。
実際そこへパスをするかどうかは別として、4-1-5の中央を使う選択肢を相手チームに見せられないと、サイドで圧力を受けやすくなります。最近勝てなくなった一因はここにあって、札幌はプレスをかければビルドアップできない、と相手チームが確信して、札幌陣内で対人マークに出られるようになったことが、流れを悪くしている面があると思います。
高木選手は荒野選手に3回はパスを通し、そこから川崎は一気に帰陣を強いられていました。かといってそればかりではなく、サイドに浮き球を通したり、川崎が外しているところを狙うバリエーションはいくつもありました。
こういうのが見たかった!と思っていたので、とても満足です。高木選手が基準になれば、1失点目のような、前にボーンと蹴るだろう、といった慢心はなくなって行くように思います。自分もここは前にボーンと蹴るだろうと思ってましたから、宮澤キャプテンのことは悪く言えないです。おわり。

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