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死に金(福澤 徹三)Bookレビュー

先日、Eテレの「猫も杓子も」の作家福澤徹三さんの回を見て、漫画にもなっている「侠飯」など他に有名な小説も多いが、それほど長くなくおもしろそうな小説としてこの「死に金」を選んで昨日読了した。ミステリーの要素もある小説で、最後の方はどんどん先を知りたくなり、一気に読み終わり、やはりミステリーは読書を苦にさせないジャンルの一つであると改めて思わされた。

「猫も杓子も」は毎回見るようにしているのだが、興味の出たその小説家の作品はできるだけ読むのをトライしようとしている。今回は、福澤さんの生い立ちについて興味が出て読むことを思い立った。肉体作業員や夜の飲み屋や飛び込み営業で働くなどして、ほとんど何も努力らしい努力はしてこなかったが、唯一本だけは読んできたから、その後小説家になれたのだと言う。そして、育った北九州の小倉で高校の同級生が営む高校時代から変わらない同級生の酒屋に今でも足しげに通っておでんを囲ってビールを飲む雰囲気がとても情緒があった。今の自分は子育てで忙しいから旧友や新しい友達と頻繁に飲みにいけないからこそ特にそう思うのかもしれないが、書斎にこもり孤独に仕事をして、たまに旧友と地元の酒場に飲みにいくという姿に憧れがあるのかもしれない。そうなったらそうなったで寂しくなるのかもしれないが、そこには一人になり一人で考え、そして親しい仲間と喜びを共有したい時間が欲しいというないものねだりの欲求があるのかもしれない。

この本は50歳の暴力団の若い頃からのやり手の主人公がヤミ金や夜の商売で成功し何億ものお金を貯めたが、末期がんを宣告され、遺産として残すことはせずどこかに隠し、それを取り巻く妻や暴力団仲間の人達がそのお金をめぐり争い、そのお金を求めるそれぞれの人から見た物語で社会を映しだすといったような内容である。

福澤徹三さんは番組の中で、若い人達にもいろいろな世界があるということを知らせてあげたいというようなことを語っておられた。自分のような堅気の世界に生きているものにとって、昨今の暴力団排除条例により、暴力団の世界は遠い世界のようになってきているが、困窮した時、お金をめぐる人間の本性の一部を思いださせ、自分にとっても視野の幅を広げさせた読書でもあった。会社のほとんどは有限責任といっても、窮地に陥った最後にはこういった生身の闘争があることを思い起こさせた。そして、青春の話ではないが、自分の過去の記憶と青春を思い出させた側面もあった。

こういった本を読むと、世の中にはいろいろな人がいるから、派手なことはすべきでないとか、目立つべきではないとか保守的な気持ちになってしまうのだが、これはこれと受け止めて、挑戦する気持ちは持ち続けるべかだと言い聞かせるのと、保守的にな気持ちが交錯しているということがこの本を読んだ後の正直な胸の内であった。

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