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夢の先

ポストに届いた一通の封筒
綺麗とは言い難い手書きで書かれた宛先は
何か懐かしさを感じさせるようだった

引き出しから滅多に使わないカッターを探し出し
中身を見ると3枚の便箋と写真が入っていて
かつて同じ夢を見た友人からのものだった

「お前は夢を叶えてすごい」
「お前の活躍に元気をもらってる」
「年明けには子供が生まれるんだ」

そんな近況報告が書かれている
わざわざ手書きにしたのは驚かせたかったのか
照れ臭かったのか分からない
写真にはそこに住んでいるであろう一軒家の前で
奥さんと飼い犬と一緒の彼がいた
並んだ笑顔は幸せを切り取ったように眩しかった

でも僕は彼が期待したような喜び方は多分できていない

「お前は夢を叶えてすごい」

この言葉に雨雲がかかったような暗さが
心にまとわりついてくる
彼は自分の夢を僕に託しているだろう

同じ夢を目指し僕はそれを掴んだ
夢のゴールテープを切った先は
僕にとって明るいものではなく
逆に時間制限ありの出口のない迷路のように感じている

そのまま打ち明けたいけれど
一緒に君の夢だったものも汚してしまう気がして
きっとこの手紙に表面上の事だけの返信しか
できないだろう

掴んだ夢の先が幸せとは限らないよ

僕はそう呟いて便箋を綺麗に封筒に戻し
出口の見えない夢の先へ戻った

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