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2022.4.6 J1第7節 サガン鳥栖 vs 北海道コンサドーレ札幌

第6節から中3日の連戦です。札幌が鳥栖のホームに乗り込みます。札幌は興梠、ガブリエルシャビエルがメンバーに戻り、荒野が出場停止。
鳥栖は、中野、本田、藤田らがスターティングメンバーに入りました。契約上出場できない岩崎のポジション以外は、札幌対策としての2トップ1アンカーのタスクに適したプレイヤーが選ばれた結果のようです。

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札幌の振る舞いに対する鳥栖の準備

川井監督や鳥栖のプレイヤーのコメントからも、ピッチ上のプレーからも、鳥栖は札幌の予想される振る舞い(それ自体はリーグ全体に知られたもの)に対して正攻法を用意し、迷いなく実行していたように見えました。

鳥栖は札幌のボール保持(4−1−5のプレイヤー配置)に対して、人を基準にしたディフェンスを行い、札幌を札幌陣地に押し込もうとします。2トップとアンカーの藤田の3人は、札幌の最終ラインの宮澤、高嶺、深井に張り付いて後ろ向きにプレーさせます。前向きにボールを扱えるのはキーパー菅野だけです。その菅野がサイドに立つ田中や福森に逃げるパスを出そうとすると、小泉と福田がアプローチをする準備をしていて、ボールが移動している間にスペースを奪います。長いボールで前線の5人のプレイヤーを狙っても、全てマークを背負った状態です。

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ボール保持においては、札幌の人を基準にした守備を混乱させる動きがありました。
このゲームの鳥栖は、通常は1トップの前線に垣田と本田の2枚を置きました。札幌は3バックで2トップに対処する関係上、1人余ります。誰かが中盤に出て行ってマークをしなければ、ピッチ全体のどこかでマークのない関係が生まれてしまいます。札幌から見ると「CBが動かされた状態」から鳥栖のボール保持局面がスタートするということです。

WBの中野やジエゴが、センターライン付近からプレーをスタートすることも、札幌のCBにプレッシャーを与えます。対面の菅やルーカスが引き出された状態になるため、札幌の左右のCBはその後方をカバーするか、そのスペースを空けてでも数的不利の中盤をサポートしに出ていくか、迷う要素が増えます。

さらに、小泉、藤田、福田の3人がポジションを入れ替えます。仮に、田中と福森が深井と鳥栖の中盤3人を捕まえる、と決断できたとしても、サイドや後方に逃げていく動きに対してマンマークの関係を維持することが難しくなります。
これは過去にも横浜FMや鳥栖、大分などが採用して札幌を苦しめたことがあるパターンです。札幌は2トップに対して3バックが余りやすく、中盤に3人いると捕まえきれない傾向があり、このゲームでも同様でした。ゲームを通して札幌のディフェンスはほぼ機能せず、鳥栖が自由にプレーしたと言えると思います。

消極的な札幌

少し構えようとしていた、という札幌側のゲーム後のコメントがありましたが、鳥栖のボール保持局面で、札幌は鳥栖の最終ラインまでアプローチしようとしません。3バックとキーパーの朴がボールを扱い、WBの中野やジエゴへパスを通すことは容易でした。

先述のように、鳥栖は札幌のCBとWBを引き出す仕組みを持っていて、その背後に大きなスペースが生まれます。鳥栖のプレイヤーはボールを受けると積極的に角度を変えたり、小さなドリブルを使って対面の札幌のプレイヤーにストレスを与えながら(これは、その背後にいる札幌のプレイヤーにカバーを意識させることに効果がありそうです)、最終的にはスペースへランニングして札幌のサイドに侵入していきます。

札幌は鳥栖との走り合いを不利と見て、重心低くゲームを展開させようとしますが、鳥栖をゴール前に引き入れるだけで、特に効果的に跳ね返すということはできませんでした。ゲームを通して鳥栖が札幌を圧倒し続け、札幌がこれでもかというくらいさまざまな方法で破綻して失点を重ねていきます。

1得点目は前半の早い段階で生まれました。札幌が自陣に押し込まれる中で興梠がキープに成功し、福森と菅は高い位置を取ります。興梠からのパスを中野が前向きに奪取すると、引き出したCBとWBの背後を福田と中野がアタックする、このゲームの鳥栖の狙いの見本のようなカウンターの場面が生まれます。中野と福田のどちらの対応に行けば良いのか困っている福森、カバーしに向かうが間に合わない高嶺、後ろ向きに走りながら状況を傍観するしかない菅、と札幌のディフェンスの混乱ぶりはこのゲームを象徴するようでした。中野からフリーで上げられたクロスを本田がヘディングで押し込み、鳥栖が先制します。

2点目は左サイドで鳥栖がジエゴ、小泉、中野がローテーションしながらキープし、札幌がなんとかスローインに逃れた場面から。ロングスローでゴール前の混戦が生まれ、垣田のシュートを許して失点。

3点目は5バックのセットディフェンスに近い場面からでした。ジエゴが背後へランニング、走り勝ってスルーパスを折り返すと、垣田がディフェンスの前で触って追加点。札幌は鳥栖の動き出しに反応できず、スルーパスの出どころにも圧力をかけられません。

4点目は右サイドのクロスに、中央でなぜかマークを背負っていない中野が悠々と合わせます。

5点目は藤田の素晴らしいフリーキックが直接決まります。このフリーキックは中央に走りこむ中野への反応が遅れ、後ろから追いかける状況になったガブリエルシャビエルのファウルによって生まれています。

前半のうちはゴール前を固めて守る札幌がカウンターからの1失点に抑えた、ともいえる展開でしたが、後半になってゲームの状況がそのままスコアに反映され、5-0で鳥栖が勝利しました。

感想

ミシャ監督や福森選手のゲーム後のコメントを読むと、正直、コンディションが悪かったことが敗因だと考えているように感じました。実際、長期に渡って練習ができないプレイヤーが出ることの影響は大きかったのでしょう。興梠選手のチャンスの場面なんかは、いつものキレじゃないなと感じます。

しかしコンディションは大敗の理由のひとつかも知れませんが、そうでなくても鳥栖は運動量を売りにしているチームですから、通常の札幌なら走り勝てたはずとも言えません。鳥栖は戦術的にも攻守に優位に立つための工夫に満ちていましたから、仮に連戦でなく感染症もなかったとしても、苦戦は必死だったように思います。逆に言えば、プレイヤー個人の頑張りやクオリティで担保していたものがこのゲームでは総崩れになって、構造的な弱点が次々露出したようにも見えました。

鳥栖に押し込められた状況を、札幌のプレイヤーが皆嫌がっているのが感じられました。鳥栖のゴールに近づきたい、と思っているのがバレバレですから、鳥栖はその勢いを利用することができます。鳥栖が前から来るなら、それを受け止めて疲れるのを待つよ、少ないチャンスを決めちゃうよ、となれば嫌なはずなんですが。
札幌をゴール前から遠ざければ怖くない、遠ざけられてしまったら何もできない、という状況が、当の札幌のスタンスの頑なさから生じているのは明らかです。プレーエリアにしても、ボール保持、非保持の局面にしても、どこかを捨てるという選択に相手チームも付き合ってくれるわけではない。リーグが進歩する中で、札幌も考え方を調整するべき時期に来ているように思います。おわり。

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