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読書備忘録

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2019年8月の記事一覧

消えた産着と消えない”痛み”

小川洋子氏、堀江敏幸氏の2人が描く、元恋人たちの書簡小説を読み終えました。 かつて愛し合い、今は離ればなれに生きる「私」と「ぼく」。失われた日記、優しいじゃんけん、湖上の会話…そして二人を隔てた、取りかえしのつかない出来事。14通の手紙に編み込まれた哀しい秘密にどこであなたは気づくでしょうか。届くはずのない光を綴る、奇跡のような物語。(「BOOK」データベースより) 昨日、大きな決断をひとつしました。まぶたをずっと、閉じたままでいることに決めたのです。目覚めている間も

恐怖と歓喜、自由と哀切

恒川光太郎氏がデビューして、どこかの媒体に発表したものの、本に収まらず埋もれていた作品と、アンソロジーに収録された作品10編を収めた単行本を読み終えました。 異才が10年の間に書き紡いだ、危うい魅力に満ちた10の白昼夢。人間の身体を侵食していく植物が町を覆い尽くしたその先とは(「白昼夢の森の少女」)。巨大な船に乗り込んだ者は、歳をとらず、時空を超えて永遠に旅をするという(「銀の船」)。この作家の想像力に限界は無い。恐怖と歓喜、自由と哀切―小説の魅力が詰まった傑作短編集。 (

さよならの儀式

2019年7月に単行本化された宮部みゆき氏短編集を読み終えました。 親子の救済、老人の覚醒、無差別殺傷事件の真相、別の人生の模索…淡く美しい希望が灯る。宮部みゆきの新境地、心震える作品集。 (「BOOK」データベースより) 収録作品は8編で、以下のとおりです。 「母の法律」 虐待を受ける子供とその親を救済する奇蹟の法律「マザー法」。でも、救いきれないものはある。 「戦闘員」 孤独な老人の日常に迫る侵略者の影。覚醒の時が来た。 「わたしとワタシ」 45歳のわたし

監視ドローン飛び交う息苦しい社会

TVドラマにもなった「みかづき」のあと「小説トリッパー」で掲載された新作長編を読み終えました。 平安の昔、石や虫など自然と通じ合う力を持った風穴たちが、女院八条院様と長閑に暮らしておりました。以来850年余。国の規制が強まり監視ドローン飛び交う空のもと、カザアナの女性に出会ったあの日から、中学生・里宇とその家族のささやかな冒険がはじまったのです。異能の庭師たちとタフに生きる家族が監視社会化の進む閉塞した時代に風穴を空ける!心弾むエンターテインメント。 (「BOOK」データベ

生きているその瞬間を描く

水墨画家としても活躍する砥上裕將氏が、第50回メフィスト賞を受賞し、改題した単行本を読み終えました。 両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介は、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。なぜか湖山に気に入られ、その場で内弟子にされてしまう霜介。それに反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言する。 水墨画とは、筆先から生みだされる「線」の芸術。 描くのは「命」。 はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は

百田版「スタンド・バイ・ミー」

百田尚樹氏の3年ぶりに書き下ろされた長編小説を読みました。 勇気――それは人生を切り拓く剣だ。 あれから31年の歳月が流れたが、ぼくが今もどうにか人生の荒波を渡っていけるのは、あの頃手に入れた勇気のおかげかもしれない。 昭和最後の夏に経験した、少女殺害の謎をめぐる冒険、友情、そして小さな恋。 (単行本帯より) 現在43歳の遠藤宏志が12歳で昭和最後の夏での出来事を回想する物語です。 両親の仲が悪く、家庭内離婚状態の遠藤宏志は、家が貧しく、母子家庭生活保護を受けている木島

あの人に会えたら、何を伝えるだろうか?

重松清氏が、2016年から2018年にかけて雑誌に発表した5つの短編を、単行本化した作品を読みました。 子育て、離婚、定年、介護、家族、友達。人生には、どしゃぶりもあれば晴れ間もある。結婚もして、子どもをつくり、そして、いま、家族をなくした。再会は一度別れたからこそのもの。どう分かれたかで、再会の仕方も変わってくる。会いたい人、会いたくない人、忘れていた人。重松清が届ける5つのサプリメント。(単行本帯より) 5つの短編とは、 あの年の秋 旧友再会 ホームにて どしゃぶり

「百の夜は跳ねて」を読んで

古市憲孝氏の小説2冊目にして、芥川賞候補作を読み終えました。 この小説は、決定的に新しい。「令和」時代の文学の扉を開く、渾身の長編小説。「格差ってのは上と下にだけあるんじゃない。同じ高さにもあるんだ」。僕は今日も、高層ビルの窓をかっぱいでいる。頭の中に響く声を聞きながら。そんな時、ふとガラスの向こうの老婆と目が合い……。現代の境界を越えた出逢いは何をもたらすのか。無機質な都市に光を灯す「生」の姿を切々と描ききった、比類なき現代小説。(Amazon内容紹介より) 就職に失敗

絶妙なリアリティと淡々としたユーモア

第161回芥川賞受賞した今村夏子氏の作品を読み終えました。        (Amazonから画像をお借りしました) 近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で彼女が働きだすよう誘導し、その生活を観察し続ける。(単行本の帯より) 『あひる』『星の子』が芥川賞候補となった著者による待望の最新作が芥川賞を受賞しました。 むらさきのスカートの女とおぼしき人物は、主人公の目を通してはじめ

閉じ込めた人間が許すということ

2004年6月〜8月講談社ノベルス、2007年8月に講談社文庫から刊行され、著者の作家生活15周年ということで、限定愛蔵版として発売された作品を、今回初めて読みました。 本作で著者は第31回メフィスト賞を受賞しています。        (Amazonから画像をお借りしています) 雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。凍りつく校舎の中、2ヵ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す

アートへの熱き志に男が集う

先の直木賞候補にもなった原田マハ氏お得意の美術フィクションを読みました。         (画像はAmazonからお借りしています) 日本人のほとんどが本物の西洋絵画を見たことのない時代に、ロンドンとパリで絵画を買い集めた松方は、実はそもそもは「審美眼」を持ち合わせない男だった。 絵画収集の道先案内人となった美術史家の卵・田代との出会い、クロード・モネとの親交、何よりゴッホやルノアールといった近代美術の傑作の数々によって美に目覚めていく松方だが、戦争へと突き進む日本国内で

争いの中で、もっとも意味のないもの

8人の作家が二つの一族が対立する歴史を競作の形で描くという「螺旋プロジェクト」 今日読み終えたのは、プロジェクト5作目で、ここから女性作家が2人続くのですが、まずは乾ルカ氏が登場し、「蒼色の大地」の明治と「シーソーモンスター」の昭和後期の間を埋める形で昭和前期を舞台にして描かれた作品です。         (Amazonから画像をお借りしています) 太平洋戦争末期。敗色濃厚の気配の中、東京から東北の田舎へ集団疎開してきた小学生たち。青い目を持つ美しい少女、六年生の浜野清

ターゲットは自分でないと気づく

『STORY』連載エッセイでの平成最後の5年分を納めた、人気書籍3冊目を読みました。         (画像はAmazonからお借りしています) 数々のファッション企画、美容企画を向こうに回して、必ず人気ベスト10に食い込む、長寿人気連載!(Amazon内容紹介より) 本作もエッセイ全てに林真理子節が炸裂しています。 しかし3冊目となると、ふっと思い出しました。 「ああ、これは40代の人に向けて書かれているのだ」 そう私にとっては今更という内容が鼻につくようになっ

現役解剖技官が描く医療ミステリー

現在大学医学部法医学教室で、多くの異状死体の解剖に携わる現役解剖技官が、法医学の観点から描く医療ミステリーを読みました。 著者の小松亜由美氏は本作で単行本デビューです。         (画像はAmazonから借りしています) 仙台の国立大学・杜乃宮大学医学部法医学教室。解剖技官・梨木楓は、上司である若き准教授・今宮貴継とともに日夜、警察から運び込まれる身元や死因が不明の死体を解剖している。彼らが遭遇するのは、温泉旅館で不審死した編集者(「恙なき遺体」)、顔面を破壊され