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2023.2.25 J1第2節 北海道コンサドーレ札幌 vs ヴィッセル神戸

札幌は北海道での開幕戦。ホームスタジアムにヴィッセル神戸を迎えます。
前節はキムゴンヒが務めた1トップに荒野が入ります。荒野がいたCHのポジションには馬場が入りました。また菅野が足に違和感があるということでベンチ外、クソンユンがゴールを守ります。
神戸は酒井が調整のために外れたほか、イニエスタやサンペール、マテウス・トゥーレルなど期待されている人たちが開幕からメンバー入りできていません。しかしこのゲームの神戸についてはメンバーよりも4-4-2でゲームに臨んだことのほうが大きいトピックになるでしょうか。

札幌のWBへのパス経路を遮断する神戸

ここ数年、札幌は神戸に勝てていません。特に2021シーズン以降は、神戸が札幌の攻撃をうまくやり過ごしているうちに、札幌ゴール側で様々な出来事 (ビルドアップのエラー、ショートカウンター、セットプレーなど) が発生して得点が積み上がり、神戸が静かにゲームの主導権を握っていくというパターンです。
このゲームも神戸はまず札幌の攻撃を自陣で受け止めるだろう、と考えて札幌も準備したのではないかと思いますが、そうはなりませんでした。神戸は、札幌のWBへのパス経路を人数をかけて遮断します。

初期配置は神戸の4-4-2に対して札幌はいつもの4-1-5です。神戸はこの初期状態ではあまり深追いせず、キーパーには比較的自由があります。

札幌が左右どちらかのCBまでボールを動かすと、神戸は札幌をボールサイドへ追い込むために全体が連動した動きを見せます。
2トップ (大迫、武藤) は札幌のCB (岡村、宮澤) 間のサイドチェンジのパスコースを塞ぎつつ、4-1-5の中央にいるCH (馬場) をマークします。ライン近くにポジショニングしてパスの受け手になろうとする札幌のSBとWB (福森と菅、または田中と金子) には、マーカー (佐々木と飯野、または汰木と初瀬) を背負わせます。そしてCH (山口、または斉藤) がボール近くへ移動して、複数発生する1on1の周辺のスペースをカバーするポジションを取ります。

札幌サイドから見ると、全てのパスの受け手がマークを背負っており、もし1on1でマークをひとり剥がすプレーができたとしても、カバリングポジションから山口か斉藤が襲いかかってくる、という状況です。
このとき、札幌の出口になれる可能性があったのは青木です。山中と本多は、SBの飯野がバックラインを離れて菅のマークに出ているため、3人で荒野や浅野と対峙しています。バックラインが3人よりも少ない状況を嫌ってか、下がっていく青木についていくことにはやや消極的でした。青木は山口の注意が前方に向いている背後に進入してパスコースを作り、そこから前を向こうと頑張っていたように見えます。

しかし札幌は前半を通して神戸のプレスに苦しみ、窮屈になったサイドから抜け出すことができませんでした。
その原因としては、馬場や菅がボールホルダーに近づくようにプレーしていて、青木がフリーになれるようにサポートする関係を作れなかったことがあるように見えました。ボールホルダー周辺に密集して札幌がプレーする時間や空間を圧縮していくことが神戸の狙いだったと思いますが、札幌がそれに抗うには逆向きの動きをする必要があります。青木のプレーするスペースを作るためには、山口のカバーしなければならないエリアを広げるように、マーカーを引き連れて遠ざかっていくことが必要ですが、前半の札幌はボールに寄る傾向が強く、青木が確保できるスペースは非常に狭いものでした。

神戸はプレスからショートカウンターに移行したり、手詰まりになった札幌のミスを誘発して前半の主導権を得ます。9分には武藤と佐々木が宮澤と福森を捕まえてボールを奪うと、早々に大迫の先制点につなげています。

神戸のDFラインに圧力をかける札幌

札幌は後半から1トップにキムゴンヒを入れ、荒野をCHの位置に変更した上で、神戸のプレスを裏返す意思を見せます。

プレスの圧力を分散するために札幌が行なっていたのは、神戸のディフェンスラインに裏を意識させることだったように見えます。キムゴンヒが中央、菅がサイドで縦に抜けてDFの背後で受ける動きをしつつ、青木や浅野が下がって行く動きを見せることで、神戸のディフェンスラインに対して前後の矛盾した方向に圧力をかけます。
このことで神戸のディフェンスラインの押し上げを弱め、山口と斉藤がカバーしなければいけないスペースを広げることができていました。先制した神戸がプレスをあえて弱めた面もあったと思いますが、サイドに閉じ込められていた前半と違い、中央のスペースに札幌が出口を得て、サイドチェンジをしながら神戸を自陣に押し返す場面が多くなります。特にフリーになった浅野を使う場面が目立っていました。

札幌がゲームの主導権を取り戻したかに見えましたが、神戸が追加点を挙げます。キーパーからのフィードを大迫が収め、武藤を経由して逆サイドに走り込んだ佐々木が決めました。

このとき、大迫と空中で競り合ったのは宮澤でした。札幌のマンマークの考え方の泣きどころとして、3バックで2トップを捕まえなければならない点があります。宮澤がCHの位置から降りて岡村と宮澤で対応するか、福森か田中がどちらかが対応する可能性があり、これを状況によって使い分ける運用になっていると思います。この時は宮澤と岡村が2トップに対応する状況のようでした。その場合、福森と田中が神戸のSH (佐々木と汰木) に対応しに行かなければ即フリーにしてしまいます。この場面ではそこにエラーがあったように見えます。

大迫が収めたと見ると武藤はボールに近づき、スイッチするような動きを見せたため、岡村と宮澤は一瞬大迫と武藤のプレーに強くいけない状況が生まれます。抜け出されたというよりは、一瞬ボールにプレーするのを許した程度ですから、それ自体は致命的とは言えません。しかしオフェンスに与えた自由が周辺に波及すると話は別です。
このとき、菅は自分の担当である飯野が走り出していないのを見てジョグをしています。福森は交錯したボール周辺のフォローに行くかどうか迷いつつ、佐々木から目を離してしまっているように見えます。結果として、佐々木はフリーでした。そのまま菅と福森の間を駆け上がって、シュートの場面を迎えることになります。

札幌のディフェンスの集中力は保たれていたのに神戸がそれを上回った、というよりは、神戸のアタッカーに対してマークを整理しきれずフリーにしてしまったことによる失点です。直前に浅野がシュートまで持ち込んでおり、札幌が神戸を攻め立てる流れがあったことで、集中力が下がってしまっていた面は否定できないように思います。

4バックに変更し追い上げを図る札幌

2点を追う札幌は、キムゴンヒと中島の2トップ、岡村と中村の2CBによる4-4-2に変更して追い上げを図ります。
札幌のオフェンスの形である4-1-5により近い初期配置にして、攻撃の時間を長くしたいということでしょう。通常はWBの2人が5バックの位置から5トップに加わって行く大きな移動をしなければなりませんが、4-4-2であればCHの1人が前線に移動する箇所がやや長い程度で、全体的にディフェンスからオフェンスへ移行する移動の負担が少なくできます (札幌の元々の変形が高コストすぎるだけで、このくらいの移動が普通、とも言えますが…) 。

しかし、2点をリードした神戸はすでにリスクを伴うプレスを行う意欲を失っており、札幌が攻撃に出るといっても、神戸がそれを受け止める構図はすでにゲームの流れとして必然でした。

再び中盤での活動スペースを失った札幌の攻撃は停滞し、神戸のブロックの周辺をボールが彷徨うことになりました。スローインから神戸が追加点を挙げる一方、札幌はドリブルのチャレンジから得たPKで1点を返すにとどまり、1-3で神戸が勝利しました。

感想

今シーズンの札幌は、キムゴンヒ選手の1トップが基本なのだと思いますが、このゲームでなぜ敢えて荒野選手の1トップを使ったのか。そのことについて考えたり、いくつかの発言を読むと、ペトロヴィッチ監督は現段階でかなりチームのコンディションが良くないと判断しているように感じます。

近年神戸に守られたときに手詰まりであったことを考えると、神戸を押し込んだ状況で、通常のCFタイプのプレイヤーではなく、荒野選手のように一度キープして我慢できたり、止まった状況からボールを持ち出してDFにリアクションを強いたりできるプレイヤーを置いて意外性を作りたい、という意図は理解できるように思います。この図は2022シーズンの5月のものですが、リトリートした神戸の初期配置を動かしたのは荒野選手のドリブルでした。

しかしこのゲームの神戸は札幌のビルドアップの経路に壁を作るようなプランだったため、神戸がリトリートする狭い局面を札幌が打開しようとする構図自体が生まれず、結果として奇策を使ったことが裏目に出てしまったのではないかと思います。このゲームの後半、キムゴンヒ選手の1トップで普通に臨んだほうが前半よりはやや内容があったとは言え、それでも神戸を崩すまでには至っていません。低いコンディションの中で勝つ可能性を作るには、奇策の必要性があったこと自体は想像できるように思います。

今シーズン最初のホームゲームだったということも、運悪くマイナスに働いたように感じます。チーム状態が思わしくなく通常のプレーは表現できないが、期待を背負ったホームゲームでは広島戦のように割り切るわけにもいかない、というジレンマの可能性です。本来であれば広島戦のようにリスクを回避した前進をしなければならないところ、得点する可能性をなんとか高めようと無理をしてしまったのではないかということです。しかし前提からひっくり返ってしまいました…。

このゲームの神戸は明確な札幌対策のプランを持っていました。大迫選手がコメントで満足げに言っていたのもそこなのではないかと思います。
札幌は(通常圧力が強い)ピッチ中央を避けて、相手チームブロックの外側を周回しながら進みます。前向きに仕掛ける能力があるWBをその経路上に置いているのは、そこでボールの前進が止まらないようにするためです。これを逆用すると、札幌のWBにそもそもボールを渡さないようにせき止めよう、という札幌対策が可能になります。これは今日初めて見られたものではなく、2022シーズンは広島や浦和もそうしていました。神戸がそれに加わったということは、今後他のチームもそうしてくる可能性は十分あるでしょう。これはなんとか乗り越えてほしい試練です。

それから、開幕戦よりも少し多くキムゴンヒ選手のゴール前でのプレーが見られました。自分が前向きに時間を得ている時に、それをチームメイトにスムーズにつなぐプレーの正確性、時間がない中でのプレーイメージのクリアさは本当に素晴らしいなと思います。シーズンの残り期間はまだまだありますから、そういう場面をたくさん見られることを期待したいです。おわり。

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