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胸の中のシーソー

「カロリー消費したいから一駅歩くから送るよ」
君と少しでも長くいたい僕の願望を
値引きシールが重ね貼りされたような
安い誘い文句で誤魔化した

それなりに都心に近いこの辺りでは
となりの駅までは高架下を歩いて十数分ほどの長さ
僕に残されたタイムリミット

さっきまでの店が美味しかったとか
明日の仕事が憂鬱だとか
話したいこととは別のものが空を舞う

等間隔で設置されたLEDの街灯が
二人の影を伸ばしては打ち消し
また伸びてを繰り返すたびに
タイムリミットは近づいていく

二人でいることの高揚感と
今日こそ伝えたかった言葉の躊躇が
胸の中でシーソーのようにゆらゆらと揺れ
それを君に感じ取られないように
また当たり障りのない会話が漏れる

目の前を横切るノラ猫が足を止めこちらを見る
「意気地なし」
そんな風に言われている気がした

そして駅の明るさに包まれタイムリミットを迎えた

君が好きだという事を伝えるなんて
10分もあればできると思っていたのに
まるで深爪でテープを捲るように
掴めなかった告白のきっかけ

一人で駅のホームで各駅停車をベンチで待つ
胸の中で高揚感と躊躇のシーソーだったものが
今は安堵と後悔のシーソーに変わっていた

滑り込んできた電車に乗り込む頃には
シーソーは後悔側に目一杯傾いた

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