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読書備忘録

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#つぶやき

死ぬべきなのは誰?

いよいよ本屋大賞候補作も最後1冊となりました。どんで返しがすごい、と口コミが広がっているので、期待して読みました。 読んだ本の紹介 出版:2022年9月8日講談社 単行本(ソフトカバー):304ページ あらすじ 感想 ミステリーを解決したかに見せて、最後の最後に犯人が真相と心境を明かす場面には、震えがきました。見事などんでん返しです。 2019年にメフィスト賞を受賞してデビューされたそうですが、私はこの著者の作品は今回が初読みで、こんなに力のある方と知りませんで

一度本を開いたらもう終わりのクイズ小説

私の通う図書館が来週から月末まで蔵書点検のため閉館になります。その前に本屋大賞候補作の最後2冊を借りることができました。昨夜はそのうちの1冊を読み終えました。 出版 : ‎ 2022年10月7日朝日新聞出版 単行本:192ページ あらすじ 感想 東大在学中の学生が次々と難解な問題を早押しで解答するという番組が、地方に住む私の町の放送局でもかなり遅れて放映されることがあるので、時折観ていましたが、最近はその数が減ってきました。 何か問題があったのか、もしくは学生の本分

あたふた族は、せわしない。

私は益田ミリさんの作品がとても好きです。ひと世代お若いイラストレーターですが、イラストレーターとしてだけでなく、エッセイ的な作品を読むと心がほっこり温かくなります。そんな著者の上京時の様子などを書かれた小説のような作品を読みました。 出版:2022年11月15日ミシマ社 単行本(ソフトカバー):280ページ 感想 第一章の中の「ひとり暮らし」の中の1節ですが、家族と離れての一人暮らしを経験したことのない私が、羨ましく感じる一言です。 私の場合は生まれた町を離れることなく

正しさに縛られ、愛に呪われ、それでも生きていく

2019年に「流浪の月」本屋大賞を受賞。映画化にもなって話題になった作家の今回本屋大賞候補作を読み終えました。 読んだ本の紹介 出版:2022年8月4日講談社 単行本:352ページ あらすじ 感想 本屋大賞受賞作「流浪の月」の衝撃が強過ぎて、今回の作品はメディアが絶賛しているほど、私には響きませんでした。私も教育現場に勤務していたので、子どもたちの家庭環境の格差には、驚くことが多かったです。まさに現実は小説より壮絶な場合も多くあるのです。 本作は主人公の暁海と櫂が

「こうあるべき」が呪いとなる

「水を縫う」で第9回河合隼雄物語賞を受賞した、寺地はるなさんの今回本屋大賞候補作を読みました。 読んだ本の紹介 出版:2022年10月20日双葉社 単行本:224ページ あらすじ 感想 謎を解くというプロットですが、登場人物たちの心の揺れが細やかに描かれています。 彼らのあるがままを描き、誰の人生も否定せず、修正もされない、怖くても厄介でも、目の前のことと向きあえば、強さに、愛になるという、主人公清瀬の成長とも重なっています。 川の底の石がわからないように、他

似ているようで全く違う、新しい1日を懸命に生きる

今や本屋大賞候補定連で、ここ数年の活躍が素晴らしく、読者層も広がっている作家の今回の本屋大賞候補作を読みました。 読んだ本の紹介 出版:2022年11月7日ポプラ社   単行本:‎264ページ あらすじ 感想 登場人物がポッドキャスト『ツキない話』を聴いているという、共通項を持ちつつ、それぞれも思わぬ形でつながっている、著者らしい連作短編集でした。 登場する人物は誰もが今を悩みながら、ポッドキャスト『ツキない話』に自然と救いを求めている辺りは、昔深夜ラジオのDJや

武器はチェロ、潜入先は音楽教室。

いよいよ本屋大賞候補作5作目、これで候補作品を半分読んだことになります。 読んだ本の紹介 出版:2022年5月2日集英社 単行本 ‏ : ‎ 312ページ あらすじ 感想 「優れた演奏を聴き終えたかのような感動が胸に満ちてくる。」と帯に書かれた村上由佳さんの言葉どおりの美しい作品です。音楽の余韻が残るように読み終えた時、まさにその余韻に浸って冷めたくなくなりました。 主人公の孤独な戦いに音楽が深く浸透し、読者をも幸せにしてくれる、そんな作品でもありました。お

私たちの日常に潜む小さな"歪み”

本屋大賞候補作もいよいよ4冊目を読み終えました。 読んだ本の紹介 発行:2022年6月30日新潮社 単行本(ソフトカバー):224ページ あらすじ 感想 著者は東京大学法学部卒で32歳という若さです。重版がかなりかかっているという噂でしたが、私が借りた図書館の本もすでに4版で、とても期待して読みました。 ミステリーとしてはとてもストレートな感じで、私が好んで読んでいた推理ものとは違っていました。これが現代社会を投影していると言えばそうなのかもなっという感じでした。

スリリングな心理戦

本屋大賞候補作を読み進めていますが、昨日はこの作品を読み終えました。 読んだ本の紹介 出版:2022年4月20日講談社 単行本:416ページ あらすじ 感想 以前、同じ作家の作品「スワン」を読んだことを思い出しました。さらに進化しているのを感じました。直木賞や本屋大賞の常連候補になりつつあります。 得体の知れないスズキタゴサクと刑事とのやりとりが面白いのですが、特に後半、取り調べの刑事が変わってからは加速度的に面白くなって、一気読みしてしまいました。ミステリーに力が

ほんの数回会った彼女が、人生の全部だった

直木賞候補にもなった一穂ミチ氏の本屋大賞候補作品を読んでみました。 読んだ本の紹介 出版:2022年11月7日文藝春秋社 単行本:462ページ あらすじ 感想 文体も美しく、物語として読み応えがありました。ただ、私にはどうしても主人公2人の心情に最後までついていけませんでした。 親、特に母親の呪縛は一人っ子の私も感じていることですが、物語とはいえ、2人があまりに残酷に描かれていて、彼女らと心を通わせることができなかったというのが、本音かもしれません。 もしかした

今日を乗り越えるパンケーキ

本屋大賞候補作が発表されてしばらく経ちました。母の今後も少し見えてきたので、読書を再開するにあたって、まずは候補作を読んでいこうと思います。 読んだ本の紹介 2022年5月27日小学館より発行 単行本:369ページ あらすじ 感想 宙(そら)という一人の少女が大人になっていく過程で、出会った大人たちの事情の中で、傷つき苦しみながらも自分の道へと進む姿を、料理という食通が飛びつきそうな題材で描いた心温まる作品でした。作品後半で登場する家庭事情で高校を中退した男の子が語

高田郁「あきない世傳金と銀13巻大海篇」

読んだ本の紹介 出版社:角川春樹事務所 発売日:2022年8月9日 文庫本:368ページ 内容:物がさっぱり売れない享保期に、摂津の津門村に学者の子として生を受けた幸が齢九つで大坂天満にある呉服商「五鈴屋」に奉公へ、徐々に商いに心を惹かれ、「衣裳とは何か」「商いとは何か」、五鈴屋なりの答えを見出すシリーズ完結編。 この本を読んだ理由 ベストセラー「みをつくし料理帖」シリーズですっかり高田郁氏のファンになり、このシリーズは出るのを楽しみにして、読み続けました。 あらすじ

相沢沙呼「invert II 覗き窓の死角」

読んだ本の紹介 出版社:講談社 発売日:2022年9月14日 単行本:448ページ 内容:5冠獲得ミステリ『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、発売即重版10万部突破『invert 城塚翡翠倒叙集』に続くシリーズ3作目。 この本を読んだ理由 第1作はミステリ賞5冠を獲得した作品というので、すぐに読みたくてKindle本を購入、その後2作目は図書館本を読みました。今回の3作目も既に1作目が映像化になったこともあり、購入しようか迷いましたが、図書館が早々と購入されたので借りて

池井戸潤「ハヤブサ消防団」

読んだ本の紹介 出版社:集英社 発売日:2022年9月10日第1刷発行 単行本:474ページ 内容:地方の小さな町を舞台にした、池井戸作品初の“田園”小説として、「小説すばる」連載中から話題を呼んだ珠玉のミステリ。 この本を読んだ理由 池井戸潤氏の作品というと、ドラマや映画と映像化された作品が多く、私も何作か観ていますが、実は著書としては直木賞を受賞した「下町ロケット」しか読んでいません。 しかし、上記の内容にもあるように今作品は雑誌「すばる」掲載時から初の地方の町で起