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私が好きなSF小説 5選

こんな話を聞いた。

ビジネスマンが、男に尋ねる。
「本は読むかい?」
「まぁ、多少は」男が答える。
「どういうのを読む?」
「小説ですかね、主にSFとか」

ビジネスマンは自分の仕事に誇りを持っている。
今、世界の経済に自分は最先端の場所で関わっていることを。
それこそがビジネスマンのアイデンティティであり、全てであった。

「小説って、それを読んで何になるの?」
「何になるって、どういう意味?」男は訊ねる。
「いや、だって小説って作り話でしょ? この世にない架空の話でしょ? それって今の世の中を動かすものではないよね?」
ビジネスマンは悪意をもって質問しているわけではなさそうで、真顔でそう言った。

男が返答に困っていると、ビジネスマンはこう続けた。
「俺は自己啓発系か、ビジネス書しか読まないよ。それが今生きている者には一番必要だから」

男は少し考えてこう返した。
「作り話(フィクション)が何故、役に立たないの?」
「いや、世の中にない作り話をしたって、今ここに生きてる俺らには関係なくない?」

男は返すべきか迷ったが、こう答えたと言う。

「いや、今の世の中にないことを想像するのが大事じゃない? それこそビジネスなら。スティーブ・ジョブズは今までになかったiPhoneを発表したし、どんなサービスでも、今ないものを考えるのが大切なんじゃないの? だから、ビジネスマンこそ小説を読むべきだと思うけど」


この話はどこで聞いたか忘れてしまったが、確かラジオかpodcastだと思う。
なるほど、その考えは面白いと思った。そんな視点でSF小説を読むのも楽しそうだ。




『プロジェクト・ヘイル・メアリー』 アンディー・ウィアー





もし未読の方がいらっしゃったら、前情報を無しで読んでもらいたい作品です。あらすじ程度なら構いませんが、レビューや感想も避けた方がいいでしょう。
この物語は、自分の名前も思い出せない主人公が目を覚ますところから始まります。
徐々に思い出していく過程を、主人公と同じ速度で読者も感じる、その臨場感を楽しんで欲しいです。

なので設定すらも語りませんが、一章を読めば引き込まれることは請け合いです。
よく小説は最初の一文が大事とか言われますが、この作品は冒頭の一章まるごとが完璧だと思います。

色々な切り口で楽しめるSF作品だと思うので、本当はその部分を語りたいのですが、抽象的な感想に抑えておきます。

構成の素晴らしさ、科学的考察の緻密さ、困難に対して知識と科学で立ち向かう姿勢、間を埋めるユーモア、SFの醍醐味である知的好奇心を刺激しつつドキドキとワクワクが止まらない、そんな作品です。


『ある島の可能性』 ミッシェル・ウエルベック



君たちのうち、いったい誰に永遠に生きる価値があるだろう?

『ある島の可能性』

こんな一文から始まる本作。
不死を扱った作品なので、哲学的な要素や考察も出てきますが、私は本作を文学的だなと感じました。
ここでいう文学的とは、内省的な主人公が迷い、悩みながら独白を続けるという意味合いで使いました。

愛、性、老化、宗教、こんなテーマを網羅した少しクセのあるSF作品かもしれません。
私はコメディアンである主人公のあーだこーだ考える、いい感じでメンドクサイ性格が好きだったので本作は十分楽しめました。


『星を継ぐもの』 ジェイムズ・P・ホーガン



古典的名作も一冊入れたいと思いこれを選んだのは、私が初めて読んだSF小説だからです。
初めてということもあり、SF小説に対する筋肉が発達していなかった私でも、いきなり首根っこを掴まれて宇宙の彼方に吹っ飛ばされました。

それくらい強烈な読書体験だったと覚えています。
本を読むだけで、こんなにもイメージや世界が広がるんだということを教えてもらった作品です。

現実ではいけない場所でも、本を読めばそこへ連れていってくれる。
分かりやすくそんな体験ができるのは、SF小説の醍醐味ではないでしょうか。


『息吹』 テッド・チャン



寡作な作家テッド・チャンの二作目の短篇集。9編の物語、どれもが洗練されています。

「決定論」や「自由意志」というテーマで語られることが多い作者ですが、物語としても非常によく出来ています。
本作の感想としては『オムファルス』のラストの締め方と、『予期される未来』で4ページという短さの中に情報を無駄なく圧縮し、それが成立してしまうテクニックが特に凄いと思いました。

個人的には現代を代表するSF作家と思っていますし、グレッグ・イーガンに肩を並べる存在と言ったら、言い過ぎでしょうか。
ともあれ次作が待ち遠しい作家の一人です。


『人間たちの話』 柞刈湯葉



日本人作家で今一人挙げるなら、私はこの人を推します。
『横浜駅SF』でデビューした作者、そちらも世界設定が見事で上質な冒険小説となっているのですが、今回はこちらの短篇集をおすすめします。

全6篇を収録した本作は、色々な世界を一冊で楽しめます。
短編ということもあり、「もう終わっちゃうの? もっとこの世界を堪能したい!」という物足りなさも感じますが、逆を言えばその名残惜しさが本作の魅力かもしれません。



おわりに


いかがでしたか。

独裁国家やディストピア、宇宙空間など、ある程度テンプレートもあるSFの世界ですが、まずは想像力を駆使したその世界に読書的興奮を覚えます。

サイエンスフィクションということもあり、科学用語もしばしば登場します。
もともと理系の学問が苦手だった私は、少しとっつきにくかったのですが、逆に知的好奇心を刺激され、自然と興味を抱くようになりました。

まだまだ私も未読のSF作品が世の中にはたくさんあります。
私の知らない『未知の世界』を冒険するのが、今から楽しみです。


ではでは。


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