『家出レスラー』とスターダム

『家出レスラー』の予告を観ても、あまり積極的に観に行こうという気にはならなかった。この映画の舞台となった女子プロレス団体「スターダム」は、理由は分からないがたまたま録画に入っていたから見出すという偶然があって、毎週TV放送でチェックしてはいる。してはいるが、そもそも推し選手はこの映画の主人公岩谷麻優ではないし(当時勢いのあった上谷沙弥選手であった)、「引きこもりだった私がアイコンになるまで」と言われても、そうかいとしか思えなかったから。本編を観るまでは。

しかし、鑑賞後は、そんな風に思っていて悪かったですと。ナメてましたと。これは、プロレスを盛り上げるためのバックストーリーですよと。それがエモいほど、試合もエモくなりますよねと。そんな、プロレスそのものを体現したような映画だった。だから、プロレス知らない人にもきっと、プロレスがもっと見たくなるような映画である、と信じる。少なくとも、岩谷選手の現在の試合を一度でも見ておくことをおすすめする。私はにわかファンではあるがもちろん見ていたので、どうなるかというともう、プロテストの時点で号泣である。こんな引きこもりの体力なしのひ弱な彼女が、本当に今のアイコンになれるのか、と想像するだけでもうだめ。その後も次々に苦難が訪れ、仲間との確執や絆、これらが積み重なって、映画の中での試合に感情をのせていく。これぞプロレス。それがつくられたものであるかなど、関係なくなる。だが、基本的には実話に基づいたストーリーであり、モデルとなった人物はいる。たとえば、「タカラ」という選手が登場するが、モデルは宝城カイリ(現WWE所属のカイリ・セイン)である(なんと、カイリ本人が自分の役を演じている!)。そのタカラ選手はマユを置いて海外に行ってしまうが、映画を鑑賞後に、カイリと岩谷絡みの試合動画を見たくなってつい見てしまう。当時を知らなくても、映画で歴史がバッチリ刻みこまれているので、その試合のエモさが更に増す、という効果もある。

ストーリーだけでなく、試合シーンもよい。選手の主観視点で殴られたり、アップで空中技を見せたり、門外漢にも試合の迫力が十分に伝わるようになっているし、実際の選手ではない役者さんも混じって試合をしているが、とても素人には見えない動きになっている。映画にも出演している朱里選手がコーチを努めたそうだが、見事なものだ。
この他、この映画の魅力としては、豪華キャストなところ。俳優では竹中直人さんがしめてくれるし、レイザーラモンや小坂大魔王、有田哲平らプロレス大好き芸人も勢揃いして好演を見せてくれる。驚いたのは、先のカイリ選手や、重要キャラとして、向後桃選手が出演していること。向後選手はなかなかの熱演なので注目。

そんなこんなで、鑑賞後は更にスターダムにどっぷりはまってしまった私は、今まで無料でTVでおっかけていたのにいつのまにか有料配信にも登録して、日々過去動画を見まくっている。最近はまっているのは、カイリさんもそうだが、鹿島沙希選手。この人は、公称45kgで、ほんとにレスラーやっていけるのかというくらい細いが、その華奢さに似合わず、とんでもないジャイアントキリングを起こさせるわくわくさを秘めている。自分の身体を利用して弱虫キャラで笑いもとりつつ、試合ではしっかり相手の技も受けるし、盛り上げ方もうまい。だからドラマものせられる。強さをウリにする選手もいいが、こういう人もいいよね。

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