見出し画像

そういうところが好きだったよ。

noteに書いた、いくつかの自分の記事の文末を「である」でまとめるか「ですます」でまとめるか悩み、「もうどっちでもええわ!」とさじを投げたところです。今日は、色恋の実体験を語ります。


19歳の夏の終わり。

当時付き合っていた3つ年上の彼が、わざわざ自転車でむかえにきた。これから2人で彼の家にいく。

よれよれのTシャツを着ていた彼を見て、私は「それ、洗った?」と聞いた。「え?  洗った、洗った!」と笑う彼はよく日に焼けていて、まぶしそうだ。

昼間は半袖でも、夕方には何か1枚はおりたくなる。だから私は腰に水色の長袖シャツを巻いてきた。自転車を方向転換させながら彼がいう。

「今日何やる?」

「うーん、リベンジ」

前回、彼の家でした三国無双のゲームで私は全敗している。持っていないゲームで勝てるわけがない。自転車の後ろに腰をおろしながら「途中でコンビニ寄っていい?」と聞いた。

「いいよ」

何買うの? と聞かないことが心地いい。彼がこぐ自転車の後ろに乗っていると、左手にある線路のうえを特急電車が通り過ぎた。カンカンカンと遠くから踏切の音がする。ふいに、道を横切ろうとする黒猫の姿が目に入った。


と同時に、自転車の速度が急にあがる。彼がいきなり足をふんばり、力強くこぎだしたからだ。体に力をこめながら、


「よ・・・こ・・・ぎ・・・ら・・・せるか~!!」


という。


黒猫は無残にも私たちの前を横切った。猫のスピードに追い付くわけがない。「あ~あ……」と彼はうなる。「よこぎらせるか〜って何?    どうしたの?」と聞いてみると「黒猫が横切ると、不幸が起こるっていうから」と笑った。

なにそれ、初めて聞いた。いいながら私も笑った。

少したまった水たまりを、気持ち良さそうに車輪が走る。

そういうところ、大好きだったよ。









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?