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食のインフラを影で支える黒子集団〜卸売会社で働く人たち②〜

<卸売会社の仕事とそこで働く人々>
 実際に卸売会社で働く人々はどのような仕事をしているのでしょうか。私自身、業界大手の卸売会社の社内にデスクをもらって仕事をさせて頂いたり、弊社が提供している青果流通特化型SaaS"bando"を通じて、全国各地の青果流通現場で働く方々からいろいろとお話しを伺ってきました。そんな卸売会社の仕事を一言でいうと肉体的にも精神的にも"すごく大変な仕事"だと思っています。

 一口に卸売会社の仕事といってもその業務内容は多岐に渡り、卸売会社の中で様々な役割を行なっている方々がいます。今回はその中でも、卸売業務の中心となる、荷受(にうけ)事務営業の3つの仕事についてご説明します。

卸売市場仕事

<24時間365日動き続ける食流通を物理的に支える"荷受担当"について> 
 実際に市場へ入荷してくる荷物を現場(市場)で受け取り、受け取った荷物を整理する仕事です。

 具体的には、産地や出荷者からぞくぞくと持ち込まれる荷物の検品や翌日の取引に備え、大量且つ多岐にわたる種類の荷物を正確に所定の場所へ移動させ、整理したりしています。

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 市場は基本的に365日、24時間稼働しています。カレンダー上では基本的に毎週水曜日と日曜日が休市日として定められているのですが、人々が食事を毎日欠かさずしているように、市場も完全なお休みというものは正直なところありません。

 例えば、水曜日や日曜日は売買の取引自体はありませんが、荷物の受け渡しは行われています。また、翌日以降の販売のための荷物が産地や出荷者から持ち込まれてきます。

 荷物が持ち込まれる時間というのも、産地の場所や出荷者によって様々なので市場にもよりますが(大体、午後から夜にかけて持ち込まれることが多いです)、基本的に荷受と呼ばれる方々は日夜交代制で24時間荷物の受け取りを行われています。

<日々の膨大な取引に関わる決済業務を処理する"事務担当"について>
 市場にて、日々の取引に関わる入力や、請求、支払いなどの精算業務を中心に行う仕事です。

 市場では日々、数百、数千にわたる様々な食品が売買されています。そうした一つひとつの商品については、当たり前ですが、サプライヤーとバイヤーがそれぞれ存在します。

 そうした多岐にわたる商品のシステムへの入力や精算業務を行なっているのが事務担当者です。青果流通の現場においては、まだまだ紙(FAX)が業務の中心となっており、卸売会社のオフィス内では日々大量の紙で溢れています。

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 紙と一言で書きましたが、そのフォーマットはサプライヤーやバイヤーによってバラバラです。その昔、初めて卸売会社のオフィスを訪問した際には、どうやってそうした膨大かつ多様な紙の注文書や納品書、請求書等を正確に管理できるんだろうと驚いたことを覚えています(実際は紙に加えて、電話連絡も(口頭)でのやり取りも入ってきます)。

 弊社が現在取り組んでいる青果流通特化型SaaS"bando"については、まさにそうした紙が中心の業界の慣習を変えるためのサービスなのですが、bandoの詳細は次回のnoteでお伝えします)。

 話を戻しますが、青果物というのは工業製品と異なり、(野菜やくだものなので当たり前なのですが)流通の過程で商品が腐ったり、一部がダメになって、全体の内、その分だけ値下げをするみたいなことが頻繁に発生します。

 フォーマットの違う大量の紙と、日々発生する現場取引の例外的な処理をこなし、市場の取引を縁の下の力持ちとして支えているのが事務担当者なのです。

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<青果流通の需給を左右する"営業担当者"について>
 営業担当者の仕事は大きく2つに分かれます。1つ目は産地や出荷者とコミュニケーションをとりながら農産物を集めること(集荷(しゅうか)と呼ばれます)。2つめは、集めた荷物を買参人と呼ばれる需要家へ販売することです。

 前回のnoteであげた卸売会社の5大機能のうちの"集荷"、"分荷"、"価格形成"、"情報"の4つの機能を担っているのが営業担当者と呼ばれる人たちです(産地市場など、一部市場によっては集荷と分荷をグループ内で分けているところもあります)。

 営業というと、顧客への商品の販売が主な仕事という認識が一般的ですが、卸売会社における"営業"は少し意味合いが異なります。卸売会社の営業担当者にとって難しいのは、バイヤーへの商品の販売と合わせて、商品となる農産物をサプライヤーである産地や出荷者から集めるという仕事も同時並行で行う必要がある点です。

集荷販売

 簡単に述べましたが、これらの仕事は非常に難しく大変です。まず集荷について説明すると、有望な産地や生産者(農家)の農産物は全国やその地域の市場(卸売会社)がしのぎを削りながら取り合っているのが実情です(ここでいう産地は農協や出荷者団体を指します)。

 上記の話をすると、「あれ、農産物って売り先がなくて農家さんは困っているんじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。

 上記の答えはYESでもあり、NOでもあります。YESという意味ではすこし表現が違っており、正確に言うと「農家さんは"高く安定して売れる"売り先がなくて困っている」というのは事実です。

 一方で、NOという意味では、品質も出荷量も安定している(且つ出荷数量も一定規模以上)産地や生産者に対しては、全国の卸売会社やバイヤーが荷物を取り合っているのが実情です。

 逆に言うと、そうした産地や出荷者はある意味売り先を選択できるような状態であり、一般の産地や生産者と比べて有利販売を行いやすい傾向にあります(青果流通は物理的な距離や物流網も重要なポイントのため、そうした制約はあります)。

 産地や生産者なども、当たり前ですが、できるだけ高くまとめて売れる出荷先へ出荷したいと考えており、出荷先でついた単価や出荷数量をチェックしながら出荷先を選別しています。

高い

低

(上の図は極端に書いているだけで、実際に営業担当者からあからさまに冷たい対応をされることはあまりありませんので念の為)

 卸売会社の担当者としては、そうした有力な産地や生産者に対して、いかに自分たちの市場へ荷物を出荷してもらうかが営業担当者としての腕の見せ所です。

 もちろん単純に高く、たくさん売れれば産地や生産者はたくさん荷物を出荷してくれるのですが、一部の大きな市場をのぞいて、青果物はそう簡単に(他の地域よりも)高値でたくさん販売することは難しいのが実情です(例えば、一般的なほうれん草の値段が東京と大阪で倍違うということはほとんどないと思います)。

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 そうした中で産地や生産者に対して営業担当者はどのようにアプローチしているのか。これは前回のnoteで書いた『担当者に嫌われたら試合終了!?八百屋が教える市場仕入れその②〜相対取引と事前注文取引について〜』の中のバイヤーである買参人にとって、売り手である卸売会社の担当者とどのように関係を築いていけば良いかという話と基本的に変わらないように思っています。すなわち、産地や出荷者が喜ぶことをしてあげるというものです。

 例えば、全国的に豊作で供給が需要を大きく上回ってしまっているような状況の中で(産地や生産者としては相場が低迷し売値が低く、在庫が多い状態)、多少無理をしてでも荷物を引き取って販売してあげたり、値段を頑張ってつけてあげる(高値で販売する)ことは産地や生産者からとても感謝されます。

 また、産地や生産者が新しい商品開発(新しい種類の野菜やくだものを栽培し、出荷すること)を行う過程で、販売先の開拓などのサポートしてあげるなどです。通常、新しい野菜やくだものは一般の認知度も低く、バイヤーへの販売がしにくいため、出荷先(卸売会社)が少ないケースが多いためです。

 そうした時々のサポートに加えて、これは卸売会社と買参人との間のやりとりでも説明した、日々安定した数量の荷物を販売してあげる(荷物を引き取ってあげる)ということがとても産地や出荷者としてはありがたかったりします(安定した出荷先があると産地や出荷者も生産計画を立てやすいためです)。

 これは文字で書くとすごく簡単そうなのですが、天候などの要因で需給が大きくブレる青果流通で実際にやろうとすると営業担当者自身、そして会社の利益を削ることにもなり、簡単なことではありません。

 例えば、全国的に供給過多の状況では、ただでさえ市場に溢れて買い手のいない野菜や果物を、必要な量よりも多く引き取ってバイヤーへ販売することや(基本的に青果は在庫ができない商品です)、マーケットがあるかどうかも分からない(今後できるかどうかも分からない)新しい野菜やくだものを引き取って、その商品をバイヤーへ時間をかけて説明しながら販売することは、数十円の利益を積み重ね、日々膨大な種類や量の青果を取り扱う営業担当者や卸売会社にとって大きな負担であることは容易にご想像頂けるかと思います。

供給過多①

珍しい②

 こうした状況で重要になるのが、営業担当者の買い手であるバイヤー(買参人)との関係性になります。供給過多の相場の中で通常よりもたくさんの荷物を引き取ってほしいときやまだそれほど需要が大きくない新しい種類の野菜やくだものを取引先やお客さんへ丁寧に説明しながら販売してもらいたいとき、そんなときに多少無理をしてでも協力をしてくれるような懇意な買参人がどれだけいるのか、もう少し細かく言うと日頃からどれだけそうしたバイヤーとの関係づくりができているのかが重要なポイントとなります。

 上記のような関係づくりは、供給が少なく、バイヤーが十分な商品を買うことができない状況下で、産地や生産者に頼み込んでバイヤーへ頑張って商品を提供しているか、日頃、バイヤーとの人間関係を大切にしているかなどが重要です。

供給過多②

新しい②

 このように、集荷と販売は密接につながっており、良い集荷ができれば良い販売ができ(品質の良い品物が安定して集まる場所には買い手も集まりますし)、良い販売ができれば良い集荷ができる(安定して品物が売れる場所には産地や生産者からの荷物が集まります)、鶏と卵のような状況となっています。

 そして何よりも、出荷先を決めているのは結局のところ産地や生産者の"人"であるため、"人間関係"が重要な要素のうちの一つであることも大切なポイントです。

 そのため、営業担当者は定期的に産地(主に地方の農協)へ出張にいくことも多く、実際に自分たちで足を運びながら、全国の出荷者とのコミュニケーションを常に行なっています。

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 次回のnoteでは、産地や生産者とバイヤーの間に挟まれながら青果流通をコントロールする卸売会社及びそこで働く営業担当者の知られざる苦労についてお伝えします。

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