レビュー『夢で会いましょう』(講談社文庫)村上春樹、糸井重里
この本の内容は、カタカナの単語をテーマに、ふたりの著者が非常に短いお話をつづるということをひたすら巻末までやりあうというものです。非常に短いというのがどれくらいかといいますと、1ページの半分も埋まらないほど短いものがいくつもあったように記憶しています。一番長いものでも、6ページにわたる程度だったかと。
ひとつあたりが短いぶん、たくさんのお話が収録されているのですが、ときおりすさまじい輝きを放って感じられるお話が、意表をつくかのようにめくったページに現れるのです。すごいなぁ! はっとした! ため息ものだ! といった感じで、音楽を鑑賞しているときの状況に重ねてみますと、「アルバム中に含められたシングル曲か!」とでも言いたくなるようなショートストーリーが収録されています。
その風合いも幅広く、違和感で内臓が浮かされでもしたような気分になるものや、なんじゃそりゃあ! とでもツッコミたくなるようなものや、キレイにオチて終わるものや、胸にわだかまりが残るようなものや、現実のことをエッセイ風に語るものや、糸井重里さんが村上春樹さんを・村上春樹さんが糸井重里さんを語るものなどがあり、その支離滅裂さを形容するとなれば、まさしく「夢」というのが個人的にはしっくりときます。
薄めの文庫本ですが、読み応えを感じました。ひとつのアイディアで何ページも引っ張り続けるようなことがないからでしょう。ワンアイディアで一冊、完結まで読ませてしまう小説本だって世の中にはあることを思うと、この本が積んだアイディアの絶対数は、かなりのものかもしれません。
あるいは「カタカナ単語をテーマに書くという“ワンアイディア”」で最後まで引っ張られた一冊ととらえることもできますが、先に述べたように、ときおり強烈な輝きを感じさせる話が、さながら食欲を増進させるニンニクの香りのような効能をもたらして、この本を隅に置けないものにしています。ショートショートがゆえに、毎回でたらめに開いたところから読み始めてもよく、そのでたらめさが持ち味といってもいいでしょう。作者たちの意中にハマっているのかもしれません。
テーマとなるカタカナ単語をどうとらえるか、ふたりの著者の自由な発想が味わい深い一冊です。
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