7:約束|君がいたから

もしかしてと思い出したことだが、あのナンパの日の帰りも、真己は私を送るために誘いにのったのではないだろうか?買出しの品を手にして、店が忙しいことを忘れるとは思えない。

「真己くんの優しさは誰にでも向けられるけれど、菜々子だけに向けられた優しさがきっとあるはずだ」

ふと、父の言葉が頭に浮かぶ。私が気づいていないだけで、父さんにはわかるものがあるのだと。だから父さんは「真己だったら安心だ」と言ったのだ。
私だけに向けられた優しさがあるとしたら、それは一体何なのだろう?
毎回部屋まで送ってくれたのも、ナンパ事件の時に見せたようなさりげない気遣いや、好きな飲み物を覚えていてくれたのも、全部私だけに向けられた優しさだとしたら、一体何だというのだろう。
そんな風に考えていくと、全てがそう思えてくるし、単なる自惚れにも見えてくる。
そう、例えばこんなことがあった。

真己が店を継ごうと決心した理由は、「好きだから」らしい。酔っ払ったオヤジが多くても、仕込み作業がきつくても好きなのだと。

「疲れた顔して入ってきたオヤジさんたちが、料理食べて酒飲んで、たまに愚痴言ったりしてさ、それでも最後は元気になって帰る姿見たら、俺も頑張ろうって気になるんだ。自分の作ったもので喜んでもらえるのは、やっぱ嬉しいもんな」

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「側にいてよ。幸せにしてよ。また菜々子って呼んでよ」──失って初めて気付く、その存在の大切さと秘めた想い。人を愛するというのは、どういうこ…

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