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2023.7.8 J1第20節 アビスパ福岡 vs 北海道コンサドーレ札幌

福岡のホームゲームです。
札幌は、左CBを菅から中村に変更。青木がベンチに戻ってきています。
福岡は、紺野が前節負傷でメンバー外。右SHには佐藤が入りました。また湯澤をベンチに置いて、右SBに小田がまわっています。


札幌のWBを隠す

福岡は、札幌のサイドからの前進を阻止して、迂回させようというプランを共有していたようです。自陣にスペースがある状態で札幌のWBがドリブルでスピードアップすると、ディフェンスとしては対応が難しくなる。時間を作って帰陣することで、札幌の前方のスペースを奪った状態で攻撃を受け止めようということでしょう。

福岡は、札幌が左右どちらかのサイドのプレイヤーまでボールを移動させると、4−4−2のブロックをスライドして、地上のパス経路を封じます。2トップは札幌のCB間の横パス、CHの井手口と前は中央にいる荒野と駒井、SBとSHはサイドの縦のパス経路を警戒します。

WBまでボールが渡ると、SHがプレスバックして縦、横のドリブルの経路を塞ぎます。このときSB化した札幌プレイヤーはフリーになりますが、ここへのバックパスは許容していたようです。

さらに福岡は、前進経路を塞がれた札幌が後方にボールを戻したところから、逆サイドへ展開するところまでを想定していたように見えます。SHはバックパスを見ると、プレスバックした位置から再びボールホルダーへアプローチしていきますが、これは札幌のWBとSBの縦関係にストレスを与えようとするだけで、そこで奪いきろうという意図には見えませんでした。むしろSBのプレー時間を限定することで、読みやすいタイミングで札幌にサイドチェンジをさせようとしていたようです。
札幌のサイドチェンジが予測できる状況になると、福岡はブロック全体で素早くスライドします。特に逆サイドのSBは落下地点へ素早く寄せていきます。

福岡は、札幌が金子のドリブルで加速して一気にゴール前に到達し、浅野のスピードや、スパチョークの切り返しからのシュートでDFが振り切られる場面を、避けようとしていたのでしょう。札幌のサイドチェンジそのものや、時間をかけた攻撃については、あまり脅威ではないという評価のようです。

山岸を起点にした攻撃

福岡のプレースキックは、山岸を狙ったロングフィードです。サポートするプレイヤーも山岸の周辺に寄って、左サイドに密集を作ります。

山岸がボールキープに成功したあと、札幌ゴール側へランニングして前進する役割はルキアンが担います。札幌のマンマークを左サイドに引き寄せると、右前方には大きなスペースがあります。特に、佐藤がボールサイドへ寄ることで中村を引きつけると、ルーカスと宮澤の間には広大なスペースが開けます。
ここへ送られるスルーパスにルキアンが先に追いつくことができれば、福岡にとって大きなチャンスです。ルキアンが前方へボールを運ぶ時間を使って、金森、山岸、佐藤ら福岡のアタッカーはゴール前にポジションを移動し、クロスを仕留める体勢へ移行します。札幌のディフェンダーは、広大なスペースで、戻りながらの対応を強いられるという意味で、被カウンター相当の状況に陥ります。

ポストプレーが失敗することがあっても中盤の密集で速攻を防ぐことができ、数回に1回でも成功すれば走力で一気に札幌ゴールに迫ることができる。少ない手数で大きなチャンスを作る狙いとして、対札幌のプランとしては今シーズンよく見る形を福岡も採用してきました。

福岡がSB裏に負っているリスク

札幌のボール保持者、特に金子と田中に対して強くアプローチするということは、その役割を担う福岡のプレイヤーの背後が手薄になります。このゲームにおいては、福岡の両SB、金子と向き合う前嶋、ルーカスと向き合う小田の背後や、CBとの間のスペースです。福岡はSBの裏を晒さずに札幌の攻撃をコントロールしようとし、札幌はそこを突くことで福岡の狙いを壊していくことが必要になります。

ゲームは、福岡の狙い通りの状況から始まります。規律のあるディフェンスが機能して、札幌の攻撃が金子vs前嶋のエリアで前進を阻まれてバックパスでやりなおしになるか、DF裏への長いボールで札幌が福岡の前向きのプレスを牽制する、という展開で始まります。また攻撃においても、山岸とルキアンのコンビネーションが成功すると、素早く札幌ゴールに迫ることができていました。

しかし札幌は福岡の出方を予想していたのか、まもなく適応しはじめます。ポイントになっていたのは田中のプレーでした。田中は、金子から戻ったボールを使って、逆サイドのルーカス以外にも中盤の選手へのパスを選択したり、足下でキープしてマーカーを動かすなど、変化をつけて福岡に対応を迫ります。特に有効だったのは、スパチョークへの鋭いボールでした。
小田はルーカスへのサイドチェンジからのスピードアップを阻止しようと待っているので、スパチョークの行く先については手薄になることがあります。金子のパスをダイレクトに蹴り返す田中のキックモーションからは、パスの行く先がルーカスなのかスパチョークなのか判断することはできず、対応が後手に回ります。

小田がパスを受けたスパチョークの反転を防ぐ対応に出ると、今度はルーカスがフリーになります。スパチョークから中村を経由してルーカスを走らせるパスが出ると、福岡が避けようとしていた札幌のWBが前向きに加速する状況が生まれます。

札幌は、福岡の強いプレスに対して無理に突破を試みるのではなく、戻したところから田中が福岡のディフェンスの目先を変えるプレーで、次第にペースを握りました。サイドチェンジから加速するルーカスに対して、奈良が中央を捨ててなんとか対応する、という場面が増えていきます。

30分、札幌が先制します。
中村が左サイドでオーバラップしボールを受けると、対応に出た小田に仕掛けて縦に突破します。折り返しをスパチョークが押し込みました。この場面も田中からスパチョークへの鋭いパスから始まっており、左サイドで繰り返した形で札幌が得点しました。

ビハインドになった福岡は、ポゼッションの時間も増やしながら追い上げを図ります。セットプレーからのグローリのシュートがオフサイドで取り消しになるなど、惜しい場面もありましたが、得点ならず。やや札幌の優勢でハーフタイムを迎えます。

後半も同様の構図で始まりますが、札幌が右サイドでのプレーに工夫を加えます。金子にボールを到達させたあと、田中に戻すだけでなく、浅野や駒井がサポートするようになりました。特に浅野が前嶋の背後へ走ることで、右サイドでもSB裏へ圧力をかけ、攻撃のバリエーションを増やして福岡を突き放そうとします。

60分、札幌がPKのチャンスを迎えます。
札幌が左サイド深い位置から、ペナルティエリア角付近にいる駒井へボールを戻した場面。駒井がターンしようとしたところを、グローリが後ろから倒しファウルの判定になります。金子がトライしますがポストに当たり、失敗。札幌はリードを広げられません。

63分、福岡は交代を実施。佐藤に代えてウェリントンが入ります。ウェリントンが2トップの一角に入り、右SHに山岸が移動。53分の小田と湯澤の交代と合わせて、右のSBとSHいずれもスターターから入れ替わります。

66分、福岡が同点に追いつきます。
駒井が福岡ゴール前へドリブルで進入しつつ、前方のスパチョークへパスを送ろうとしたところを、奈良がカット。グローリが少し持ち運んでから、前線に残っていたルキアンへ一気にフィードします。宮澤がこれをカットしようとスライディングしますが届かず、ルキアンが独走状態に。余裕をもって右サイド奥まで運ぶと、ゴール前のウェリントンにパス。難なく枠へ流し込みました。

続く68分。福岡が勝ち越します。
菅野から浅野へのフィードをグローリがカットすると、これがピッチ中央付近にいた山岸へのパスになります。山岸が前線のルキアンを走らせるパスを出すと、宮澤とルキアンの1on1の状況が生まれます。ルキアンはサイドに逃げながらゴール前の状況を伺い、後ろから上がってきた湯澤へパス。ルーカスは湯澤へ追いつけず、湯澤はダイレクトでシュートし、ファーへ決まります。

札幌は後半も攻撃の姿勢もってプレーしていましたが、その質は時間経過と共に、前半とは異なってきていました。福岡がブロックを構えた状況から札幌が隙を伺うのではなく、中盤のボールの奪い合いから前線のプレイヤーが一気に福岡ゴールを目指すカウンターの場面が多くなっていました。この状況では福岡のアタッカーが戻りきらずに高い位置に残っており、中盤の密度も低下しています。福岡はこの中盤のスペースで山岸やグローリが活動し、ルキアンの走力を活かして一気に札幌をひっくり返すことができました。

福岡の逆転後は、ラフな潰し合いが増えてゲームの時間が滞りがちになっていきました。
札幌はセットプレーからゴールを目指しましたが、止まった状況からのプレーでは福岡のディフェンスの強さが際立ちます。最後は5バックに変更した福岡が逃げ切り、2−1で勝利しました。

感想

第18節のC大阪戦と同じように負けてしまったなあという印象のゲームでした。WBにスピードアップさせなければ札幌の攻撃は怖くない、というわけです。
逆に言えばここまでの大量得点は、相手チームが中途半端に重心を高くしてくれることによって、疑似カウンターし放題だった、という面がありそうです。札幌の得点パターンがばれて、C大阪、福岡がその対応策をしっかり表現しました。今後他のチームも続くことになるでしょう。

しかし、対する札幌も強く出てくる福岡のSBの裏を使う意図を明確に持っていて、C大阪戦よりも見どころが多いゲームでもありました。福岡がサイドチェンジを待っているのを理解して、嫌なところへパスを散らす田中選手は、判断も技術もさすがでした。

それだけに失点シーンは残念です。後半の札幌の攻撃が間延びしていったことの一つの理由として、前に急ぎすぎる攻撃があったと思います。
特に2点目は、菅野選手からのフィードによって、グローリ選手と浅野選手を競らせてしましっています。グローリ選手は苦もなくヘディングでボールをコントロールし、山岸選手に丁寧にパスをしていました。先を急いだ結果、勢いよくボールが戻ってきてしまい、宮澤選手がルキアン選手と競走しなければならない状況に陥ってしまったという面がありそうです。リードしているのだし、そんなに急ぐ必要はなかったでしょう。

先を急ぐといえば。
77分に入った小林選手は、直後に浅野選手へのスルーパスで得点を演出したかに見えました。オフサイドにはなってしまいましたが、この場面はサイドチェンジのような大きな展開で福岡を揺さぶったわけでもなく、カウンターのような状況でもなく、前方にスペースがあまりない状況で、両チームのプレイヤーが密集しているところから生まれました。
ボールが止まった状況からディフェンスが困る状況を生み出せるのであれば、ブロックを大きく揺さぶったり、ディフェンスと競走してゴールを目指す必要がなくなります。それができる小林選手を、札幌はまだチームに組み込めていないように見えます。
2トップの背後に小林選手を置くコバヤシシステムを完成させて、前半のようなダイナミックな展開でリードし、焦る相手を遅い攻撃で時間を使いながら攻略するような、いやらしいチームになってほしいものです。おわり。

(32節終了後に、書きかけのレビューに手を加えて公開)

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