『現代ロシアの軍事戦略』小泉悠著、ちくま新書 1572、2021。

はじめに―不確実性の時代におけるロシアの軍事戦略

「ポスト冷戦」時代の終わり――揺らぐ国際秩序

いずれにしても、米国が国際秩序の揺るぎない中心であるように見えた「ポスト冷戦」時代からほんのわずかに間に、世界のありようは大きく変わり、混沌とした「ポスト・ポスト冷戦時代」へと突入しつつあることだけは明らかであろう。


軍事力の「効用」

ここでは、その出発点として、ルパート・スミスの著書『軍事力の効用』を紹介しておこう。NATO欧州連合軍副最高司令官を務めた元英国陸軍軍人のスミスは、21世紀の現在においては「戦争はもはや存在しない」と述べる。スミスによれば、核兵器の登場によって、20世紀後半以降の世界では古典的な国家間戦争を遂行することは不可能になった。核兵器を用いた国家間の大規模戦争は人類の破滅を意味しており、戦争によって達成されるべきあらゆる政治的目的を無意味にしてしまうからである。

(メモ者注:核保有国対非保有国、非保有国同士の戦争は排除されないのではないか? 非保有国の多くも保有国と集団的安全保障の枠組みに入っていることが多いということか?)

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