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2024.7.13 J1第23節 北海道コンサドーレ札幌 vs ヴィッセル神戸

札幌のホームゲームです。
札幌は浅野と菅が復帰、両WBに入りました。青木も復帰後初のスターターです。ベンチには長谷川も戻ってきました。
神戸は酒井が負傷離脱。右SBには初瀬が入りました。


プレーエリアの制御

このゲームの両チームは、前線へのダイレクトなボールで前進しようとするという点で共通していました。一方で、ゴールに向かうためのキーとなるプレーについては、札幌は中盤、神戸はディフェンスラインの背後のエリアを使う意図を持っていました。札幌の振る舞いから見ていきます。

札幌は鹿島戦同様に3−2−5の配置でボール保持を開始しますが、このゲームにおいては後方が4−1、3−2であるかに関わらず、中盤を経由するパスはほとんど見られません。前線の鈴木や大森を狙うフィードか、菅と浅野へ届けるサイドチェンジで前進を試みます。

神戸は4-4-2の配置を基本に向き合いますが、スペースを管理するよりは、サイドに出ることを厭わないスタイルです。サイドに立つ菅と浅野には初瀬と本多、中村と髙尾には武藤と広瀬が警戒をすることになり、札幌の配置によってブロックが引き延ばされがちになります。
この構図の中では、山川とマテウス・トゥーレルが周囲から得られるサポートが希薄になります。鈴木と大森の裏への動き出しを許すと、決定機に直結します。神戸のCBに圧力をかけることでブロックを押し下げ、チーム全体の重心を前に進めようとします。

鈴木と大森は神戸のSBとCBの間を目がけて前進し、神戸に後退を強いると、サポートに来た菅や浅野へ戻してチームが前進する時間を作ります。
札幌の基本的な狙いは、大森や鈴木の裏抜けからそのままゴールを脅かすよりも、青木、馬場、大﨑の3人が山口と扇原の周辺で優位に立ち、そこを拠点に神戸ゴールに迫ることだったように見えます。ビルドアップの段階では中盤を迂回するボールを使いつつ、神戸陣内では逆に青木、馬場、大﨑を活用してブロックの内側に脅威をつくろうとしていました。

一方の神戸は、札幌のバックラインの背後でプレーすることで、ダイレクトにゴールを目指します。

キーパーのリスタートの場面では、武藤、大迫、広瀬など前線のプレイヤーへのフィードを使います。本命はキープに長ける大迫のポストプレーですが、ディフェンスの負荷が増すように、中央と両サイド、深いエリアと浅いエリアのターゲットを使い分けて、揺さぶりをかけます。
前線でキープ、またはセカンドボールを確保でき次第、札幌のディフェンダーが背後をケアする準備ができる前に、スルーパスでそのスペースを脅かそうとします。

スルーパスが通ると、ドリブルで持ち運ぶあいだに中央と逆サイドのプレイヤーがゴール前まで移動し、一気にフィニッシュの場面に持ち込みます。ゴール前でも背後を狙うというアイディアは一貫しており、キーパーとディフェンダーの間へ速いボールを送って、先に触れようとします。この間、SBやIHはディフェンスライン手前にポジションをとって、2次攻撃の機会を伺います。
ショートカウンターからも同様の場面の創出を狙い、積極的にプレスに出ます。

神戸は、札幌の重心が低く、ディフェンスの整っていない状況で裏返したいところですが、札幌はその狙いを外す意図を持っていたように見えます。このゲームの札幌にとって一番避けるべきなのは、中盤のどちらつかずの状況で、神戸のアタッカーがスピードアップする状況でしょう。自陣では人数をかけたディフェンスで背後を消し、長いボールが神戸側にこぼれる機会を狙って前進することで、神戸からショートカウンターの機会を奪おうとします。

札幌が機会を絞って前進し、人数をかけた状況で神戸のブロックを中央から崩すことができるか。神戸が、札幌のプレーエリアの制御を決壊させ、背後へ向けてスピードアップする機会を作ることができるか。セカンドボールの奪い合いや、対人のディフェンス強度が行方を左右するゲームになりそうです。

中央を譲らない

ゲームは神戸ペースで始まります。ロングフィードを蹴り合う展開から、セカンドボールを確保した神戸がサイドへのスルーパスで札幌陣内へ進入。ディフェンスの背後へクロスを送り、チャンスを演出します。広瀬、武藤らにシュートチャンスが訪れますが、大﨑がクロスの軌道に入ってカットしたり、シュートがミスになるなど得点には至りません。

10分を過ぎると、札幌が鈴木のドリブルや大森のポストプレーで神戸を押し返し、ゲームをコントロールし始めます。
札幌の攻撃はサイドチェンジやスルーパスがミスになって神戸ボールになることが多くなりますが、神戸はそれによって自陣からのスタートを余儀なくされます。神戸は武藤、大迫、広瀬とターゲットを変えながら出口を探りますが、中村、岡村、髙尾を上まわることができず、セカンドボールの奪い合いでも中央に馬場、大﨑、青木を置く札幌に対して後手にまわります。
重心が高い状態でボールを得た札幌は、青木が時間を作って周囲のプレイヤーが動き出すことで、複数の選択肢を作って攻撃に転じました。鈴木へのスルーパス、菅のオーバーラップの活用、右サイドの大森への展開などで神戸のブロックを動揺させます。

札幌は、青木をサポートする位置にいる大﨑に戻すことで、サイドを変えつつ攻撃をやり直すこともできていました。札幌の攻撃が続くと、神戸はゴール前に人数が余りがちになります。特に山口と扇原は、サイドの対応に出た4バックのギャップを埋めようと、ディフェンスラインまで下がる場面が出てきます。神戸は元々札幌の3人に対して人数が不足がちだったバイタルエリアを管理しきれなくなり、札幌にはここを使う機会が繰り返し生まれます。

札幌が神戸を押し込んでゴールに迫る展開が続きますが、バイタルエリアでボールを受けるところまで持ち込んでも、詰まったシュートが枠外になるなど、決定機までは至らず。スルーパスが流れるなど、攻撃の効率が上がりません。一方の神戸は札幌のビルドアップのミスなどからチャンスはあったものの、長距離のカウンターを強いられ、札幌を押し返すことができません。

36分、札幌が先制します。
大迫へのフィードのセカンドボールを確保した札幌が、鈴木のドリブルで神戸陣内に入ると、青木がキープ。逆サイドの髙尾へ展開します。サイドの浅野が前方を伺う動きで神戸のディフェンスを押し下げると、その手前で鈴木がフリーになりました。髙尾が鈴木へボールを預けると、ターンしようとした鈴木への山口の対応がファウルに。この判定で得たフリーキックを青木が蹴ると、壁に入った大迫と武藤の対応がミスになり、隙間からゴールへ。札幌が1−0とします。

その後も同様の構図が続きますが、神戸が中盤で大迫がスローインを確保し、スルーパスの拠点になる場面が増えます。神戸が意図した攻撃を増やしつつ、凌いだ札幌がリードしてハーフタイムを迎えます。

ダイレクト志向トモダチ

神戸は後半へ向けて交代を実施。山内に代わって佐々木が入ります。札幌に対して押し込む姿勢を持って後半のプレーをスタートしました。

佐々木は山内よりも裏抜けの意識が高く、大迫と横並びのFWのような初期ポジションでプレーしました。対面の大﨑はポジションを下げることになり、札幌は6人のディフェンダーが横並びになることを強いられます。
大﨑を引きつける佐々木のプレーは、中盤で馬場を孤立させる効果がありました。中盤の厚みを失った札幌は、神戸の攻撃を受けた後のセカンドボール回収に問題を抱えるようになり、ボールを得てもクリアに終始するようになります。

神戸が札幌陣内に留まり、クロスを上げる展開が続いた47分、神戸が同点に追いつきます。
札幌の右サイド深いエリアで佐々木のクロス上げ、札幌がクリアした場面から。本多がクリアボールを回収し、佐々木を経由して後方にいた扇原までバックパス。扇原はダイレクトで中央の武藤へ送ります。武藤を追い越す佐々木にスルーパスが通り、クロス。これが岡村、大﨑の頭を越えてファーサイドへ届き、大迫がヘディングで押し込みました。神戸が1−1とします。

同点に追いついた神戸は攻勢を強めます。
浮き球のフィードを頼っていた前半と違い、ディフェンスラインからサイドのプレイヤーへの縦パスを試みるようになります。札幌のディフェンダーの対応があり成功率は高くないものの、ファウルやスローインでプレーエリアを押し上げることができました。

大﨑のプレーエリアが下がった札幌はセカンドボール回収ができなくなったものの、神戸の攻撃を止めた場面から、キーパーのスローやリスタートを素早くすることで対抗します。空洞化した中盤を鈴木や青木がドリブルで持ち上がり、カウンターに転じます。主に左サイドの菅がオーバーラップすることで、シュートまで持ち込みます。72分には田中宏武が対面の本多の背後に抜け出し、逆サイドの菅までボールを届けた場面が生まれ、初瀬のファウルでPKを獲得しますが、これも失敗。得点には至りません。

80分にかけて、両チーム交代を実施。神戸はジェアン・パトリッキ、飯野をWBに置く3-4-2-1、札幌は岡田を左SBに入れ、青木と田中宏武をSHに置く4−4−2に変更し、互いにオープンな展開に備えます。

幅を使うよりも中盤を省略した上下動が多くなった終盤は、青木、田中宏武、長谷川を前に残す配置の札幌が比較的多くのカウンターのチャンスを生み出しますが、得点までは至らず。1−1のドロー決着となりました。

感想

酒井選手を欠く神戸は、攻守にサイドの圧力低下に苦しんでいたように見えました。札幌が中央にリソースを集中して成功した前半でしたが、サイドで菅選手のプレーを先回りされたり、前進手段として前線へのフィードだけでなく、サイドからの縦パスの脅威があれば、サイドでプレーすることが難しくなり、結果として中盤のリソースも活きなかった可能性があります。
また前半立ち上がりの広瀬選手のシュートの場面で、札幌はファーサイドを全くケアできていませんでしたが、そのシュートが枠外になったり、菅野選手のビルドアップのミスが扇原選手のパスミスで決定機にならなかったりもしています。こちらは札幌のディフェンスが頑張った、という話でもありますが、ギリギリでした。ひとつのポジションのローカルな力関係ひとつで、内容も結果も大きく変わっていた可能性があると思います。

話は変わりますが、このゲームの札幌は、鹿島戦で人々を喜ばせた?大﨑選手を経由するビルドアップをほとんど見せませんでした。神戸も拍子抜けだったところはあるのではないでしょうか。山内選手や山口選手のような人たちが中盤でボールを奪って、ショートカウンターに移行しようという目論見を、札幌がロングフィードによってうまく外せていた可能性はありそうです。スペース管理に長けた鹿島に対しては中央を意識させてそこから背後へ抜けていく、人に強く行きたい神戸に対してはブロックを避けて一気に前線を目指す、という使い分けがうまくいったようです。

それから、高い位置で大迫選手や武藤選手のポストプレーを凌いで、ボールを得たあとのプレーには進歩が感じられました。ロングフィードの競り合いで先手を取ったとしても、セカンドボールのコントロールまでセットになっていなければ、結局被カウンターの機会になってしまうところです。青木選手、馬場選手、大﨑選手といったプレイヤーは、岡村選手が競り合った後のボールを中盤でキープし、次の展開を作る能力に長けていて、このゲーム前半の札幌は、そこから大きな利益を得て、スコアも動かすことができました。これも中盤を厚くして神戸に突きつける戦略の成功のひとつでしょう。
一方で、後半開始から60分くらいまでは、後ろ重心になりすぎて中盤の密度が失われ、神戸の思うようにやられてしまいました。鹿島戦同様、もう少しプレーエリアをコントロールできる時間が長ければ、違った展開があったのでしょうが、そこはチームとしての伸びしろなのでしょう。

以前の札幌は背後のスペースをどれだけ晒しても攻撃、後方は個人が守る、といったスタイルでしたが、今シーズンは背後のスペースを晒さず、機をみて前進という振る舞いを身につけようと努力しているように見えます。総じて、プレーエリアのコントロールを志向していると言えると思うのですが、これには個人的には好感を持っています。自陣でスペースを消しきれず逆転を許すところから始まり、先制点が奪えずにプレーエリアが上がったままになり、我慢しきれず失点、という時期があり、今月になってビルドアップでプレスに抵抗したり、相手陣地で中盤に支配権を確立する時間が見えるようにまでなってきた、という進歩も感じます。
今シーズン冒頭に書いた通り、その方針の整備が、経営的な、競技的なデッドラインに間に合うかという点がやはり関心事でしょう。間に合うとよいのですが。おわり。

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