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犬の話、1

「二人とも小学生になったから、犬を飼ってもいいわね」
と、母が言ったのは、私が小学四年生、妹が小学一年生の時だった。

母は友人に、仔犬が産まれたら譲って欲しいと頼んでいたらしいが、
私ら娘たちは、数日後に子犬を拾ってきてしまった。

その頃、近所のこどもらは、神社で遊ぶのが習慣だった。
遊具がいくつかあり、境内で缶けりしたりしていた。
その境内に捨てられていたのが白い子犬だった。

その日、父の帰宅が早かった。
父は、子犬のしっぽをいきなりつかんで持ち上げて、

「泣かないし噛みつかない。いい犬だ。」

それで、飼うことが決まった。が。

男子が二人、その日の夜にやってきた。
犬を返してほしい、自分たちが神社で餌をやっていたんだ、と。

父が応対した。
神社で飼うことはできない。
予防注射はどうする気だ。
ちゃんと家で飼うことができないなら、うちで飼う。と。

犬の名は「シロ」、白いから。オスである。

しばらくは「犬泥棒」と呼ばれてた気がする。

さて、シロを飼うにあたって、
母と約束したのは、

餌やりと散歩を姉妹輪番でやること。

私も妹も、今の小学生よりはずっと暇で、
その頃の小学生と比べても暇だった。
塾に行ってなかったから。
そこで、

どれくらい走ったら、シロは走るのをやめて歩き出すんだろう、と、
耐久レースのような散歩をしていたので、
シロは、長距離ランナーのように筋肉質でスレンダーになった。

そのせいか、モテる犬だった。
庭に犬小屋を置いて飼っていたが、
のら犬が発情期にメスでもオスでもやってきていた。
追い払うのが大変。

シロは中型犬で、全身白かった。体つきは柴犬っぽかった。
その頃、日本スピッツが流行していたから、
スピッツと柴犬との雑種だったんじゃないだろうか。

餌と散歩は、私と妹がやるが、
予防注射は母の役目で、シロにとって嫌な人。
犬は、家族に順位をつけて自分を下から二番目と位置づけるそうなので、
我が家でのシロから見たヒエラルキーは、





毎年、元旦に初日の出を家族で見に行くと、
太陽を見て動かない我が家に業をにやしたシロは、
必ず「母」に小便をひっかけた。
「動け」と。

そんな日々を重ね、シロは老いていった。
犬の寿命は人間より短い。

食欲がなくなり、餌を食べなくなり、最後は水も飲まなくなった。

すでに私は社会人で、
妹が大学を卒業した翌日、
シロは冷たくなっていた。

17年、生きた。

シロが死んで初めて気づいたが、
村にはシロに似た若い白い犬が、
妙に多くなっていた。

避妊手術をしない頃だったので……

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