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流刑囚の映画百物語~第79回『ゴッドランド/GODLAND』(’22氷、丁、仏、瑞)


私流刑囚がその時々で見た映画を紹介するコーナー。今夜ご紹介するのは『ゴッドランド/GODLAND』。

本作の5点満点評価は…

コンセプト…3.5点
カメラワーク…5点
ビジュアル…5点
脚本…3点

総合評価…4.1点


これはまたすごい映画が来た。トレーラーを見た時点で直観的にすごそうな予感がしていたが本編も裏切らない出来であった。

アイスランドという土地はもともとロケ地として人気が高く、ハリウッドの大作映画などでも頻繁にロケハンの対象となってきたのだが、アイスランド出身の監督フリーヌル・パルマソンによる本作はそういった作品以上にこの土地の「魔力」をフィルムに焼き付けているといえるだろう。

全体としては前半部はヘルツォークに、後半部はベルイマンやドライヤーに影響を受けているのが明白であるがベルイマン、ドライヤーはともかくヘルツォークに関しては既に手腕において完全に追い抜いているのではないか。そう思わせる出色の出来である。

本作において描かれているのは所謂「帝国主義」の問題だ。一般的に「帝国主義」という言葉からイメージされるのは宗主国による植民地からの搾取、弾圧、差別、虐待などといった事柄であろう。もちろん本作においてもそういった側面はある程度は描かれるのであるが、それ以上に「宗主国から見た植民地」という観点が強調されるのが本作の特色である。

デンマーク(宗主国)から見たアイスランド(植民地)の大自然の過酷さ。それは大自然と対峙しそれを制圧せんとする一神教の宣教師個人の目線からすればとても自分の手に余る強大過ぎる相手だと言える。

ネタバレになるが(本来”良い映画”というのは話のネタバレ程度では何ら観賞価値を減ずることはない)本作の主人公が最終的に入植者であるデンマーク人によって拒絶され殺害されるというのも非常に示唆的である。レヴィストロースの『悲しき熱帯』が典型だが植民地支配というのは必ず宗主国の側に対しても自らが拠って立つ文化の相対化を促す。つまりデンマーク人としての自らを棚上げしフィンランドの自然、風習、伝承などをある程度受け入れなければ支配者の座に居座ることもできない。劇中で主人公と恋に落ちる入植者の娘が主人公を評し「不器用な人」と語るのだが、この不器用さ(二面性の欠如)こそが主人公を死に至らしめるのだ。

また本作において最大の特徴として見られるのが画面サイズである。本作はシネマスコープではなくスタンダードサイズ、劇中における湿板写真のサイズに合わせて撮影されている。恐らくこれは映画全体が主人公が死の間際に見た、あるいは死後に幽霊となった状態での回想であり、それが主人公がこだわりを持つカメラというメディア装置に投影されているということなのではないか。と、そんなことも考えた。

また本作のスタッフロールをみるとSFX、VFXの担当者がいることにも少し驚かされた。この映画のどこにそういった特殊撮影の入る余地があったのだろうかということだ。恐らくVFXは滝の場面(素晴らしいロングショットだ)の鳥の合成などに用いられているのではないかと思う。が、特撮にせよVFXにせよ理想はあくまでも「指摘されるまで気付かない」というところにあるのであり、そこを見誤ってはならないと改めて思うのであった。


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