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2023.9.23 J1第28節 名古屋グランパス vs 北海道コンサドーレ札幌


名古屋のホームゲームです。
札幌は、荒野が出場停止。入れ替わりで戻ってきた駒井と、宮澤がCHに入ります。ルーカスもメンバー外となり、右WBには浅野が入りました。
名古屋は、前田が復帰後初のスターティングメンバーとして2トップの一角に入りました。永井はベンチに控えます。

背後のスペースを消す

名古屋のプランは、5月の札幌でのゲームとは大きく異なっていました。札幌のボール保持に対して5-3-2で向き合う点では同じですが、高い位置でのプレスには消極的で、中央を封鎖しながら自陣ゴール前に下がっていきます。中盤の3人、森島、稲垣、内田も、サイドに立つ田中や中村にアプローチするより、前線から中盤に向けて下がってくる小林やスパチョークをケアしようとしいて、サイド圧縮の意図も見えません。
総じて名古屋は、札幌から裏抜けのスペースを奪う効果を狙っていたと思われます。

5月の名古屋は、札幌のボールホルダーから自由を奪うべく前線から運動量を発揮するディフェンスを行っていました。特に中盤ではマテウス、米本が前向きに強くアプローチして札幌の前進を阻み、高い位置から攻撃へ移行するプランでした。
札幌は前回と同様に、名古屋との中盤の主導権の奪い合いを想定していたのではないかと思います。キープに優れたMFタイプの3人、駒井、小林、スパチョークで名古屋のプレスと向き合い、最終ラインの背後を小柏のランニングで脅かす、というイメージです。

しかし名古屋が自陣の低いエリアに重きをおいたため、小柏がランニングするスペースは消え、札幌はサイドで放置されることになります。同時に名古屋も、前方に大きなスペースを得ることになります。ゲームの攻防は、この札幌ゴール側に広がるスペースを、それぞれのチームがどう活用するかに委ねられることになりました。

サイドのスプリントで前進経路を作る

名古屋はボール保持にやや手数をかけ、サイドから前進しようとします。左右のCBとWBが自陣の深い位置でパスをつなぎ、IHとFWがサポートします。札幌のプレスを引きつけた状態から、札幌のWBの背後へ森下、和泉がスプリントで抜け出します。森下と和泉にパスが通ってボールを運ぶ状況になると、それを合図にチーム全体が重心を上げます。

名古屋は、札幌が前掛かりになっていると見るとロングフィードを使う場面もありましたが、その場合もサイドを狙います。森下や和泉が競り合うか、前田やユンカーがサイドへ流れながらボールキープを試みます。キープが成功した後はやはり縦方向のスプリントで、札幌陣内になだれ込みます。
札幌のWBの背後へストレスをかける、という点で名古屋は一貫していました。

この振る舞いは、早めに自陣へ撤退するディフェンスの動きと整合しています。
ロングフィードで前進するには、セカンドボールを拾うためにディフェンスラインを上げ、中盤の密度を上げる必要があります。背後のスペースを晒した状態では、札幌にもカウンターのチャンスを与えることになり、重心低く守りたい名古屋にとっては好ましくありません。
名古屋は自陣を塞いだ状態でサイドから札幌陣地へ進入し、それが成功してから重心を前に進めることで、被カウンターのリスクを下げようとしました。

名古屋のブロックの外側の攻防

ゲームは概ね名古屋の意図通りに進んでいたように見えます。
思いのほかボールを握る状況になった札幌は、名古屋がアプローチしてこないブロックの両脇を起点にボールを保持しますが、ブロックの内側へアプローチする有効な手段がありません。小林、スパチョークが中盤に降りてパスワークに関与し、1トップの小柏も前進方向にあまりスペースがないため、自陣側を向いたポストプレーが多くなります。狭く守る名古屋に札幌が付き合う形になり、名古屋の狙い通り、パスのズレが名古屋のボール回収につながり、札幌に有効な攻撃をさせません。

名古屋は深い位置でボールを回収すると、左右のサイドでWBを走らせ、札幌陣地へ入っていこうとします。札幌はこれにマンマークで抵抗しますが、和泉や森下の突破を許さないまでもファウルになることが多く、名古屋に前進を許します。
ただ、名古屋も札幌陣地に入ってから単純なクロスで攻撃を終えることが多く、札幌を押し込む時間を長くすることができませんでした。攻撃がすぐに終了して自陣へ撤退、という繰り返しになり、ゲームは両チームの攻撃がサイドまで到達するものの、決定機まで至らずにディフェンスに阻まれる展開で進んでいきます。

後半に入ってからも同様の展開が続いていた50分、名古屋が先制します。
左サイドで札幌からボールを回収した中谷が、逆サイドの高い位置に走り出したユンカーへ対角のロングフィードを通します。スペースを得たユンカーは、キープすると見せかけながら接近してきた中村の背後にボールを流し、入れ替わります。そのままスピードを上げてペネルティエリアまで持ち運び、高木の手前で止まって駆け引きをした上でトーキックでゴールへ流し込みました。
名古屋は人数をかけた攻撃では停滞したものの、前線のユンカー個人の能力を発揮して得点します。

その後も大きな変化なくゲームが進んでいきますが、66分、札幌が同点とします。
宮澤から岡村への横パスがややミスとなり、GK高木から札幌の攻撃がやり直しになります。名古屋はディフェンスの体勢を整えてややラインを上げますが、中央に構えて札幌の出方を観察します。このとき、中央の駒井をケアするように、ユンカーと前田が中央に寄りました。岡村と宮澤の両方がフリーになり、札幌に左右の前進経路が開かれます。
札幌は宮澤を経由して、左サイドから進む選択をします。ここで菅が内側のポジションをとって、宮澤からのパスを受けるプレーをしました。菅を追いかけて森下がポジションを捨てたため、藤井がそのスペースをケアするそぶりを見せます。このことで中谷との間に立つスパチョークがフリーになり、藤井の先手を取ってペナルティーエリアに進入します。スパチョークはペナルティーエリアを少し進んでから中央の小柏へ折り返し、最後は小林が押し込みました。
ゲームを通してスパチョークは中盤でプレーすることが多く、名古屋にとってはブロックの内側へ注意を向けやすい状況がありました。この場面では、スパチョークが菅に押し出される形で名古屋の最終ラインの裏へチャレンジし、藤井の対応が後手にまわり、最終的には中谷がケアしきれない状況から得点が生まれています。

同点になって以降、名古屋は前線のメンバーを変えつつロングフィードで一気に札幌陣地を目指すようになります。ディフェンスが自陣に留まると、中盤の密度が低下してディフェンスの制約がかからず、互いにゴール前に一気に到達するオープンな展開になります。
しかし互いに大きなチャンスを作ることはできず。1−1のままドロー決着となりました。

感想

夏のマーケットで名古屋を去ったマテウス選手は、突出した対人の突破能力と走力を持っていました。少ない人数で攻めきって、そのほかの人で守り切る名古屋のスタイルは、マテウス選手が支えていた面が大きいでしょう。今はもう少し攻撃に人数をかけられるよう、手数をかけて全体を押し上げる方針に変化しているように見えます。札幌は最終ラインのどこかを裏返すと一気に帰陣しますから、リスクの少ないサイドでそれをやり、ボールを持たれたらさっと帰陣するこのゲームの名古屋の振る舞いは、リスクを避けながら実益を得るという観点で、よくデザインされているなと思いました。

同時に、どちらのチームも、相手チームを撤退させるところまでは実現していつつ、撤退した相手に対して攻めあぐねる、という矛盾を抱えているようにも感じます。名古屋が結局ユンカー選手の得点ひとつにとどまったのが象徴的です。チームのプランを実行して相手を押し込んでもなかなか点が動かず、結局はディフェンスの意識の行き届かない瞬間に、カウンターやエラーから得点する、というような傾向です。

これは札幌の今シーズン全体についても、概ねそう言えると思いますが、このゲームの札幌の得点の場面は、菅選手のダイナミックな動きで名古屋のブロックを崩す素晴らしいプレーでした。崩すというのは具体的には、藤井選手と中谷選手が動かなくてはいけない状況を作った、ということです。
菅選手の縦パスを受けて、スパチョーク選手は藤井選手の背後へボールを持った状態で入り込んで行きました。松田浩さんの用語(ポイントポケットD)でいうところの、ポケットへの進入です。これはキーパーが出ることができない、かといってディフェンスとして放置するわけにもいかない、対処が難しいエリアです。サッカーはオフサイドのルールがあるので、ここに最初から立っていることができないので、パスにタイミングを合わせて入っていくことが必要になります。なので即興的に再現することはかなり難しいプレーだと思います。最盛期の川崎くらいしか、ここで再現性をもって脅威を作れていたチームはないかも知れませんが、それができたときの効果は大きなものです。

この場面は良かったものの、そういう意味で札幌もまた、狭い状況から再現性をもってディフェンスの裏に入っていくことができているかというと、そうとは言えなさそうです。現場の即興によってときどき実現している、というのが実情でしょう。右サイドでは田中選手が度々トライしていると思うのですが、おそらく個人的な判断によるもので、持ち場から離れてそんなに頻繁にできるものでもないでしょう。
小柏選手、浅野選手、スパチョーク選手と、裏抜けのタスクを与えられて、組織的にサポートされれば結果を出せそうな選手はチームに何名もいるように思えます。またそこにパスを出せる、小林選手や宮澤選手、田中選手のようなMFタイプもいます。前線に人数がかかった状況を作ったあと、どうするのか。チームとしてもう少しできることがありそうに見えます。小林選手がインタビューに不機嫌に答えてしまうのも、故なきことではないように感じました。おわり。

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