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【小説】総括のコンジェルトン

第一部 帝国の分裂

第二章 死せる再生者

秘密会議の数日後、コンジェルトンとエイデンは一旦都を離れた。

エイデンは生まれ故郷であるトルゴー洞窟村にて元老院議員就任の報告をすると同時に、婚姻の儀を執り行う予定があった(※1)。トルゴー洞窟は鉱山としても知られ、そこから産出される鉱物資源はドワーフ族の重要な経済基盤でもあった。また1000年ほど前まで続いていた大魔法文明時代(※2)に宝具の一つ「デヴィヌムの斧」が製作されたのもこの地である。

一方コンジェルトンはエルフ族の聖地であり、同名の巨大な神木を祀ったレビストロンコスへと向かう。ここにはエルフ族を中心に魔法使いを統括する「大陸魔法評議会」の本部が置かれており、やはり元老院議員就任の報告を行うのであった。

といってもコンジェルトンはこれまでレビストロンコスにはただの一度も訪れたことはなかった。コンジェルトンは孤児として「世界の最果て」と言われるファーランド島で育ち、島を出た後は無宿人として各地を放浪していた。そういった境遇により、聖地という権威に対しどことなく忌避感を持っていたのだ。

トルゴー洞窟村もレビストロンコスも、都からはかなり距離がある。年2回、それぞれ4ヶ月ほど開催される元老院議会にてフェリオの懐妊が発表され、同時に第2作戦が決行されるのは半年後だ。そう時間はない。フェリオは二人に駿馬による馬車と熟練の引手、そして各地の関所を手続き無しで通過し、場合によって船などの様々な交通手段を提供する旨の通達書を手配した。


※1ドワーフ族はヒト族が半地下生活に適応して進化した姿であり、洞窟を中心にその周辺に村落を形成し暮らしている。その身体的特徴は小柄で頭部と手足が大きくぐんずりした体型であり、穴掘りに適している。しかしこの頭の大きさから出産時に母体が死亡するケースが多く、このため人口男女比に大きく偏りが生じている。こうしたこともありドワーフ族では妻帯の権利を持つのは限られた男性のみである。エイデンはこの度の魔王討伐の功により妻帯が認められた。ちなみに妻となる女性を選ぶのは長老の役目であり、男性の功績に応じて女性の家柄や容姿などが勘案され充てがわれる。

※2かつてこの世界は長きに渡り「始源神」の体の一部から生まれた幾多の神々の庇護によって平和が保たられていた。しかし時代が下り、始源神の神通力が失われていくとともに、神々はこの世界を離れ、新たに「精霊界」「冥界」が作られそこに住まうようになる。そしてそれらの世界は人類含めた様々な生物が住まう「物質界」と隔てられることになった。神々が去った後の物質界では、取り残された精霊や人類含めた動植物の一部が闇の力に落ち、魔族や魔獣が生まれ混沌とした状態が訪れた。またこの時現れたのが初代魔王である「ファロン」である。それに対し人類の一部は神々の神通力の名残である魔法によってこれに対抗した。その結果エルフ族をはじめ魔法に長じた一部の人々は特権階級となり、彼らに主導される形で長きに渡る大魔法文明時代が幕を開ける。しかしエルフ族は元来ヒト族が半樹上性に進化した姿であり、樹上生活に適した身軽さから胎盤が小型化し未熟児出産が状態化、それによって原種であるヒト族とは人口比で圧倒的な差をつけられていた。またやがてヒト族の間でも神代に使用されていた古代語の解析が活発化し、魔法を用いるのは必ずしもエルフ族の特権というわけでもなくなっていった。そして最終的にエルフ族を中心とした特権階級とそれ以外の人々との間で「フォーオン100年戦争」が勃発。この際軍事資源として大量の魔晶石が採掘され、世界は慢性的に魔晶石が不足する状態となり、その結果大魔法文明は滅びることとなった。その後世界はあらゆる部族、あらゆる国々が相争う戦国時代に突入するが、そこで主役を張ったのは圧倒的な人口と集団戦法を得意とするヒト族とその亜種であるグラスランナー族であった。そして最終的に戦乱を統一したのが現皇帝ファルムスの先祖であるアレニムス3世の帝国なのであった。しかし帝国による統一の後、農耕定住民であるヒト族と遊牧や行商を生業とする非定住民グラスランナー族との間で対立が激化。最終的にヒト族であるアレニムス4世によりグラスランナー族は都市部から追放され、辺境の地へと追いやられた。


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