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2023.12.3 J1第34節 北海道コンサドーレ札幌 vs 浦和レッズ

2023シーズン、リーグ戦最後のゲームです。札幌がホームに浦和を迎えます。
札幌は、前節負傷した岡村がメンバー外。CB中央には宮澤が入ります。ルーカスも前節に続いてメンバーに入っておらず、浅野が右WGを担います。このゲームをもってプロキャリアを終える小野は、2列目の左に入りました。
浦和は、伊藤が右CHのスターターに復帰。酒井が離脱中の右SBは関根が担います。

効果的なプレー

浦和は、リスク管理を重視したプランを用意していたようです。札幌のボール保持に対して、4−4−2のブロックを守備的に運用しつつ、少ない手数で実益を得ようとします。
まず2CBと岩尾が守備に重きをおいて、中央から動かない振る舞いをします。ボールポゼッションの場面においても、サイドへ開くプレーは自重しているようでした。さらに、中盤を構成する伊藤、大久保、小泉も、CBや岩尾が簡単に露出しないよう、ブロック外にいる札幌のボールホルダーに対するファーストディフェンダーとして振る舞います。中央を露出させずに、札幌をブロックの外側方向へ追い出すための防壁を2重に築く構図です。

浦和が中央を隠す振る舞いを見せると、当然、外側のエリアは札幌に開放されます。札幌は、このエリアに浦和のディフェンダーを引き出すことで、防壁を解体し、中央方向へ進んでいきたいところです。
この解体圧力に対抗するために、浦和はSHがハードワークを引き受けていました。明本が札幌のWBに対応するためにサイドへ出ていかなければならない状況では、小泉がプレスバックするか、岩尾がカバーに入ります。プレー位置が下がることを厭わずに後方のディフェンダーをサポートし、ブロックの隙間を埋めるプレーです。そのためCBはサイドの状況に動揺することなく、中央で構えていることができます。

一方、攻撃においてはSBが重要な役割を担い、SHを温存します。浦和のプレースキックはサイドへ流れたホセ・カンテへのフィードで、ここからセカンドボールを回収、そして札幌の最終ライン突破を試みます。このとき明本がオーバラップして、札幌に対する後退圧力を作りますが、小泉はホセ・カンテを背後からサポートするポジションに残ります。
小泉がホセ・カンテの後方に残ることは、攻守にメリットがあります。まずホセ・カンテのポストプレーが成功すれば、前向きにプレーすることができ、前線の明本やエカニット・パンヤへのパスの起点になることができます。またもし札幌にボールを譲ることになってもファーストディフェンダーの役割を果たすことができ、札幌のカウンターに抵抗することもできます。

浦和は、あえてSHに守備的な役割、SBに積極的に動く役割を与えることで、セカンドボール回収に成功すれば札幌を一気に裏返し、もし回収できなくても札幌のカウンターに抵抗する手段をサイドに用意しました。そして、攻撃のスピードアップをSBに担わせることで、札幌のカウンターのリスクを中央エリアから遠ざけることも意図していたでしょう。

スコルジャ監督は、美しくはないが効果的なプレーをした、とゲーム後にコメントしていました。リーグの3位(ACL2出場権)の可能性が残っている浦和は、札幌にプレーをさせないことにエネルギーを集中して、勝ち点を狙います。

前線で歓迎されないSB

ゲームは、ブロックで構える浦和に対し、札幌がその背後へ急いで到達しようとする構図で始まります。

浦和は、プラン通り、札幌を引き込むことに成功します。札幌のビルドアップに対するプレスはほどほどで、ハーフウェーラインを超えるあたりから、SHやSBがボールホルダーにアプローチします。後方で自由を得た札幌は、左サイドの青木や小野を経由しつつ、前線の駒井や小柏、右サイドの浅野へボールを届けようとします。サイドでボールを持つものの、ゴール前には岩尾、ショルツ、ホイブラーテンが対応できるように待ち構えています。クロスボールやバイタルエリアへの縦パスはほとんど浦和の対応できる範囲で、札幌は決定的なシュートチャンスを作ることができません。

20分に小野とスパチョークが交代すると、浦和の重心はさらに低くなり、札幌がボールを握り続ける時間が続きます。

札幌のボール保持に対して、浦和はSHの重心を低く運用しているため、対面にいる中村と田中はほとんど圧力を受けることがありません。中央を打開する方法が見えない中、札幌は、中村と田中を高い位置に上げて変化を作ろうとするようになります。しかし浦和は、札幌の人数をかけた攻撃に対して、人数をかけて対応するというよりも、スペースを管理することで対処しようという振る舞いを見せていました。人数の上で劣勢の状況になっても、SHとSB、そしてCHが互いにカバーして札幌のプレーを制約します。結果としてショルツとホイブラーテンはゴール前にとどまることができ、小柏や駒井がプレーする空間は大きくなりません。浦和は肝心なエリアから動かないことに集中していました。

浦和とは対照的にSBの攻撃参加を活かすことができない札幌ですが、それでも田中はひとつ得点機会を生み出しました。36分、田中は右のハーフスペースでボールを受けると、浦和のディフェンスラインの背後へスルーパスを送ります。これに反応した浅野がファーサイドへ流し込み、田中が浅野を縦方向に押し出す形で浦和の守備を攻略したかに見えました。しかしこれはオフサイドで得点とはなりません。
浦和の反撃は、ホセ・カンテを起点にしたカウンターとロングフィードですが、こちらも大きなチャンスはほとんど生まれず。スコアレスでハーフタイムを迎えます。

ドリブラーが生み出す間合い

後半から浦和は、エカニット・パンヤ、伊藤に代えて、中島、安井を入れます。前半よりも明確に中島とホセ・カンテが縦関係をつくる、4-2-3-1らしい初期配置に変更されます。
また札幌のビルドアップを積極的に追うプレッシングを見せるようになります。ただし、前線の4人で札幌のボールホルダーを追うものの、後方に6人を残す運用で、リスク回避の姿勢は変わりません。札幌がファーストディフェンスを突破するとみると素早く帰陣します。

浦和のプレスを受ける札幌は、前半のようには自陣側でボール保持ができなくなりますが、ドリブルで中盤を持ち運んだり、半ばカウンターのような形で、強引に浦和のブロックをを押し返す意志を見せます。セットプレーなどで札幌がそれなりに浦和を後退させていたかに見えましたが、52分、浦和がPKを獲得します。
西川からのフィードを中島と馬場が競り合う場面から、セカンドボールを浦和が確保します。最終的に中島がボールを引き受け、スペースへ持ちだしてからシュート。このシュートは高木が弾きますが、クリアボールがサイドで関根へ渡り、そこから前線の大久保へスルーパスが通ります。大久保がゴール方向を向いた状態でプレーすると、カバーに来た宮澤のハンドを誘いました。
PKをショルツが決め、浦和が先制に成功します。

リードした浦和は再びリスク回避の傾向を強め、人数をかけて攻撃しようとする札幌と、カウンターを狙う浦和、という前半に似た構図が再現します。ただ浦和の前線にいる中島が、カウンターの場面で前半とは違う状況を作っていました。
前半の浦和は、自陣で札幌からボールを奪い返すとホセ・カンテにボールを預け、そこからスピードアップした明本や大久保へつながればチャンス、そうならなければ帰陣、といったプレーをしていました。ホセ・カンテのところでボールを確保できるかどうかにその後の展開がかかっている構図ですが、これは札幌からみても対応のしどころがはっきりしています。ホセ・カンテには宮澤や馬場が強くアプローチするため、前半の浦和のトライはほとんど成功していません。
一方後半は、中島もカウンターの場面でボールを受ける選択肢になります。中島は、ボールを受けた状態から一気にスピードアップするのではなく、ドリブルで運んで、浦和の他のアタッカーの動きを待つことができていました。札幌のディフェンダーは、ドリブル中の中島からいつパスが出てくるのか注視しながら、リアクションすることを強いられます。この時間を使って、浦和はより優位な状況にあるプレイヤーへのパスを選択することができるようになります。
ホセ・カンテを使って一気にスピードアップするオプションも残っており、札幌は中島だけに集中することもできません。カウンターの構図は変わらなくても、札幌のディフェンスにかかる負荷は高まっていました。

70分、浦和が追加点を挙げます。
浦和は、自陣深い位置でフリーキックを得ると、札幌陣地内の密集へのロングフィードを選択します。ホセ・カンテが宮澤から逃れてこのフィードを前方へ流すと、ペナルティエリア内にいる中島へ一気にボールが到達。中島は馬場を背負いながら、ゴールとは逆方向へトラップ、馬場から逃れるステップを踏みながら、そのままシュートへ持ち込みます。これがゴール隅へ決まり、浦和がリードを2点とします。

ビハインドの札幌は菅、キム・ゴンヒを入れるなど打開を図ります。しかし浦和の守備もさらに強固になり、ゴール前から閉め出されたまま、ゲームの構図を変えることができません。浦和が0−2で危なげなく逃げ切り、勝利しました。

感想

小野選手のプレーを見るのは久しぶりでした。キックの質などもそうですが、やっぱりヴィジョンも優れている人なんだな、と思いました。攻撃では、ブロックの隙間が存在するうちにそれをチームメイトに使わせようとしているのが見えますし、ディフェンスにおいても、青木選手を呼んで(サイドから進みたい浦和の意図に反して)中央へ誘導しているのが印象的でした。

ゲームのほうは、前線に人数をかける攻撃を続けても、単純なロングフィード2本で敗戦。札幌には、あまり動き回りたくない浦和に攻撃をさせるとか、攻撃のテンションをあえて下げるとか、浦和の意図をくじく抵抗が必要でしたが、終始浦和がゲームをコントロールしたと言えると思います。

前節のFC東京と対照的な内容のゲームだった、という印象もあります。FC東京は中盤をルーズにしてドリブラーを活かそうとし、浦和は中盤を閉じてその外側で札幌にリスクを突きつけようとしました。FC東京に対して中村選手の攻撃参加が成果を挙げた(仲川選手は攻撃にプライオリティがあり、ブロックに入っていく中村選手を追うことをやめ、そこからアシストが生まれました)一方、浦和に対しては中盤の混雑が増していくだけだったという点でも、対比が印象に残りました。

クラブの成績は、長期的には予算なりのものにならざるを得ないですが、どのような立ち位置のクラブだったとしても、成長を目指すことはできます。札幌に見せてほしいものがあるとすれば、これまでの札幌よりも大きくなっていくために工夫し、それを成し遂げていく姿です。

フットボールクラブに限らないかも知れませんが、成長に必要なものは成功体験でしょう。ひところは稲本選手や河合選手や菊地選手、その次には兵藤選手や石川選手や早坂選手が、そのために貢献してくれたと思います。守り勝つためのひとつのタックルであったり、攻守の入れ替わりを可能にするボールキープであったり、カウンターを潰すカバーだったり。トップリーグに上がり、そこで勝ち点を持ち帰るためのものを彼らはピッチ上で表現し、クラブを次の段階に引き上げてくれました。その役割は、目の前の結果をもたらしてくれる助っ人とはかなり違うものだと思います。

いまの札幌が獲得していくべき成功体験は何でしょうか。ブロックをつくってエラーを誘おうとするチームに対して、その狙い通りに敗れてしまうより、何かしらの抵抗を期待したいところです。小林選手、田中選手のようなプレイヤーには、ディフェンダーの死角をみつけ、精密に狙う、標準以上の能力があるように見えますが、チームとして彼らのタレントを活用できないことに起因する停滞感が、いまの札幌にはあるように感じます。彼らがいてくれたおかげで今までにない結果が出せた、という場面がなかなか生まれていないのです。
小野選手がどうだったかと言えば、ピッチ上で創造性を発揮して、クラブの成功体験に貢献してくれたかといえば、残念ながらそうとは言えなさそうです。しかしそれはどちらかというと、ピッチ上で小野選手の創造性が発揮されるようなシチュエーションを、チームとして表現できていないということです。小林選手や田中選手が、その力を出せているだろうか、という視点でも同じことが言えるのではないかと思います。J1に残留するまでもう一歩のレベルのチームになることが、経験者の力を借りるために必要であるのと同じように、ディフェンダーを動かす創造性が必要になるチームにならなければ、それができる人に活躍してもらえません。

小野選手の引退は、そういう意味で、ある種の不在の象徴に見えました。これまでにないレベルには達したものの、看板だったフットボールの創造性はポテンシャルにとどまり、それがピッチで輝くのは未来へ持ち越しとなります。札幌は変わらなければいけない、というメッセージを体現してくれた人物の退場、野々村社長時代の本当の終焉でもありそうです。次の成長の基調を、誰の力でどのように生み出していくのか。現経営陣にかかる期待は大きいです。おわり。

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