『BANDIT vol.2』告知

現在、BANDIT編集部では11月20日に開催の文学フリマ東京に向けて、雑誌『BANDIT』を鋭意制作中です。

『BANDIT vol.2』の特集は自己啓発についてです!

不況と言われる出版業界の中でも堅調に売上を上げる自己啓発書。『嫌われる勇気』やカツマーブーム、そして『人生がときめく片付けの魔法』の近藤麻理恵さんなど人々の記憶に残るベストセラー・インフルエンサーを近年も輩出する一大ジャンルとなっています。

この特集を始めるにあたり下調べしていて面白いと感じたのは自己啓発の中心にいる人たち自身も自己啓発をくだらないと言っていること。例えば、YouTubeで「自己啓発」と検索すると以下の動画がトップページに出てきます。

この動画の中でYouTuberのDaiGo氏は「自己啓発本を今すぐ捨てろ」と言っていますが、書店に行って自己啓発本コーナーを見てみると多くの本にDaiGo氏が推薦コメントを寄せているのに気がつきます。

自己啓発だと主張してくる本やセミナーに対して私たちの多くはくだらないと考えたり半信半疑で受け止めたりしています。他方で、私たちは自己啓発的な考えに馴染み、実践してもいます。

自己啓発研究の草分けとして知られる牧野智和氏は『自己啓発の時代』の中で以下のように述べ、自己啓発に見られる自分を見つめる眼差しが21世紀を生きる私たちの自己意識を形成しているのではないかと提起します。

本書の筆者は、このことをもって自己啓発書ベストセラーの著者や読者を批判したいのではない(本章および本書全体においてもそのような意図はない)。むしろ筆者が注目したいのは、世界の法則に関する設定を伴う「強い心理主義」や、そうした世界観の正当性を常に担保できるような万能ロジックを導入して語られる、自己のあり方や生き方を断定し、導いてくれるようなメッセージが大量に産出・消費されるようになっているという事態である。そのような事態からは、2000年代において、現実、というよりこの世界全体を一つの原理のもとに単純化してくれるようなメッセージと、それを断定的に与えてくれる権威へのニーズが、これまでにないほど強く看取できるのではないかということを述べたいのである。

牧野智和『自己啓発の時代』

自己啓発に流れる感性は私たちに共通して流れる通奏低音であり、そこから逃れることは不可能なのではないでしょうか?
私たち編集部も牧野氏と同じ問題意識を共有しており、この問題意識を出発点に今号の特集を作っていきたいと考えています。

多くの人がくだらないと考える一方で知らず知らずのうちに自分たちのうちに内面化している自己啓発。それはどこから来て、どこへ行くのか。令和の時代を生きる私たちを形作る人間観の一面を取材記事や調査記事、論考などの形で伝えていきたい。そうした思いから、自己啓発に見られる言説を一方的に非難するのでもなく、また賛美するのでもない批評的な態度でこの特集をお届けできればと思います。

坂田散文


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?