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2024.2.24 J1第1節 アビスパ福岡 vs 北海道コンサドーレ札幌

2024シーズンの開幕戦、福岡のホームゲームです。
札幌は、主力と目される高木、髙尾がメンバー外。青木や駒井もキャンプの中盤を別メニューで過ごし、万全とは言えなさそうです。右WBには横浜FCから加入した近藤が入りました。
福岡も、ドウグラス・グローリ、宮、ナッシム・ベン・カリファなどがメンバーに入っていません。シーズンオフの移籍で山岸、井手口を失ったポジションには、ウェリントン、重見が入ります。


中央突破のプライオリティ

2023シーズンまでの札幌は、ビルドアップの進路を塞がれると迂回路を探す、具体的にはディフェンスライン裏や逆サイドへのロングフィードに活路を見出そうとする傾向がありました。しかしこのゲームでは、最優先の選択肢として福岡の守備網の正面から進入することを、チームで共有していたようです。

駒井、スパチョークが、荒野とともに後方の4人の斜め前に立つことで、福岡の5-4-1ブロックの内側にパス経路を作ります。

福岡のブロックの内側へ入っていく最初のパスは、左CBの位置へ降りた宮澤が担っていました。福岡の2列目4人のマークの意図を読みながら、スパチョーク、中村、荒野などをパスの受け手として選択していきます。

スパチョークへパスが入る場面では、前方にいる小林、菅が次のパスの受け手として予備動作を行っており、宮澤は、この経路が存在するタイミングを見逃さず、前進をスタートさせる役割を担っていました。福岡がこの経路への警戒を怠れば、前線まで一気にボールが到達します。

中央の荒野へのパスの場合も、斜め前方のスパチョーク、さらに小林が待っています。小林を目指す経路がディフェンダーに警戒された場合も、密集の外にいる岡村や駒井が脱出口を確保します。

札幌が中央を進むと、福岡のブロックは内側方向へ密集せざるを得ません。この作用が、札幌のWBに対する圧力を弱めていました。小田と前嶋の注意が、小林に関与しようとする駒井やスパチョークに向くと、対面の近藤と菅が自由になります。

特に右サイドの近藤は、駒井や馬場からのスルーパスや、自ら前にボールを進めることで小田の背後を狙っていました。ここで加速すると福岡を一気に帰陣させることができます。
2023シーズンまでの札幌はビルドアップの中間ゴールとして、WBへパスを到達させようとする傾向がありました。その場合、近藤は小田の視界の中でプレーすることになり、後方からのボールを確保しながらディフェンダーと駆け引きをしなければなりません。実際に、2023シーズンの金子やルーカスはそこからチームを前に進めるために奮闘していました。このゲームでは、中盤のプレイヤーがディフェンスを背負う負担を引き受けていて、近藤の負荷を軽減させています。

対する福岡は、2023シーズンなりの札幌を想定していたでしょうか。
札幌の配置に合わせた5バックは、札幌のロングフィードによる左右の揺さぶりに耐性があります。前方に人数をかけるであろう札幌の攻撃を5-4のブロックで耐え、札幌ゴール側に大きなスペースがあるうちに、勢いを持って進入したいということでしょう。

攻守の入れ替わる場所

ゲームは、中央を持ち上がろうとする札幌を、福岡が繰り返し跳ね返す展開で始まりました。札幌はピッチ中央に連続的にパス経路を作って前進しようとしますが、福岡は駒井、小林、スパチョークなどその到達地点にいるプレイヤーに対して厳しく対応します。札幌の前進が成功し、福岡に帰陣を強いることもありましたが、中盤で攻守が入れ替わり、福岡がカウンターに転じる回数も少なくありません。

しかし、札幌は福岡のカウンターについてはそれほど動揺していなかったように見えます。福岡は奪ったボールを中央にいる前へ預け、そこから岩崎、紺野を前線に走らせるパスを展開しますが、福岡のボール奪取位置が高いためにスペースが十分ではありません。札幌の左サイドでは宮澤、右サイドでは馬場、中央では岡村が準備しており、サイドに送られたボールへアプローチします。この距離が長ければ、ボールを走らせてスピードアップすることで、ディフェンスの対応を困難にさせることができるところですが、ゴールラインが近いためにそれが難しくなります。
札幌は中盤でボールロストをすることは想定していたのでしょう。福岡が欲しいであろう大きなスペースを敢えて与えなかった、と言うことができそうです。

札幌が中央を進んでくることがはっきりしてくると、福岡の対応もより厳しくなり、低い位置へ降りていく駒井、小林、スパチョークへ福岡の3バックが前進して対応する場面も増えていきます。前半の中頃になると、ファウルでゲームが止まりがちになっていきました。

札幌がほとんどシュートまで持ち込めない中、福岡はショートカウンターから何度かゴール前まで入っていきますが、大きなチャンスとはなりません。中盤の密集で時間を作ることができず、前線にプレイヤーに預けて個人的にゴールに向かうプレーが多く、札幌のディフェンスの視界の中でのプレーに終始していました。
スコアレスのままハーフタイムを迎えます。

ゲームのテンションを上げられるか

後半も同じメンバー、同じような展開で始まりますが、札幌が福岡に大きな変化がないことを確認していたのか、早々に交代の動きを見せます。50分には宮澤に代えて鈴木。60分には中村に代えて青木が入ります。近藤にアクシデントが発生したこともあり、同ポジションには浅野が入りました。トップに鈴木、左WB青木、小林、駒井、菅がそれぞれ1列下がる構成です。

札幌はメンバーの変更後も、小林、荒野、駒井の3人が中央よりでプレーし、中盤を譲ろうとはしません。福岡は前、重見の2人での対応を強いられ、主導権は札幌のままです。
ただ、駒井とスパチョークが2列目からポジションを下げて中盤を厚くしていた前半とは異なり、駒井と荒野が中央に留まり、前線にスパチョークと鈴木を残す形で、より前方に人数を偏重させる形に変化します。後方は馬場、岡村、菅が、岩崎、ウェリントン、紺野に対して同数で対応する状況です。

札幌は、交代によってより福岡ゴール側にパワーをかけて押し込んでいくことを意図していたでしょう。実際に、札幌が福岡を押し込む時間は増えていきます。
一方、このシチュエーションは福岡にとって「いつもの札幌」としてゲーム前に想定しやすいものだったと思われます。前掛かりになる札幌の攻撃を受け止め、札幌の後方にあるスペースに岩崎がランニングする場面は、前半よりも多くなっていきました。
ただし、この場面でも札幌に去年からの差分があったように見えたのは、菅のポジションでした。左CBの菅が岡村と同レベル、中央寄りポジションをとって、クリアボールの回収やカウンターに備えます。

以降、両チーム交代でパワーを補充しつつ、札幌が攻め、福岡がロングカウンターに転じる展開が続きますが、得点ならず。スコアレスドローで決着となりました。

感想

J1リーグにおいて、守備能力の水準が一定以上でないアタッカーの地位が、急速に失われつつあるように思えます。前線のポジションのプレイヤーであっても守備に参加させ、ゲームにおけるどの局面も捨てないチームが増えてきた、と言うこともできそうです。一貫してアジリティのあるアタッカーを揃える横浜FMをはじめ、神戸や広島など、ピッチの中央に重心を置くチームが2023シーズンの上位を占めたのも、同じ傾向のように思われます。ピッチの高低に関わらず守ることができ、どこからでも攻撃に移行できるチームは、相手チームに弱点があればそれを突いて得点できます。特別な武器を持っていることよりも、90分のゲームにおいて、あるいは100メートルのピッチにおいて、どこにも穴をつくらない、どこからでも攻撃できる、ということが成績に直結しやすくなってきていると言えると思います。

そんなリーグにあって2020シーズンからの札幌は、前のめりで、はっきりと後ろを捨てるチームでした。リーグの傾向に逆行しながらも (その割に失点も少なく?) それなりの成績を収めることができていましたが、このままであれば長期的には脱落、という運命だったかも知れません。
しかしこのゲームでは、簡単にボールを捨てない姿が見えました。正直なところ、大きな変化を期待していなかったので驚きました。小林選手を追い越す人がいればなあ、と昨シーズンはずっと思っていたのですが、このゲームでは出口役から開放されたWBがピッチ両脇にスタンバイしていますし、駒井選手、スパチョーク選手、荒野選手などがどんどんボールを追い越して、パスを受けていました。まるで別のチームです。

鈴木武蔵選手が出てからはもっと畳みかけたかったのでしょうが、それはうまく行かなかったように見えます。また福岡側へ到達する前にパスが途絶えて、繰り返し福岡のターンになる、というのがこのゲームの状況ではありました。結果としてチャンスが作れていたのか、という視点はあると思いますが、三國選手や奈良選手が中盤まで出て対応することを強いられていたので、福岡としては後がなかったはずです。もうひとつ裏返ったり、遅れたりすれば大きなチャンスになるところまでは到達しており、決して低いクオリティではなかったように見えました。
ビルドアップのミスや中盤で裏返ってからのカウンターはたくさんあり、それをネガティブに捉える向きもあるかも知れませんが、これだけ中央を進んでそういう場面が生まれないほうがおかしいと言えます。札幌がボールロストをする位置をコントロールし始めた、と捉えることのほうが重要だと思います。福岡が苦労したように、札幌のプレイヤーに囲まれた状況からショートカウンターに移行するのは簡単ではないですから、札幌の振る舞いは十分に合理的と言えるでしょう。

このゲームがベースになって、ミシャ監督が言うようにコンディションが上がっていくなら、楽しみです。もしそんなシーズンになったとすると、予想としては、攻守どちらとも言えない時間が増え、無駄に長距離を走らなくなり、結果として失点が減り、一方で得点力に派手さはなくなるのではないでしょうか。時流を得た方向性に乗るということは、アタッカー個人の質や層の厚さが結果を左右しやすくなり、予算なりの順位がより現実的になっていきそうです。
それでも、札幌は走れるMFタイプを揃えてきていますから、スカッドを活かす意味でも中盤の駆け引きに持ち込むのはよいと思います。札幌よりも予算の大きなクラブでも、ピッチ上にまだ穴を残している (守備をしないアタッカーがいたり、重心が低くドリブラーに攻撃を依存していたり) クラブはいくつかあるように見えますから、それらを食って順位を上げていくことは、十分期待できそうだなと思いました。おわり。

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