見出し画像

2024.3.16 J1第4節 北海道コンサドーレ札幌 vs FC町田ゼルビア

札幌のホームゲームです。
札幌は出場停止明けの中村が3CBの左、右WBに田中宏武が入りました。前節スターターに入っていた小林はベンチ、青木はメンバー外になり、菅と浅野をそれぞれ1列前へ変更しています。
町田は開幕から右SHに入っていたバスケス・バイロンがメンバー外となり、平河を左SHから移動させています。左SHには、藤本が本シーズン初のスターターを担います。


町田のバックラインにプレーさせる

よくマンマークと言われる通り、昨シーズンまでの札幌であれば町田の全てのプレイヤーにマークを割り当てるところ、このゲームの札幌は対人のマーク関係が必ずしも明確でない配置で守っていました。3CBに菅を組み込んだ4-3-3の配置で、町田の4-4-2と向き合います。
過去の札幌のマンマーク関係では、SBを担当するのはWBです。それを基準にこのゲームの4-3-3を表現すると、左WBの菅の位置を下げ、鈴木ではなく平河とのマッチアップを作る、という言い方になりそうです。そのぶん、前線では鈴木、スパチョーク、浅野の3人が、1人少ない関係で町田の4バックと向き合うことになります。

今シーズンの札幌は、意図的に拮抗したゲーム展開を作ろうとしているように見えます。その傾向から札幌の意図を推測するなら、前線からのプレッシングによって自陣側に生じるスペースは、FWのポストプレーや、SHのスピード、ドリブルを活用したい町田にとって機会になるため、それを避けようということでしょう。町田がロングフィードによる前進を試みたとしても、菅を含めた4人のDFがスペースで待ち構え、ターゲットになるアタッカーをマーク対象として監視している状況でそれを受け止めることができます。

また攻撃のために、前線に3人を残してあるという見方もできそうです。もとより4vs3で町田のディフェンスラインからボールを奪いきることは想定されておらず、鈴木、スパチョーク、浅野の3人はディフェンスの負担をある程度免除されていると考えることができます。それは町田を引き込んだ上で、攻撃に転じる経由地点としてのタスクに、より重点を置くためでしょう。

一方の町田は、ゴール前を明け渡さずにハードワークを続ければ、札幌が攻め疲れてきてオープンな状況が生まれる、という考えだったでしょう。ボール保持ができない展開でも焦ることなく、札幌の体力を削り、いくつか発生するであろうエラーを狙います。

札幌陣地深い位置で生じるトランジション

ゲームは、札幌が町田ゴールに迫る展開で始まります。町田はFWへのロングフィードで前進を試みますが、岡村の対応が上まわり、札幌陣地深いエリアで札幌がボールを回収する場面が多くなります。そこからビルドアップに移行しようとする札幌と、プレッシングで押し込もうとする町田の駆け引きの行方が、展開を左右することになります。この点で、札幌が優勢でした。

町田のプレスは、札幌陣地深いエリアまで札幌のプレイヤーを追いかける一方、ドレシェヴィッチとチャン・ミンギュはスペースを捨てたがらない傾向があり、中盤には多くのスペースが生じていました。札幌はこの中盤を使うことに成功します。中盤を経由しながら、最終的には右サイドで待つ田中宏武に届ける、という展開が繰り返し見られました。

札幌が中盤を進むことができていた理由にひとつは、ボールホルダーを前方から十分にサポートできていた点が挙げられます。ボールホルダーにボールが届くまでに次のパスコースを作ることで、町田のディフェンダーがアプローチするよりも速くボールを動かすことができるようになります。前半の札幌は、この選択肢をタイミング良く、場合によっては複数作ることができていました。

もうひとつの理由として、駒井、荒野が中盤にとどまることで、柴戸と仙頭のマークを引きつけていた点が挙げられます。浅野やスパチョークは中盤に登場する3人目として振る舞うことで、マンマーク志向の町田は人数が不足します。このとき町田のSBは中盤をサポートできる可能性がありますが、サイドには札幌のWBが構えており、この2つを同時に捉えることは困難です。

札幌がロングフィードを凌ぎ、町田を繰り返し押し返す展開がしばらく続きますが、前半も中頃を過ぎると、町田のボール保持の時間が増えていきます。
町田は、左サイドで林からの縦パスにオ・セフンや藤本が反応する前進経路を使いはじめ、またそこを札幌が閉じると、ブロックを迂回して逆サイドの鈴木からの前進を試みるようになります。4バックに対して3人で向かい合う札幌はこの迂回路を閉じることができず、町田の前進を許す場面が増えていきます。

町田は、札幌のブロックを迂回して、最終的にはSHまでボールを到達させます。サイドにボールが到達するまでに手数がかかっているため、札幌のブロックは帰陣を終えており、SHの前にはディフェンダーが構えています。
町田がこの状況から選択するのは、FWをゴール前付近で待たせたまま、サイドを少ない人数で突破しようとするプレーです。時折CHや後方のSBが関与する程度で、ドリブル等で突破を試みても成功率は高くありません。結果として札幌にボールを明け渡すことが多くなります。

札幌にとって町田のSHからボールを奪った状況は、町田のバックラインからのロングフィードに耐えた直後の状況に近いものです。町田のプレスの背後にはスパチョーク、浅野、鈴木の3人が残っており、ビルドアップと同様にここを経由しながらカウンターに転じます。

町田のロングフィードやブロック迂回を凌ぎ、押し返すことに成功した札幌ですが、ゴールを脅かす場面を作ることはなかなかできません。町田は、帰陣したあともスペースを管理するより、前線のプレイヤーがボールホルダーへのアプローチに積極的で、中盤にスペースが生まれがちでしたが、札幌はここをうまく使うことができません。サイドでドリブルやオーバーラップを繰り返すものの、ゴール方向へのプレーまで到達できません。

札幌が背後を消しながらうまく町田を押し返しているように見えつつ、結果的には、ゴール前から動こうとしない町田のCBの振る舞いが、札幌の攻撃を危険なエリアから遠ざけることに成功します。0-0でハーフタイムへ。

中盤のパスコース創出が息切れ

後半、札幌の前進がうまくいかず、町田のプレスによって裏返る場面が多くなります。
荒野、駒井のポジションが下がりがちになり、同時に前線のプレイヤーの中盤に関与する活動量が減ることで、札幌が前後に分断していきました。物理的に距離ができるだけでなく、札幌のプレイヤー同士の意思疎通が希薄になると、町田のディフェンダーにとっては、前向きのパスの経路を読みやすい状況が生まれます。
札幌は前半のように田中や浅野に預けようとしますが、その経路が単純なため、町田のSBやCBの前進守備が容易になります。パスミスや町田によるインターセプトが増加し、センターライン付近で札幌がボールを失う場面が多くなります。

札幌が前進に苦労するようになってまもなくの53分。町田が先制します。
自陣深い位置から田中宏武がドリブルで持ち運んで鈴木へのパスを通そうとしますが、少しズレたところを町田の鈴木が回収。右サイドに送り、平河がクロスを上げます。ファーサイドでオ・セフンがやや後方へ落としたボールを藤尾が決めました。
右サイドでは仙頭と平河に対し、スパチョークと菅の2vs2の状況でしたが、ワンツーによる裏抜けで平河がフリーでクロスを上げています。

町田のペースが続き、65分。コーナーキックのボールをチャン・ミンギュが触れてファーサイドへ。岡村がマークについていましたが、十分な体勢でアプローチできませんでした。待っていたドレシェヴィッチの頭に跳ね返って町田の追加点が生まれます。

ビハインドの札幌はボールを前方へ送ろうとするものの、依然として町田ゴールに近づくことができません。前方のプレイヤーがディフェンダーの圧力を受けたままで、縦パスの成功率が上がりません。札幌にボールを持たせつつ跳ね返す、町田のペースが続きます。

札幌は、60分から80分にかけて交代を実施します。田中宏武、浅野、荒野、菅それぞれに代えて、小林、田中克幸、原、長谷川をピッチに送ると、札幌のボール保持が回復し始めます。
田中克幸を中心に、スピードの遅いパスやキープで時間をつくると、ディフェンダーの背後にあるスペースでのパスレシーブが増えていきます。札幌のボール保持が安定すると、町田の4バックの両脇に立つ札幌のWBが時間を得ることになります。ここからドリブルやクロスで揺さぶりをかけます。

84分、札幌が原のゴールで1点差まで迫ります。町田が何度か自陣ゴール前からのボールゲインに失敗すると、右サイドで原がスルーパスを引き出し、シュートへ持ち込みました。

しかし町田が逃げ切りを意識したプレーを増やし、90分に交代で5バックへ移行すると、WBのプレーエリアも消えることになりました。大きなチャンスは生まれず、町田が1−2で逃げ切り、勝利しました。

感想

福森選手が逆サイドまで一気に飛ばしたり、金子選手やルーカス選手がゴリゴリと対面のディフェンダーを押し戻していったり、といったパワフルなプレーが持ち味だった札幌。今シーズンはやはり少し違うことにトライしているように見えます。相手チームを引き込んで低い位置から攻撃を開始してみたり、中盤でボールを持ってみたり。

ペトロヴィッチ監督が就任するというニュースが届いたときに、とても不安になったことを覚えています。守り倒して生き残ってきた札幌が急にボール保持なんか始めたら、途中で引っかけられてボコボコにされるのがオチだろう、J1でそれを身につけているような時間はないだろう、と思ったものです。そういう意味で、初年度よい成績を収めたときには、不思議な感覚がありました。
しかし今になって思い返してみると、低い位置からカウンターでゴールを奪ったり、ブロックを飛び越えるダイナミックな展開で前進したり、2020シーズンからはプレッシングによって相手陣地に留まろうとしたり。それらはいずれも、正味のポゼッションを回避していたのではないかと思えます。つまり札幌は、自陣での手間のかかるプレーをしなくてすむ方法をいろいろやってきているのです。札幌は最初から無謀なボール保持をやっておらず、そのリスクは顕在化しませんでした。

今シーズンの札幌は、いよいよというべきか、自陣でもプレーせざるを得なくなってきているように見えます。でもそうするなら、頑張ってほしいものです。
神戸が優勝したり、町田が席巻する現象というのは、中途半端なボール保持に対する、リーグの傾向を表しているように思います。ただ、相手チームのボール保持者をどんどん追い回すスタイルというのは、結局のところ、中盤のスペースを相手にコントロールさせることと同義であり、その危険を晒すということです。このゲームの札幌は、町田のプレスを操作し、生まれた空間を使ってゲームを制することができなかったわけですが、これは神戸に対するチャレンジャーの立場に置かれてしまった、今のJリーグのクラブ全体が抱える課題ではないでしょうか。

そういう意味では、今シーズンの札幌のトライは、時流に対する回答としても、クラブの進化としても、ポテンシャルのある試みだと思います。うまくいけば、Jリーグが次のバージョンに進化したときに、主流になれるでしょう。ただし、ミシャ監督の就任時にそんなことやって大丈夫なのか、と感じられた問題はそのまま残っており、7年の潜伏期間を経たいま向き合わないといけない、ということでもあります。J1リーグに生き残るだけの成績を残しながら、その方針を貫けるのか。それに必要な時間があるのか、資源があるのか、その方針で周囲を巻き込んでいくコミュニケーションができるのか、という経営問題になってきそうです。おわり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?