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2024.5.12 J1第13節 川崎フロンターレ vs 北海道コンサドーレ札幌

川崎のホームゲームです。
札幌は、最近2ゲームと同じメンバーで臨みます。長期離脱中のメンバーと宮澤の不在、家泉がまだ完全に岡村を上まわる評価を得ていないだろう点を除くと、髙尾、長谷川が途中出場するところまでを含めて、プレイヤーの評価が定まってきているようです。
川崎は、エリソン、三浦が不在。FWにはバフェティンビ・ゴミス、左SBには佐々木が入り、右SBにファン・ウェルメスケルケン・際を入れる形になりました。


川崎の最終ラインを操作する

このゲームに臨む両チームのプランは、川崎は札幌陣地深いエリア、札幌は中盤のエリアでプレーする時間を中心に展開しようというものでした。川崎はバフェティンビ・ゴミスや家長にゴール前で仕事をさせるためにチームの重心を押し上げようとしますが、札幌は単純な押し合いで応じるのではなく、川崎の攻撃やプレスを受け止めながら、引き込みすぎずにその背後を狙います。

川崎は札幌のボール保持に4−4−2で向き合います。基本的にはスペース管理ですが、佐々木は浅野に対する警戒を優先する対応をしていたようです。佐々木と浅野の関係を維持すると、外の近藤に対してはマルシーニョ、逆サイドの青木にはファン・ウェルメスケルケンが対応するケースが多くなります。

札幌の前進は、中盤の狭いエリアを省略しつつ、川崎のバックラインを直接脅かすことを狙っていたようです。両サイドへのダイレクトな進入で、川崎を自陣から遠ざけようとします。
札幌はまず川崎の右サイドに圧力を作っていました。青木が初期ポジションから移動して中盤へ移動すると、スパチョークがサイドへ流れてファン・ウェルメスケルケンを外側へ引きます。ここが鈴木が流れてフィードを受けるエリアになっていました。

川崎は青木とスパチョークをケアしなければなりませんが、初期ポジションの関係では脇坂はスパチョーク、ファン・ウェルメスケルケンは青木が対面になります。青木が中盤へ、スパチョークが裏へ移動してポジションを入れ替わることでマークの受け渡しを強いて、鈴木と競り合うジェジエウへのサポートの余力を削っていきます。

札幌は左サイドで鈴木のポストプレーとスパチョークの裏抜けの可能性を作った上で、逆サイドへの展開も狙います。浅野が背後方向へ佐々木を引っ張ると、広いスペースを得た近藤への対応をマルシーニョに強いることができます。この効果は、川崎がスパチョークや青木に対応しようとサイドを圧縮すればするほど大きくなります。

川崎のボール保持との向き合う札幌は、マンマークを基本にしつつも、大南とジェジエウには強く出ません。浅野と鈴木は中盤の橘田、脇坂、遠野を隠すように立って、川崎のパスコースを限定していました。前線のサポートを得た駒井、荒野、スパチョークが内側で圧力を作ることで、川崎にロングフィードを強いることを狙います。縦に急ぐプレーを選択させることで、家長やバフェティンビ・ゴミスに速いプレーを強いたり、川崎の前線を孤立させようということでしょう。

扉が閉まるまで

ゲームは、札幌が狙いを発揮する展開で始まります。開始早々、浅野がジェジエウから橘田へのパスをインターセプトし、ロングシュートへ持ち込みます。以降、川崎は札幌が待ち構える中盤を避け、前線のバフェティンビ・ゴミスや家長へのフィードによる前進を頼るようになります。

一方の川崎は前線のプレスの強度が十分でなく、札幌最終ラインからの配球を許していました。特に札幌の左サイドではほとんど制約がかかりません。家泉、駒井、荒野の3人が遠野とバフェティンビ・ゴミスをスライドさせるようにボールを動かすと、菅へのパスコースが開きます。このエリアを任されているのは家長ですがリアクションが遅く、菅はスペースへ移動する度にほぼフリーでプレーすることができました。

プレス強度の低い左サイドで自由を得た札幌は、荒野や菅から裏へ走るスパチョークや、逆サイドの近藤へのフィードで前進します。川崎は背後への圧力を受けながらもディフェンスラインを下げない努力をしていましたが、これは札幌に好都合で、近藤やスパチョークが背後へ抜け出すためのスペースが生まれます。
この構図の中、札幌には、後方からのパスが近藤に通ったり、スパチョークからの折り返しが中央の鈴木に合うなど、複数の決定機が訪れますが、枠を捉えることがなかなかできず、ゴールとはなりません。枠内シュートは上福元の守備範囲に収まります。

札幌のペースが続きましたが、25分を過ぎると川崎が札幌を押し返す時間が増えていきます。
左サイドからの前進を繰り返す札幌に対して、逆サイドを捨てたプレスが使われるようになります。バフェティンビ・ゴミスと家長をパスの受け手の荒野と菅につけて、逆サイドで遠野がランニングを使ってパスコースを消す動きを見せます。タイミングをみて中央を脇坂や橘田がサポートすると、札幌は逆サイドを使うことができずミスをすることが増えていきます。

またバフェティンビ・ゴミスへのフィードの落下地点に家長を置き、家長がキープすることでチームが重心を上げる時間を作ったり、家泉のファウルを誘ってリスタートをきっかけに札幌を押し込む回数も増えていきました。

30分、川崎が先制します。
札幌の左サイドをプレスで押し込んでミスを誘ったことをきっかけに、川崎がサイドチェンジをしながら札幌を押し込みます。左サイドのスローインをバフェティンビ・ゴミスのポストプレーを経由して右サイドへ送ると、ファン・ウェルメスケルケンと遠野が前向きでボールを得ます。家泉を背負うバフェティンビ・ゴミスまでボールを届けると、ピッチ中央方向へ追い越す動きを囮に、その場で逆方向へターンして、シュート。川崎が1−0とします。

失点後の札幌は、川崎の前方向の圧力を受けて前を急ぎがちになり、また自陣でも落ち着きを失っていきました。ビルドアップにミスが生じたり、前線の浅野や近藤への単純なフィードが跳ね返って、川崎の前進を許すようになっていきます。
バフェティンビ・ゴミスのポストプレーと、遠野やマルシーニョがそれを追い越すプレーは先制の場面以外でも繰り返し見られました。バフェティンビ・ゴミスは、家泉を背負いながら後ろ向きにプレーすることで、その手前の空間で優位に立ちます。家長らが時間を作って縦パスを送ると、コンビネーションから家泉の背後に圧力が生まれます。

川崎は前線だけでなく、中盤でも優位性を作っていきました。荒野と駒井は脇坂と遠野をマークする関係にありますが、中盤のエリアには家長や橘田が進出してきます。大きな移動があった場合や、札幌の攻撃が裏返った場面では、スパチョークや菅が家長や橘田を追いにきれない場面が生じます。新たに中盤に関与してくるプレイヤーに荒野や駒井が対応を強いられると、脇坂や橘田がマークを逃れる瞬間が生まれてきます。
札幌の重心が高いまま中盤で川崎がプレーできるようになると、マルシーニョの裏抜けに対してパスが供給され、これも札幌を後ろ重心にさせる圧力になっていました。

43分、川崎が追加点を挙げます。
再び左サイドのスローインの場面から、マルシーニョの落としを受けた遠野が前向きでボールを得ると、加速しながらバフェティンビ・ゴミスと縦方向にパス交換し、前線へ進入します。深い位置まで入った遠野へ対応しようと家泉が出ると、バフェティンビ・ゴミスがフリーに。遠野の折り返しを難なく決めて2−0とします。

45分、川崎がPKを得ます。
家長の左サイド進出によって札幌のマークが飽和し、脇坂が中盤をフリーで持ち上がる場面が生まれました。マルシーニョの動きとタイミングを合わせたパスに、札幌のディフェンダーは追いつけません。菅野がカバーしようとしますが交錯し、ファウルになります。これをバフェティンビ・ゴミスが決め、3−0と川崎がリードを広げてハーフタイムを迎えます。

制御を失った中盤

札幌は後半から鈴木と家泉に代えて、キム・ゴンヒと岡村をそれぞれ同ポジションに入れます。両チームの狙いは変わらなかったと思われますが、この日強く吹いていた風や、疲労の影響があったのか、ゲームの状況は変化します。札幌、川崎いずれも中盤に力をかけられなくなり、互いに間延びした状況で攻守が入れ替わる、オープンな展開になっていきます。

札幌は近藤のランニング、川崎はマルシーニョのドリブルを中心にカウンターを展開しました。
札幌は自陣でボールを得ると、川崎が帰陣する前にスパチョークへ展開し、そこからカウンターに出ようとします。橘田が対応しようとしますが、青木や浅野への展開を許したり、ファウルになりスパチョークを止めることができません。

札幌はカウンターへ移行すると、近藤のランニングを使って川崎を押し込みます。最終的にはキム・ゴンヒへのクロスを青木が後方からサポートして、こぼれ球からのミドルを狙っていました。川崎としてはセカンドボールを確保して次の展開を作る必要があり、その役割は橘田と脇坂です。青木に渡れば札幌がシュート、橘田と脇坂に渡るとマルシーニョや遠野を使ったカウンターへ移行、という展開が続きます。

スパチョークのキープとキム・ゴンヒのポストプレーの2つの手段を持っていた札幌が比較的多くのチャンスを迎えますが、シュートは決まらず。橘田と脇坂がセカンドボールの攻防で優位に立って、札幌の2次攻撃を防ぐと、後半を通してロングカウンターの打ち合いの構図が続きました。
両チーム交代で変化を作ろうとしますが、スコアは動かず。3−0で川崎が勝利しました。

感想

等々力の2−0勝利は札幌のファンにとって語り草ですが、当時と比べて札幌は大きく変化していて、このゲームは2024シーズンらしさのあるものだったと思います。川崎のプレイヤーにボールを触れさせない、というよりは、マルシーニョ選手がときどき飛び出してしまうのは許容しつつ、中盤で待ち構えて川崎のディフェンスラインの裏へスパチョーク選手や近藤選手を送り込もう、というようなプレースタイルです。実際にこのゲームの前半は、その方法でよい場面をいくつかつくっています。

とにかく相手ゴール前へ突っ込んでいくようなスタイルではなく、前にも後ろにも転ぶ中盤を確保するスタイルに方針転換するとどうなるかというと、人数のバランスを大幅に崩した攻撃機会や守備機会ではなく、人が多くも少なくもなく、スペースが大きくも小さくもない、「普通」の場面が相対的に増えるということなんだと思います。そういう普通の攻撃機会に得点し、普通の守備機会に守る、それを安定して行うという「普通化」にトライしているのが今の札幌なのではないかと思います。

今シーズンここまでの結果を見ると、攻撃面では引き出しの多さを見せていて、このゲームでも川崎を動揺させる場面がたくさんありました。どうやら、金子選手のような人をサイドで突きつけてローカルにバキッと破壊する、というよりも、サイドで裏を意識させて最終的にゴール正面のバイタルエリアでフリーになる、というアイディアが、今シーズンはメインのようです。青木選手が真ん中に入ってきてシュート、とか、浅野選手が中央方向に移動しながらシュート、という場面が見るからに増えています。ポケットを取りに行かないからといって無策というわけではなく、結果も出ています。

一方で、普通のピンチを普通に守る力の不足が目立ってしまっている、というのが現状のようです。こちらはマンマークを自陣ゴール前まで持ち込んでしまうことのデメリットが先行しているように見えます。このゲームで家泉選手がバフェティンビ・ゴミス選手に注意を向けすぎて次の展開を見失ってしまったのも、ボール、味方プレイヤー、相手プレイヤーの優先順位が、マンマークらしく反転してマーク対象に過集中してしまった結果のように見えます。2点目、遠野選手のワンツーの場面も、マンマークであれば誰かが追いかけなければいけませんでしたが、できていませんでした。3点目、中盤で脇坂選手がフリーなのは、人基準とスペース基準のグレーな領域で迷いが生じ、中盤でマンマークの人数を揃えられなかったからです。前節FC東京戦のようなゲームであれば、カウンターは個人が迎撃せよ、という話もなくはないと思うのですが、このゲームのようなプレーエリアを設定をしたからには、遠野選手やマルシーニョ選手が進んでくるエリアを誰かが能動的に管理できるようにしなければならないでしょう。
マスタープランとしては、大南選手とジェジエウ選手には持たせて、橘田選手や脇坂選手にプレーさせないようにする、という方針は合理性があると思います。陣地の重要性に応じて守備リソースをうまく配分できています。ただそれ以外の場面でも普通のピンチは繰り返しやってきて、それを安定的に、普通にしのぐことができなければ、相手チームを引き込むデメリットが上まわってしまうでしょう。マスタープランではなく、より周辺的な状況や、レアなケースに対応するディティールが足りていないのだと思います。

相手チームの攻撃の開始地点が高くなり、試行回数が去年より増加している割に、失点が大きくなっているわけではない、という気もします。去年までよりも引き込んで守ることについて、できることは増えているのでしょう。開幕まもなくの記事に書いたように、方向性はよくても経営面で、競技面で最低限の結果が得られるかどうか、時間の問題になってきそうです。おわり。

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