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2024.4.6 J1第7節 北海道コンサドーレ札幌 vs ガンバ大阪

札幌のホームゲームです。
札幌は、G大阪から期限付き移籍中の鈴木が出場できず、大森が今シーズン初めてトップに入ります。近藤がスターターに復帰し、左WBに入りました。前節左WBの菅は、一列下げて左CBです。
G大阪は、5連戦の3ゲーム目に当たるこのゲームにフレッシュなメンバーで臨みます。トップのイッサム・ジェバリ、左WGの倉田、右WGの食野、左SBの中野はそれぞれ今シーズン初、OHの坂本は開幕ゲーム以来のスターターです。前節途中退場したファン・アラーノはメンバー外になりました。


「4-1-2-3」の札幌

今シーズンの札幌は、さまざまな面でゲームを落ち着かせるトライをしているように見えます。このゲームでもいくつかその方針によると思われる振る舞いが見られました。攻撃時 4-1-5 と説明される札幌ですが、このゲームにおいては 4−1−2−3 と言える配置でした。前線5人ではなく、前線3人+中盤3人としてそれぞれのプレイヤーのタスクを考えます。
WB の浅野と近藤はピッチ幅に立ち、WGに相当する振る舞いでG大阪の4バックと向き合います。駒井と小林は 3-4-2-1 の2列目ではなく、4−1−2-3 のIHとして、前線を中盤から支える役割を担います。

この配置からは、札幌の守備における狙いがいくつか読み取れます。まず中盤に3人を置くG大阪の配置に対して、中盤の攻防で人数不足になりません。また、WG化したWBが幅を表現することで、G大阪の4バックに対して3人で圧力をかけることができます。後方に一人を余らせることができ、この点でも守備におけるメリットが感じられます。

昨シーズンまでの札幌は、「5人の前線」がカウンターの場面でディフェンスに貢献できる可能性は低く、1人しかいない中盤を自由に使われる傾向がありました。守備タスクを持った中盤のプレイヤーがいる、という点で、今シーズンは大きく方向を変えてきているようです。一方、ビルドアップにおいては以前より、下がって後方をサポートするタスクが2列目のプレイヤーに与えられていたので、大きな変化はありません。
全体として、ボールを保持しながら前進するためにも、ボールロストからG大阪の前進を遅らせるためにも、中盤を充実させて対応することが札幌の狙いでしょう。ゲームを落ち着かせながらチャンスを伺います。

一方のG大阪は、背後を隠しながら札幌のエラーを待つ方針です。イッサム・ジェバリへのロングフィードでリスクなく前進し、札幌ゴール前のスペースを脅かそうとします。

坂本はマークを引き連れてイッサム・ジェバリの競り合う空間を作り、次のプレーに備えます。ボールを確保すると、倉田がオフサイドラインの高さで待っており、中盤からのスルーパスに反応します。馬場が倉田に対して後手を踏む状況から、その優位性をゴール前まで持ち込むことを狙います。

G大阪は札幌のボール保持の状況でも同じアイディアで、プレスからエラーを誘発し、一気にショートカウンターへの移行を狙います。いずれにしても、ボールを持って前進するよりも、イーブンな状況または札幌のボール保持からトランジションの機会を伺います。

リスク管理

ゲームは、両ゴール前までボールが到達しない、膠着した展開で始まりました。G大阪が札幌のビルドアップを繰り返し阻止し、ショートカウンターへ移行しようとしますが、後方に人数を残した札幌に阻まれて、ボールは中盤に留まりがちになります。

G大阪のプレスは札幌のビルドアップを完全に閉塞できず、途中まで札幌の前進を許すような形になっていました。駒井と小林を中盤と見なすと、札幌は中盤より後方に7人を置くことになり、G大阪の4バックを除く6人では不足します。結果として、荒野に対して坂本、鈴木、ダワンのうち誰が対応するか、曖昧さを生じていました。
しかし札幌は人数の優位性を活かして前進するのではなく、G大阪のプレスに捕まり切らないエリアを拠点に、小林や大森へのフィードを蹴って前を伺います。そのため、札幌陣地全体の配置的な状況とはあまり関係なく、G大阪は札幌の出口を担う小林や大森への対人守備によって、札幌の前進を阻止することができていました。G大阪の後方では人数の関係が逆転しており、札幌が数の優位性を自ら捨てるような格好になります。

札幌の攻撃機会が少なかったわけではありません。ただしそれはビルドアップからではなく、G大阪の攻撃を裏返す場面から始まっていました。札幌はイッサム・ジェバリへのフィードのセカンドボールを回収したり、裏へ抜けようとする倉田からボールを奪うと、重心が高い状態からボール保持へ移行することができていました。

札幌はハーウフェーラインを超えるとWBまでボールを届けようとしますが、そこから一気にゴール前を目指そうとはせず、WBが対面のSBを突破できるかどうか、見極めるような振る舞いをします。
駒井は、近藤がボールを得て福岡と対峙しても、追い越そうとしません。ダワンが福岡をサポートするため、近藤がボールを運べる先は縦方向に限られます。当然、福岡は縦突破に備えており、近藤が単独で突破するのは容易ではありません。

ボールホルダーをサポートしない札幌は、その後の状況にフォーカスしていたと考えることができそうです。
福岡がサイドの深い位置でボールを奪い返したとして、その手前には駒井、荒野、小林が構えており、前方にパスの選択肢はありません。大きなキックで前線まで送っても、チームの重心が低い状態ではゴールまでの距離が長く、イッサム・ジェバリや坂本の特性に合いません。自陣であまりリスクをとりたくないG大阪にとっては不本意な状況と言えます。
一方、近藤がサイドを突破した場合には、さらに全体を押し上げてゴールに迫ろうという構えだったのでしょう。しかし完全に止まった状況を動かすのは簡単ではなく、その機会は多くは訪れません。

札幌、G大阪いずれも後方に人数を残しがちで、前半を通して膠着した状態が続きますが、札幌のビルドアップのミスや、ファウルからG大阪に比較的多くのチャンスが生まれます。30分のイッサム・ジェバリのフリーキックはポスト、続くコーナーキックからファーサイドでフリーになった福岡がボレーで押し込みますが、オフサイド。0−0のままハーフタイムを迎えます。

メンバー交代がダイナミズムを回復する

後半はG大阪のプレスが活性化し、ショートカウンターから攻撃機会を作ります。勢いよく攻め込むと札幌のビルドアップも押し返し、札幌ゴール前に迫る場面を増やしました。53分には菅を背負った食野がターン、坂本へスルーパスを通して札幌ディフェンスを裏返します。坂本、イッサム・ジェバリの連続シュートに持ち込みますが、いずれも札幌がブロックで凌ぎゴールには至りません。

最初の10分の劣勢を凌いだ札幌は、前半までに見られなかったG大阪ゴール前へ人数をかける場面を増やします。サイドチェンジなどで時間をつくると、荒野、宮澤ら中盤のプレイヤーが前線のプレーに関与し、チャンスを演出します。
63分には荒野のミドルシュートがクロスバーを叩くなど、ゴールに迫る場面も訪れますが、こちらもゴールならず。

60分を過ぎると、何度か交代が実施されます。両チームともミッドウィークにゲームを行っており、60分頃までリスクを回避しながら時間を進め、残り30分でゲームを動かそうという意図があったでしょう。
札幌は大森、小林、近藤に代えて、長谷川、青木、髙尾。菅を1列上げてWBに、右CBの馬場を左CBに、駒井を1列上げてトップに、それぞれ変更します。
G大阪は前線の食野、イッサム・ジェバリ、坂本、倉田を全員下げ、ウェルトン、宇佐美、石毛、黒川を入れます。中野が左WGに移動し、黒川が左SBに入ります。

札幌は、交代によって中盤を経由するプレーが活性化します。長谷川がディフェンスを背負った状態でパスを受けながら、ドリブルによる前進を試みます。主に鈴木が対応することになりますが、ドリブルのコースが見えると、背後にいる黒川は突破のリスクをケアせざるを得ません。それによって浅野は黒川の圧力を逃れ、背後への動き出しや、その動きをキャンセルしたところから逆サイドへの展開する機会を得ました。札幌が右サイドの高い位置に、その先まで攻め込むための拠点を確保します。

逆サイドでも、より高い位置で青木が時間を作ります。ペナルティエリアの角付近でボールを受けると、鋭い方向転換とドリブルで時間を作ります。対面の福岡が飛び込めずにいると、G大阪のブロックが内側に圧縮され、その外側に菅、馬場がプレーする空間が生まれます。札幌はここを退避先とすることでプレーをやり直すことができ、ボール保持の時間を増やしていきました。

G大阪は札幌に押し込まれる状況になったものの、交代によって前線に機動力を得ており、むしろ裏返したときにゴールを脅かす可能性は増したと感じていたかも知れません。石毛、ダワンによるセカンドボールの回収と、ウェルトンによるドリブル突破に期待して、そのエリアへ繰り返しフィードするようになります。
また、イッサム・ジェバリへのロングフィードは岡村に対応されがちでしたが、ダワンや石毛を1列手前に置いてターゲットにすることで、岡村を避けてフィードすることもできるようになりました。

両チームがゲームを動かそうとし始めた74分、先制したのは札幌でした。
G大阪がコーナーキックからのチャンスを逸すると、札幌ゴールキックで再開。髙尾がヘディングで前方へ流したボールを長谷川が収め、ドリブルで持ち上がると、札幌は左右のサイドに大きくボールを動かすポゼッションへ移行します。G大阪ブロックをゴール前に押し込むと、最後は右サイドから長谷川の上げたクロスに、ファーサイドで宮澤がヘディングで合わせました。

ビハインドになったG大阪は、左サイドに移ったウェルトンのドリブル突破からチャンスを作ります。80分には黒川がオーバーラップし、折り返しがオウンゴールになったかに見えましたが、オフサイド。
逃げ切りが見えてきた札幌は、ボールを得ても簡単にはゴール前には向かいません。G大阪の攻撃の開始位置を低くするようにポゼッションし、時間を進めます。札幌が1−0で逃げ切り、勝利しました。

感想

ボールの失い方をコントロールするという意味で、札幌が今シーズントライしていることを表現したゲームになったのではないでしょうか。
近藤選手が単独でドリブル突破を試みていた前半から一転、60分前後には明らかに前線に関わる人数を増やしています。得点になりませんでしたが、ブロックの周囲でボールを移動させながら、再び左サイドに持ち込んで近藤選手にフリーでプレーさせる場面が何度かありました。人数をかけられる状況が生まれるまでむやみに高い位置をとらない、と書くと当たり前のようですが、昨シーズンまでの札幌にとってそれは、当たり前ではありませんでした。この選択をするということ自体が、札幌においては失い方のコントロールを始めたということと同義です。「とにかく前に出てくる札幌」ではない時間帯があるということは、ディフェンスを動揺させるという意味で、攻撃面のメリットもありそうです。

観ていて意外だったのは、名古屋戦ではWBの菅選手や浅野選手が内側へ入っていく動きを見せ、その外側を中村選手や馬場選手がサポートしていたのですが、このゲームではそうできそうな場面でも、ほとんどその選択がなかったということです。
駒井選手や小林選手が関わろうとせず、中盤に留まっているのを観て、前のゲームではできていたのに、今日はどうしてこんなに消極的なのだろう、疲れているのかなと思ったのですが、あまりにも徹底しているので、意図的にやっている可能性を考え直しました。

それを理由づけるひとつには、まだその時間ではない、という判断があり得そうです。G大阪が中盤からWGを走らせるパスを出そうとしているときに、その起点を留守にするのではなく、駒井選手や小林選手を置いて妨害する、それで一定の時間を過ごそう、ということです。昨シーズンまでは考えづらかった振る舞いですが、今シーズンを見ていると、G大阪の狙いを阻害するところから入って、体力を削るであるとか、選手交代からの活性化で流れを変える、といった意図はあってもおかしくないと思えます。

もうひとつは、G大阪とのかみ合わせ上SBが上がるメリットが小さい、という可能性です。名古屋戦は 3-4-2-1 同士だったので、札幌のWBが内側の位置をとるということは、名古屋のWBを不本意なポジションに押し込むことにつながります。札幌のSBが高い位置をとると、名古屋の2列目の選手をピッチの外側方向へ連れ出す圧力を作ることもできます。
ですが 4-2-3-1 のG大阪に対してSBを突きつけたとしても、対面のWGは元々サイドを拠点にしているので、それほど不本意ではなさそうです。名古屋に対しては、SBの中村選手が5トップの1角までポジションを上げ、WBの菅選手がハーフレーンに入るローテーションを行っていましたが、そうなると中盤に残るのは元々2列目にいた駒井選手だけになります。これをG大阪に当てはめると、食野選手のカウンターに駒井選手が対応するということになり、それは現実的ではありません。

このふたつを理由に、駒井選手と小林選手をあえて中盤に留める、ということができるようになったとすれば、札幌にとっては大きな進歩かも知れません。

開幕ゲームで「もしそんなシーズンになったとすると、予想としては、攻守どちらとも言えない時間が増え、無駄に長距離を走らなくなり、結果として失点が減り、一方で得点力に派手さはなくなるのではないでしょうか。」と書いたのですが、攻守どちらとも言えない時間を作るという点において、思った以上だったのかも知れません。このゲームの前半を観ていて、正直なところ、なんでWBをサポートしないんだ!と思ってしまったのは、イケイケの札幌に慣れすぎてしまっていたから、ということです。大きな変化が起こっているかも知れないので、早とちりせず、見守って行きたいと思います。おわり。

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