『幸福の経済学 人々を豊かにするものは何か』キャロル・グラハム 著

この本の最大のウリは2章の幸福概念の哲学的整理にある。ただ、肝心のそこの記述がまとまっていない…ダラダラ話が続き、その話もあっちこっちに飛ぶ印象。まあ、この分野自体が新しく、まとまってないのが原因なんですが…それ以外は普通の研究の紹介。

この手の議論は計量経済学的に問題のある手法で実証分析が行われている可能性があるので、常に注意を要する。具体的には、例えば喫煙と幸福度はマイナスに相関するとして、それが煙草を吸うから不幸なのか、逆に不幸なひとが煙草に手を出しがちなのかは区別できない。

また、経済がある一定レベル(大体1人当GDP2万ドル)を超えると、経済成長が幸福度を上げないことが知られている。経済成長による幸福度の上昇は短期的で、長期的にその効果は薄れてしまう。ただ、これは必ずしも経済成長を軽視して良いということにはならない。むしろ、経済成長の効果が短期的なものなのだとしたら、さらに経済成長を続けて人々の幸福度を上げ続けるべきだ、という議論も成り立つ。


◆目次

1 幸福――新しい経済学

・用語の使い方について:幸福・厚生・主観的厚生・生活満足度

・幸福の経済学のアプローチ

この手の研究者にありがちだが、経済主体の合理性の理解が甘い。この辺りは『人は意外に合理的』を読んでおけばある程度OK。人間は非合理かもしれないが、非合理なことを織り込んだ上で合理的な対処しようとする。もちろん、顕示選好に限界があるのは当然。

・幸福度調査から何を学べるか

「国の発展段階によらず、幸福の決定要因が各国に共通して安定的に観察される」

「格差が個人の幸せにどのように影響するか…結果は、「ケースによって異なる」」

・大きな論争――所得はどの程度幸福につながるのか

イースタリン・パラドックス

(幸福度に関する)質問のあり方が結果に影響を与える

・幸せな農民と不幸な成功者、適応能力のパズル

・統計局にはベンサムが必要か、アリストテレスが必要か

「自由主義に基づくパターナリズム」


2 幸福とは何か――行為者性と厚生の理論

・アリストテレス対ベンサム:「目的があり、意義深い人生を送る機会」vs「最大多数の最大快楽」

幸福vs満足、楽しさvsやりがい、短期vs長期、快楽vs人生評価、感情vs行為者性:所得は公社との相関があるが、前者はある一定水準を超えると相関が弱くなる

プラトン、ストア哲学、エピクロス、ロールズ、デカルト、アマルティア・セン

・経験された厚生と期待される厚生

・行為者性、選択、自己選択―――幸せな農民と不幸な成功者

性格特性、潜在能力、文化的な違い、変化

快楽と人生評価のどちらをどれだけ政策目標とするか。

・まとめ


3 世界各国の幸福――何がわかっているのか

全体的に「生まれつき陽気」とか、あまり科学的でない話が多い。

・中南米、ロシアとOECD諸国との比較

・移行経済における幸福―――中央アジア、キューバ、東ヨーロッパの場合

・アフリカにおける幸福―――楽観主義と苦境

・アフガニスタンにおける幸福―――極限状態への適応

・まとめ


4 適応理論とその他のパズル

「不幸な成長のパラドックス」

・不幸な成長、不満な成功者、より不幸な危機

・幸せな農民と不満な成功者

・より不幸な危機

・友人や自由が幸福にもたらす効果

政治体制や自由の影響

・悪い均衡への適応―――犯罪と汚職

・病気への適応―――世代や国による健康規範の違い

・まとめ


5 GNHかGNPか?

・幸福の指標が教えてくれるもの―――私たちが学んできたもの

・「幸せな農民と不幸な成功者」再び

・何を計測すべきか

アイデンティティの経済学

・一般的な構成指標に向けて

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