それは突然やってきた②
「ケアマネさんが断らないでね」と言うのよ。
困惑した表情で母は私に言った。
母は80歳を超える年齢の割にはしっかしている。買い物も、病院も一人で行けるし、食事だってそれなりに作る。その上お金の管理も一人でやっている。けれど、物事を説明するのが随分と下手になった。
主語が抜けるのは当たり前で、気をつけて聞いていても、誰に対して何を言っているかもわからない時がある。なので「〇〇さんが××のことを言っているの?」とか「お母さんに対して言われたの?それともお母さんがそう思ってるだけなの?」などとできるだけ穏やかに、丁寧に、何度も事情聴取を繰り返して状況を把握する。なんとなく状況はつかめたけれど、まだまだ不明なことが多いので翌日私が直接連絡して聞くことにしてその日はお開きとした。
翌日、確認できたのは以下の内容
①延命治療を拒んだ入所者が、緩和医療の病院に転院するため部屋が空く予定だということ
②施設側は、部屋が空いたらすぐに入所してほしいと言っている。
③今回を逃すと、次はいつになるかもわからない。
特養の順番は予約順と優先度によって決まるそうだ。父の場合、最近は割と調子がいいので緊急とまでの優先度ではないけど、母の体力の心配もあってケアマネさんが父の入所を進めてくれたとのこと。
急なことだったからご家族さんは戸惑うだろうなとか、お父さんが嫌がるだろうな、とか思ったけど、これからの母のことを考えたら入所してもらうのがいいと思うと言っていた。
「あなたからお父さんに言ってくれる?」
母は私に言った。いつかは施設に言ってもらうと説明してるからわかってると思うんだけどと言葉を濁した。
3年前の冬、寒い時期だけ一時的に養老施設に行ってもらったことがある。その時は、まだ多少歩けたので、手すりを使っての移動も、排泄も簡易トイレでできた。そこの施設が肌に合わなかったのか、1か月も経たない間に「帰りたい、帰してください。お願いします」と懇願するようになった。結局3か月の予定が2か月で家に帰ってきたことがあった。母はそのことを思っているんだと思う。私は私で今の生活が妙に心地よかったので気持ちがついていかない部分があった。
私は「わかった」と言った。
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