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2023.9.2 J1第26節 北海道コンサドーレ札幌 vs ガンバ大阪


札幌のホームゲームです。
札幌は、小柏が3ゲームぶりに故障から復帰。2トップの一角に入りました。また出場停止の岡村に代わって、宮澤がCB中央に入ります。
G大阪は三浦、半田らが離脱中。倉田は復帰してベンチメンバーに入りました。

密集方向へプレーするG大阪

このゲームに限らず、G大阪はチームの重心を高いところに置いてプレーしたいと考えているように見えます。その生命線になっているのはIHのダワンと山本の、上下方向に大きくポジションを移動する動きです。ダイナミックな動きでディフェンダーのマークから逃れ、中盤の底に位置するネタラヴィからパスを引き出すことで、チームが相手陣地内を前進する経路を担います。

IHの運動量の見せ所は相手陣地内に入ってからで、自陣ではあまり意味をなしません。G大阪はそのシチュエーションを目指して、シーズン序盤はグラウンダーのパスでキーパーから前進することを試みていたようですが、エラーが頻発して失点につながったためか、次第にイッサムジェバリへのロングフィードを使って押し上げる、手数の少ない方法に移行したようです。
このゲームでも、東口からのリスタートはジェバリへのフィードが優先的に使われていました。ジェバリをマンマークで追ってくる宮澤との駆け引きに勝ち、セカンドボールを回収して札幌を押し込む意図でしょう。

以上がG大阪の基本的なアイディアだと思われますが、このゲームを通してG大阪がそれを実践できていたかと言えば、かなり不十分なものでした。その理由は、ピッチ中央方向へ向かうプレーが多く、G大阪のプレイヤーの位置を基準に守る札幌のディフェンダーの密度を自ら高めてしまったことにあるように見えました。

東口のロングフィードの落下地点は、前線からやや下がった位置です。ジェバリはそれを受けるために下がっていきますが、ファンアラーノ、食野を含め3人の前線がその周辺へ近寄っていく傾向がありました。福森と田中は、ジェバリと競り合う宮澤を背後からカバーするような位置に留まることができます。
また、山本とダワンはピッチを縦方向に大きく動いていましたが、荒野と馬場から逃れてフリーでプレーすることにつながっていませんでした。前線3人の位置が低く、幅も狭いため、前進経路が塞がってしまったり、下がってフリーになるスペースが不足しており、荒野や馬場が困るような動きを作ることができなかったように見えました。

3月の対戦時のG大阪はWGの福田や杉山を裏へ走らせ、札幌のディフェンダーの立ち位置をまばらにする圧力を作ることで、中盤にネタラヴィのプレーする空間を作っていましたが、このゲームはそれとはまったく逆の振る舞いです。当時、ネタラヴィのスルーパスから札幌のディフェンスの裏を使って同点に追いついたはずですが、半年後にG大阪からその意図がほとんど感じられなかったのは不思議です。

しばらくG大阪は好調な時期を過ごしていたようなので、ロングフィードを密集の中に落としてセカンドボールを回収するスタイルを、そのまま札幌に対しても持ち込もうとしたのかも知れません。セカンドボールを得るために密集を作るのは合理的です。ただ、最近も川崎が狭い中盤で札幌のディフェンスに苦労し、マルシーニョの裏抜けによってようやくゲームが動く、ということがあったばかりで、対札幌のプランとしては疑問が残ります。

札幌の2トップの裏抜け

札幌は、高い重心で来るであろうG大阪の振る舞いに対して、明確なアイディアを準備できていたように見えます。G大阪のプレスを引き込みつつ、小柏とスパチョークの2トップがCBの脇を裏に抜け、長距離のスルーパスで一気にディフェンスを裏返そうとします。

このゲームのG大阪のプレスは、4-4-1-1の形で、札幌をサイドに閉じ込めようとしていました。トップのジェバリがCBの横パスのコース上に立ち、山本が中央の荒野に対してマンマークを行います。残りの8人が4-4のブロックでサイドへ寄せ、ボールホルダーの選択肢を奪おうとします。

サイドが確定すると、G大阪の2ラインはサイドの札幌のプレイヤーの位置まで接近します。SBの高尾と黒川は、ルーカスと菅にアプローチできる距離を維持しました。そのため、ルーカスをケアしようとする黒川と、中央で小柏を警戒するクォンギョンウォンとの間には大きな距離が生まれ、クォンギョンウォンは広いスペースで小柏と対峙しなければなりません。

左サイドでも、菅に対応しようとする高尾の背後で同様の状況が生まれます。スペースを得たスパチョークは、佐藤から離れていく動きで前方向にも、後ろ方向にも脅威を見せることができます。

この状況で札幌が得る優位性は、2トップが自らのタイミングで動き出すことで、G大阪のCBにリアクションを強いることができる点にあります。福森、宮澤、田中、駒井などからタイミングよくスルーパスが出ると、福岡とクォンギョンウォンが小柏やスパチョークのランニングコースを先に埋めることは難しくなります。

また、このゲームの札幌は、WBにボールが渡ってもスピードアップせず、他のプレイヤーがサポートしてバックパスを選ぶなど、あえてサイドでG大阪のディフェンスを引きつけているようにも見えました。チームとしてG大阪のSBとCBの中間を狙う意図が共有され、ボールを動かしながらそのタイミングを探っているように見えました。

誘いに乗らない札幌

ゲームは、札幌がG大阪のロングフィードを回収し、2トップの裏抜けによってコンスタントにチャンスを作る展開で始まります。

13分には早速先制点が入りました。札幌の左サイドで宮澤、福森、菅、スパチョークがパスをつなぐと、G大阪は高尾、ダワン、ファンアラーノだけでなく佐藤までその局面に近づき、同サイドのG大阪の陣地に誰もいない状況が生まれます。そこへ小柏が走り込むと、追いかけるのはネタラヴィでした。左サイド深い位置で小柏がネタラヴィのタックルに耐えると、ゴール前へ上がってきたスパチョークへつなぎシュート。これがファーサイドへ決まります。
スパチョークとともに長距離を戻ってきた福岡は、体をポジションへ戻すだけで一度集中が切れてしまったようで、スパチョークのシュートモーションを制約するような動きができていませんでした。

札幌優勢のままゲームは進行し、58分に札幌が追加点を挙げます。
東口からジェバリへのフィードがルーズボールになり、田中がクリアのような形で浮き球にした場面から、最終的に馬場が拾います。前方へ抜け出す駒井へスルーパスを送ると、駒井への対応に遅れたクォンギョンウォンがファウル。主審がアドバンテージをとってゲームが継続すると、駒井の足下からこぼれたボールをオーバーラップした小柏が拾います。ネタラヴィがファウルを見てプレーをやめた結果、小柏がシュートまで持ち込み、こぼれ球をスパチョークが押し込みました。

2トップの裏抜けからチャンスを創出し続けた札幌が、高尾、黒川両方の背後を使って1点ずつを決め、順調に機会を点差に結びつけていきます。

2点ビハインドになったG大阪は65分頃に交代を実施。3-4-2-1の配置へ変更します。
リードした札幌が無理に攻撃に出てこないことを見越して、ボール保持を念頭に置いた交代のように見えました。ネタラヴィひとりだった中盤をダワンと山本の2人に増やし、中盤で札幌の圧力の分散を図りながら、2列目のファンアラーノと倉田が上下動で札幌ゴール前に入っていくようなイメージでしょうか。

しかし2点リードで残り30分を切った状況で、札幌の守り方にも変化が生まれます。スパチョークと小柏はG大阪の3バックを放置し、ダワンと山本を隠すようなポジションで守ります。中盤の密度は高いままで、G大阪のプレイヤーたちはマークから逃れるスペースを見つけられません。G大阪の攻撃は停滞します。

G大阪は70分過ぎに追加で交代を実施。前線に鈴木、山見、ダワンを並べ、追い上げを図ります。
札幌は裏抜けで体力を使った2トップを下げ、キムゴンヒと小林に。またディフェンスラインの福森と宮澤を菅と中村に変更し、機動力を前線から最後方にシフトしました。ここまでの展開とは逆に、前線で時間をつくりつつカウンターへの耐性を高め、G大阪の攻撃時間を削る意図でしょう。

G大阪は強いプレスでボールを奪おうとしますが、札幌からボールを取り上げることができず、逆に繰り返しカウンターを受けることになります。札幌の配置に近い3-4-2-1で、人数を合わせたプレスをかけやすいように見えますが、人基準ではないG大阪の3バックは横並びを維持していました。札幌の2トップに対して3バックがひとり余ると、中盤では深井、駒井、馬場の3人に対して倉田と山本が2人で向き合う状況が生まれます。

札幌は深井、駒井、馬場を中盤の出口として使ってプレスを凌ぎ、キムゴンヒや浅野の裏抜けを使ってG大阪陣内へ進入し続けます。高い重心のG大阪の背後のスペースを札幌が繰り返しカウンターで襲う、というこのゲーム序盤から続いた構図が、配置やプレイヤーが変化した終盤に別の仕組みで再現すると、札幌が追加点を挙げます。89分に浅野のクロスからキムゴンヒがファーで合わせて3点目、ロスタイムには浅野がカウンターから4点目を挙げます。
ゲームを通して優位に立った札幌が、危なげなく4-0で勝利しました。

感想

高い重心から利益を得られず、裏を狙われ続けて敗戦、、と書くと8連敗中の札幌の悪口はそこまでだ!とつい言い返してしまいそうですが、このゲームで相手を引き込んで裏を使っていたのは札幌でした。とはいえ、川崎と札幌のゲームも、マルシーニョ選手が入ってくるまで同じ構図で、珍しいことではありません。狭い中盤を通ろうとして札幌のプレスに阻まれ、前に進めないうちにペースを札幌に譲ってしまうチームはこれまでにもありました。
札幌がやってくることはリーグ公然の約束であり、狭く守らせたらかなり守れるので、マークを分散させるように広く、またはマークから逃れるようにスペースに向かってプレーする…この夏、こういうスタイルに札幌は苦労したと思うのですが、このゲームのG大阪や先日の前半の川崎は、そういう意図を持っているようには見えませんでした。

ダニエルポヤトス監督を招聘したG大阪は、バランス良く人を配置して、パスコースをたくさん作って、ディフェンダーがマークにつき切れないように、ピッチを広く使うことを仕込もうとしてたんじゃないかと想像してるんですが、このゲームのアタッカー陣はレーンはみ出し放題で、仲間がどこで待っているか、チームメイトが互いに予測できていないように見えました。3月の対戦時もスムーズさはなかったものの、当時はどちらかというと配置はしたけどボールが来ない、という印象で、今回の即興的なプレーぶりからは、自分の想像上のG大阪の強化方針は見当違いなのか、G大阪はいま「砕かれたダニエルポヤトス・プラン」状態なのか、と思ってしまうような後退が感じられました。
狭いところにフィードを放り込んだことについても、札幌の中盤の圧力を過小評価していたのか、別の意図があったのか気になりますが、どちらかというと、攻撃の規律がどこにあるのかよくわからない点のほうが気になりました。ダワン選手、ファンアラーノ選手はじめ、運動量もテクニックもあって、ピッチを広く使ったら凄そうな人がたくさんいるので、そんなG大阪が実現したら強そうだなと思うのですが。

札幌目線では、宮澤選手のインターセプトや小柏選手のスルーパスを鋭く追いかける姿がたくさん見られて楽しかったです。深井選手のタックル〜ディフェンダーの背中側に置くようなパス、田中選手のタメからの浅野選手を走らせるスルーパスも終盤には見られました。ただそれもこの日のG大阪の振る舞いによるところが大きいと思うので、個人が持っている能力を活かす状況を再現性をもって作れるようになったらいいなと思いました。それは札幌だけでなく、すべてのJリーグのチームに対する願いでもあります。コレクティブに、個人の才能を際立たせていくことが、チームスポーツの楽しみです。おわり。

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