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2023.9.30 J1第29節 北海道コンサドーレ札幌 vs 柏レイソル


札幌のホームゲームです。
札幌は主力のうち岡村、荒野、宮澤が出場停止。馬場も代表の活動でチームを離れています。中央のCBを中村、左のCBを菅がそれぞれ担い、CHは駒井と福森のコンビになりました。一方前節欠場したルーカスが復帰して左WBに入っています。
柏は出場停止明けの片山が右SBに戻り、万全のようです。

ゴール前の蓋を動かしたくない

今シーズン序盤苦しんだ柏は、守備からチームを立て直しつつあります。一方の札幌は、出場停止等でDFが揃わない状況で、このゲームに向けては失点のリスクにに対してかなり慎重に入ったようです。両チームともに、ゴール前にいるべきDFができるだけそのポジションを守れるように意図していたように見えました。

札幌は、CHの福森と駒井が実質最終ラインのように振る舞い、中村を含めた3人がゴール前に留まります。通常この3人は、DFのポジションにいながら攻撃的なタスクも担うことが多いと思いますが、このゲームではあまりリスクの大きな動きは見せません。このあたりはDFが不足しているチーム事情を反映しているように思われます。

札幌は「中盤」の駒井を経由せずに、福森や中村からのロングフィードで柏のDFの背後を狙っていました。特に、ジエゴと古賀の裏へ小柏や浅野を走らせます。
柏の攻撃のキーマンになるマテウス・サヴィオやジエゴを自陣から遠ざけ、中盤のディフェンスからショートカウンターへ移行しようとする柏の意図を回避することで、不安のある自陣ゴール前でリスクが生じないようにしていたように見えました。

一方の柏も、重心を低く保ったままロングフィードで前進を試みます。ただし札幌のようにスペースに走るのではなく、細谷や山田康太のポストプレーを狙っていました。
そして、セカンドボールを拾うためにはディフェンスラインを押し上げて、ボールの落下地点の密度を高める必要がありますが、このゲームの柏は敢えてそれをしなかったようです。広くポジショニングすることで札幌のマンマークを操作し、前線のアタッカーが活動するためのスペースを作ろうとしていたように見えます。

ジエゴのアタックで動き出す

両チームが自陣にDFを残したままロングフィードで前進を試みるということは、中盤の駆け引きを省略する傾向を生みます。しかし一気にスペースを使おうとする札幌に対して、柏はポストプレーを成功させると人数をかけた攻撃へ移行し、札幌のDFを動かす駆け引きや、2次攻撃の選択肢をより多く持っていたように見えます。

前線の動きを主導していたのは、細谷とマテウス・サヴィオです。マテウス・サヴィオはポストプレーが成功するとみると、初期ポジションから離れて積極的にボールに関与します。同時に山田康太、山田雄士は、細谷とマテウス・サヴィオのプレーしないエリアへ走り込み、札幌のDFを攪乱します。この役割分担によって、柏のアタッカーは前線のスペースを広く使いながら、DFから予測しづらい動きを表現することができていました。

柏の前線でボールが安定すると、さらにジエゴがポジションを上げて攻撃参加し、厚みをもたらします。
このとき、マテウス・サヴィオはゴール前にポジショニングをして、ジエゴのプレーするスペースを広く確保します。ジエゴはクロスよりも、対面のDFに仕掛けることに積極的で、ボールが止まった状況からでも動きを作ることができます。この突破の可能性を見せることで、内側にいる他のアタッカーがゴール前で動き出す時間を作っていました。

人を基準に守ろうとする札幌のディフェンダーにとっては非常に難しい状況が生まれます。ジエゴのいる右サイドのボールの状況を把握しながら、4人いる柏のアタッカーの動きについていかなければならず、対応が後手になりがちです。

中盤を使う意志

ゲームは、ロングフィードからポストプレーを成功させた柏のチャンスで幕開けします。前線のアタッカーが狭いエリアで関与して細谷のシュートを演出しており、このゲームの柏の狙いを体現するような場面がさっそく生まれました。

札幌は柏の背後を狙う狙いを見せるものの、柏も重心低く構えており、簡単に自陣側でスペースを晒すようなことはしません。サイドチェンジによって柏のブロックを動揺させようともしますが、ロングレンジのパスが空中を移動する時間でスライドが間に合うため、活路にはなりません。柏のサイドを担うマテウス・サヴィオ、ジエゴ、片山、山田雄士の4人は運動量があり、対人にも強さを見せます。

札幌は前進に苦労しますが、その要因は柏のディフェンスの強度というよりも、中央のエリアに選択肢を作ることができなかったことにあるように見えました。ディフェンスに比重を置く駒井のポジションが低く、高嶺や椎橋に負担をかけるような位置でプレーする人が誰もいません。このことで、柏はブロックは内側を気にせず、外側方向に圧力をかけることに集中できる状況がありました。

主導権をもってゲームを進める柏が2点を先行します。
21分、札幌のサイドチェンジが短くなったところを柏が回収、マテウス・サヴィオのスルーパスに抜け出した細谷が決めます。札幌は避けたかったはずのショートカウンターで先制されました。
38分には中盤で山田康太が持ち運んで時間を作ると、サイドのジエゴへ通します。ジエゴからのクロスをマテウス・サヴィオがスルーすると、ゴール前で待つ細谷まで到達。トラップから素早くシュートに持ち込み、リードを2点に広げます。
ここ数年の札幌は、ディフェンス時に中盤にフィルターを置くことを重視しないことで知られていますが、このゲームではいつにも増して、消極的だったように見えます。山田康太のドリブルにトライするディフェンダーがいないまま、みすみす柏のキーマンへボールを渡してしまいます。0-2で柏がリードしてハーフタイムにはいります。

ビハインドの札幌は、ハーフタイムに中盤の使い方について変更を共有したように見えました。後半からは小林と福森が中盤に進出するようになります。
中盤のエリアを経由すると、柏のブロックを収縮させることができます。サイドにいるマテウス・サヴィオやジエゴは中央のサポートを一度意識した後で、サイドに出るパスにリアクションを強いられるため、負担が増加します。これによって、浅野選手のドリブルをジエゴが追いかける状況が繰り返し生まれることになりました。

柏のブロックを動かすダイナミックな経路が作られると、それをおとりにサイドチェンジも活きるようになります。浅野選手がキープした状況では、ブロックの逆サイドのルーカス選手がフリーになります。また左サイドにボールが到達するまでの時間で、左CBの菅選手がポジションを上げて、攻撃に関与するようにもなっていました。

51分、主導権を取り戻した札幌が早々に1点を返します。右サイドのペナルティエリア近くのエリアで、浅野をディフェンスラインの裏へ走らせる浮き球のパスが小林から通ります。浅野はディフェンスを振り切って前に出るものの、キーパーに寄せられて十分なシュートができませんが、こぼれたボールをスパチョークが押し込みました。
札幌が中盤を経由できるようになった結果、菅が高い位置まで上がったり、ルーカスやスパチョークがゴールに関与できるポジションに入る時間が生まれ、ゴールに結びつきました。

駒井のポジションを低く保ったまま、小林や福森の移動で中盤を使うことができるようになったかに見えた札幌ですが、リードする柏は、札幌に使われつつあるスペースを埋めるように変化していきます。前線の選手を入れ替えてプレスの強度を維持しながら、前進しようとする札幌の経路を塞ぎました。
後退した柏に対して札幌の攻撃はトーンダウン。元気なく柏の逃げ切りを許し、1−2で柏が勝利しました。

感想

札幌は2失点していますが、札幌の作る攻撃の筋に対して柏が困ってない、という問題のほうが印象に残るゲームでした。駒井選手の空けた中盤のスペースに小林選手が入ってくるようになってからは、5-1-4のような形で好転したのですが、これは前線の人数を削った形です。柏の4バックはむしろマークを決めやすくなったところがあるでしょう。菅選手の攻撃参加でそれを補う場面もありましたが、それもブロックの外側の話。柏は中盤に集中することで乗り切れる感覚で守っていたように見えました。
6月の対戦時にはディフェンスのローカルな強度に問題を抱えていて、札幌の攻撃意図が見え見えでも抑えられない印象だった柏は、マテウス・サヴィオ選手とジエゴ選手の揃っていると別ものだなと感じました。ちゃんと守ることができるので、その人たちに何か別の負担を強いるように工夫しないと、簡単には突破させてくれません。彼らは攻撃では脅威になれる人たちでもあり、突破できずにいれば逆に攻撃で仕事をされてしまいます。結果、その通りのゲーム展開になりました。

駒井選手がゲームを通して守備的に振る舞っているのも印象的でした。ディフェンスのブロックの中間地点でターン、というプレーは駒井選手の十八番でしょうから、誰も味方のいない中盤をみて、それをしたいなあという気持ちはあったのではないかと思います。それ以上にこのゲームは緊急事態で、自分が攻撃に貢献するよりも、最終ラインを割られないように気をつけていた、ということなのではないかと思います。
ただ結果的には、中村選手のサイドチェンジが引っかかると誰もいない中盤でマテウス・サヴィオ選手に制約をかけられませんでしたし、山田選手にも持ち上がられたところから失点しています。引いて構えてもその手前で制約がかからなければ、守れない場面が出てくるのは仕方のないところでしょう。駒井選手が真ん中にいないときに、どう全体のバランスを取るのかというチームが共有するイメージによって、中央を経由した前進も、守備に移行したときの中盤のスクリーンも、強度がまるで違ってくるということだと思います。

個人の力関係によってどうしようもなく局面が壊れてしまうことはあると思うのですが、最近の札幌については、チームとして状況に対応する柔軟性や、気の利いたプレーを各個人が出せなくなってきているような印象があります。小林選手が中央にポジショニングできるようにチームでサポートすれば、多少混雑していても何もできないということはないでしょうし、ちゃんと中央にクッションがあればカウンターも減速させられますし、中央があると相手チームに意識させられればルーカス選手も浅野選手もサイドで勝算が出てきます。
長期にわたって結果が出ていないことで、持っている引き出しが開けなくなっている、個人の持っている能力がうまく出せなくなっている状況はあるのではないかなと感じました。逆に言えば、チームとしてやりようは残っていて、それほど悲観すべき状況でもないように思います。おわり。

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