宝箱を置く人11

11:辟易すべからず

 タケ・ヤーン・ルドルフ(通称:タケやん)と云う名の青年は、個では輝けないタイプの人物であろう。例えるならば、厳選されたスペシャルティ珈琲の香りと苦味を一層際立たせるパンケーキの様な、或いは一部の国でしか評価されなかったジャズセッションに於いてのソニークラークの様な存在。タケやんと共にあの特別な日を超えた人は皆、こう云った事を語る「あの瞬間は今でも鮮明に思い出せる。灼熱の中でも頭の中から冷却されていく様な、まるで全てが浄化されていく感覚になったんだ。それは一種の覚醒や革命だったと思う、兎に角彼とは機会があればまた一緒に冒険したかった」

 物語は終盤を迎える事となるが、Side 2の終わりに過ぎないのかもしれない。このアルバムの盤が何枚組なのかは未来が決めるからだ。ただ確信を持って云えるのは、どのアルバムであれ終わりを迎えても無音のまま回転し続けると云う事。針を上げ再び次の盤にゆっくりと針を落とす時、ノイズや無音の期間を含め、その全ての過程が意味を持つ事になる。結末がどうであれここまで読んでくれた貴方に、私は心から感謝する。スツールの中身は貴方にしか分からない。どうか一瞬でも微笑みを与える事を願って


 暗く狭い階段を上っていくとスパイスの効いた熱風がタケやんを襲う、足場が悪い為壁に手をやったが余りの熱さに思わず声を出した。全身から汗が噴き出しているのが分かる、熱風は後追いでカレーの匂いがした。このまま奥へ進んだ処で行き止まりかも知れないし、噴火の衝撃で天井が崩れてくるかも知れないとタケやんの脳裏に不安が過ぎる、溶岩が奥から流れ出てくる可能性だってある。しかし振り返る勇気も立ち止まる勇気も持ち合わせていない、唯一残っていたのは背後から感じる気配から逃げる事と死へと向かう前進のみであった。希望などもう彼からは消えている、仲間が全員き残っていない事などは分かっている。それでもこの目で確認したかったのだ、絶望を確認したかったのだ、への執着を全て振り払いたかったのだ、執着がある内は、きていたかったのだ。絶望を前提で進む、此れ程残酷で物哀しい事は無い。いや、敢えて最悪な事態を思い浮かべているのかも知れない、人間が本能的に衝撃から避ける様に。もしそうだとするなら、タケやんがへの執着を残そうとしている証拠となる。考え様によっては敗北も挫折も絶望も一種の希望だ、まだどうにでも動ける、逆に自由の身となる。このままだと九話の冒頭で書いた事と重なるのでこの話はここら辺で切り上げておこう

 場所はカレー総本山から変わって、ここは処刑場。正確に書くと正式な処刑場ではなく、魔導士が王室側を裏切った事を民衆に印象付ける為に見せしめとして設けられた処刑場である。公開処刑場は王宮の巨大な入り口の前に出来ていた。宮殿の屋上では王室側の人間を乗せた浮遊船が今にも飛び立とうとしている様で、上空には幾つもの小型浮遊船が旋回している。宮殿の処刑場から見下ろすと、城下町とその向こうに広がる港と海が見渡す事が出来るが、民衆はカレー総本山の噴火でパニックを起こしており処刑場前には殆ど人は居なかった。牢獄から処刑場へと向かう地下道では処刑人の新香と兵士二人が歩いていた、一人の兵士が新香の耳元で語りかけている。『だから何とか時間稼ぎをして貰いたいんだ、オレはこの後浮遊船に忍び込んで墜落計画を防ぎに行かないと。その後で必ず新香さん、あんたを助けに戻ってくるから』そう話すのは金髪で長い下まつ毛が特徴の兵士。見た目的には二十歳そこいらと云った所だろう、新香は青年兵士を訝し気に見て返答する

『そんな堂々と処刑人に裏切り宣言されても困っちまうよお兄さん、大体よォなんで白人兵士側は王室の人間のお命が欲しいんだ?えェ?その情報は一体どこからお兄さんの所へ流れてきたんだい?俺からしたら何も信用できねェ訳さ、えェ?それに時間稼ぎつったって稼ぎ様がないやなァ、これから処刑されんだから。俺に唄の一つでも歌えりゃ良いんだけども、どうも苦手でねェ。そうだ、漫談ってのはどうだ?処刑人の漫談なんか聞いた事ねェだろ?客から金取ったら儲かるぞ〜山分けしようやあの世でよ、へへっ、なんて巫山戯てる場合じゃねェのよ俺ァ…』

もう一人の兵士が険しい顔で金髪の青年兵士の方を見て『おいミライ、時間が無いぞ。後は俺に任せてお前はもう浮遊船へ向かえ、飛び立たれたら墜落計画が止められなくなる』

『ミライ?良い名前してんなァ兄ちゃん、俺にも未来が欲しいなァおい。参っちまうよなァ、俺を待ってるのは未来じゃなく処刑台ときたもんだ』静かに頷くとミライという名の青年兵士は屋上の浮遊船へと向かっていった。新香は残った兵士相手に話し続けた

『なにお兄さんも裏切っちゃうの?えェ?やめとけやめとけ、俺みたいに処刑されんぞォ〜えェ?まァ俺の場合は別に裏切ろうなんて思っちゃいなかった訳だけどさァ、ただ単に何て言うんだその、住職に対しての腹癒せだァな。蘇りの念仏ってのがあってね、それを試してみたかったのよ。腹癒せに人をき返らせるもんじゃないね、代わりに自分がお陀仏になっちまうんだから』


 場所は戻ってカレー総本山、タケやんは只管暗く狭い階段を昇り続けている。階段を昇りきり少し開けた場所へ出ると、急に真横から人がぶつかって来た。驚いて尻餅をつくタケやん、見ると覚えのある服装の男が立っている。ボンサックを背負ったアメリカンポリス風の格好、腰には手榴弾らしき物が付いている『いやいやいやいや、おっどろいたなオイ。誰かと思えば、あん時のサトシじゃねぇかあ』男の正体はポリコーであった。名前を間違えていたのでタケやんは辿々しく訂正した『ル、ルドルフです。タ、タケヤーン・ルドルフ』『え?…あぁ、ルドやんかぁ!ひっさしぶりだなオイ、元気にしてたかルドやん』ポリコーは阿呆みたいな顔をして口で息をしながらここに居る経緯を話し始めた。元々ポリコーは何の目的もなしにパッズゥッレィーノの斜塔を登っていたらしく、途中で勇者に遭遇したので、ここぞとばかりに用心棒をやるから大金を貰う話しに持って行き、共に上を目指して登っていたそうだ。まるで何かに取り憑かれた様に昇り続け、気がつくと開かずの扉である筈の最上階の中に一人突っ立っていた。部屋の外に出ようにも扉が開かないので困っていると、部屋の真ん中に一つの宝箱が目に入った。近付くと突然塔が崩れ始め気を失ってしまった。ボンサックがクッション代わりとなって助かったらしく起き上がると、目の前に先程の宝箱が置かれている。開けると急に山が噴火し始めたので、慌てて瓦礫を掻き分けて山の中を下りてきた様であった。タケやんはパッズゥッレィーノが目覚めたせいでカレー総本山が噴火している事をポリコーに教えた。『俺だって開けたくて開けた訳じゃないんだよッ!パッズゥッレィーノが復活したのは恐らく宝箱を開けたからなんだろうけど、俺の責任じゃないだろうがッ!』誰も責めていないのにポリコーは急に激情し始めた。タケやんが後ろからはdark knightが登ってきている事を話すと、ポリコーは正気を取り戻しこれからどうした方が良いのかを考え始めた。『参ったなぁオイ、進むも地獄戻るも地獄だなオイ。弱ったぞぉ、流石のポリコーもこれにはお手上げだぁ…』タケやんは他にき残っている人達はいないか訊ねた、するとポリコーの後ろから叫び声が『ポリコーーッ!どこにいんだぁーッ!?返事しろーッ』声のする方を見るとシケモク太郎が大声を出しながら走り回っている、シケモク太郎はポリコーを見つけるや否や『あ!居たッ!おいポリコーッ!お前一人でどんどん進むのやめろよなぁ〜!……!?た、タケやんも居んじゃんッ!オォォォ!きてたのかぁ〜〜ッ!!』タケやん達は後ろからdark knightが追って来ている事を告げた。シケモク太郎が居る所へ行くには、崖を登る必要がある。ポリコー達は助走をつけてその崖を登り始めた、シケモク野郎も上から手を貸して手伝っている。『…何処かで見た様な顔触れだ、てめェらも死に損ないか?え?おい』dark knightの声がケーブに木霊した。タケやん達は慌てて崖を登ろうとしたが、焦っている所為かなかなか上手く登れずにいる。ショットガン(ガスガン)を上手く使って何とかポリコーが一足先に上へ登った。タケやんは目一杯助走をつけて崖を登ろうとしたが、もう少しの所で滑り落ちてしまった。もう後が無い、次失敗したら追い着かれてしまう。ポリコー達に緊迫した空気が。巨大な剣を地面に引き摺った鋭利な音が背後から聞こえ、dark knightが歩幅を変える事無く冷静な面持ちで近付いてくる中、タケやんは最後の助走をつけた。渾身の力で駆け上がる、き抜く為に駆け上がる、死へと向かう為に駆け上がっていく。しかし個人の想いに反して現実は無情である。残り二、三歩の所で崖が崩れてしまった、タケやんが奈落に吸い寄せられる様に下へずり落ちて行く。そこにポリコーがショットガンを差し出し、堕ちていくタケやんを間一髪で留めた。差し出す側と受け取る側。ここからは双方の気持ちが同じでないと救える命も救えない、互いが信じ合えるかどうか。タケやんは何故か冷静に己を俯瞰していた。“この手を離せば自分は死ぬ” 否、殺されるのだ。雷雨の中、殺害から逃げ切ったあの日の出来事も。たった一瞬気を抜いただけで人間という物は息絶えてしまう、タケやんはこの螺旋となった死の狭間に眩暈がした。しかし会者定離と知りながらも人は馬鹿だ、離したがらない。それは健気で愛くるしさにも似ている、そこに愛はある。シケモク太郎も手伝って三人で一つの命を引き上げた

『おいシケモク太郎、俺の弟子はどうした?』とポリコーはやや不安げなトーンで云った

『この先でまだ応戦中だぜ。キリがねぇよ、溶岩の中から無限に湧いて来るんだ、あの赤い悪魔』と息を切らしながらシケモク太郎。この二人は知り合いで、星梅子と一緒に旅した事もあるらしい。ケーブの先へ進むとサヌッゥドォリグッィム島で出会った背広男が格闘中であった、八十センチ程の小柄な物の怪に取り囲まれている。全身が真っ赤に染まった悪魔には翼があり、飛び回りながら爪や牙で襲っている。背広男は瞬く間に四方八方に矢を放ち、一掃してしまった。周りを見ると、辺り一面に山の様に重なった悪魔の骸がある。背広男はポリコーを見つけるや『隊長さん!に、にに、人参さん凄く沢山ありますよ。てて、てんやわんや状態ですからね、汗沢山出るしね。キングダム好きか?好き?キングダム』どういった訳かポリコーは背広男に隊長と呼ばせている様で、もう忘れてしまったのか背広男はタケやんと目が合っても特に反応を示さなかった『よし、でかした俺の弟子!後ろからdark knightが来てるから取り敢えず元の場所へ引き返すぞ!』

『おいポリコー、引き返すったってあそこは塔の瓦礫で埋まっていて先に進めねーぜッ!?崩れたら危険だ、やめた方がいーよ!』シケモク太郎が云う。そうこう話している間に、下で流れている溶岩から先程の赤い悪魔が再び湧き出て来た。『兎に角ここじゃきりないから奥へ避難だ!』ポリコー達はケーブの更に奥へ逃げて行く

 そこには腐魔女が居た。一つだけ突起した岩場で体育座りをして丸くなっている。『あいつ、放っておいてくれって言ってあの状態のまま動かねーんだよ』シケモク太郎が呆れてタケやんに言うと、その声に反応した腐魔女がタケやん達を見付けた『またおまいらか。。。』そう呟くと腐魔女は再び、暗い表情をした顔を膝と膝の間に埋めた。どうやってポリコー達が出会ったのかを聞くと、ポリコーが噴火の振動に驚いて逃げている途中、どこからかやって来た背広男と鉢合わせになった。何故だか意気投合した二人はその後、崩れた岩場の奥から何者かの声を耳にした。慌てて掘り起こすとシケモク太郎と腐魔女が埋まっていた、という具合である。突然、腐魔女がタケやん達に聞こえる様な声で『もぅマヂ無理。。リスカしょ。。。』と云い出した。タケやんは少し考えて、腐魔女に話したい事があると告げた『なに?教えてエロい人。。』

『ぼ、僕はあなたに裏切られて…一度…死にました。…いや、こ…殺されました……それだの…それなのに、なぜあなたは…平気で、そんな…言葉を、く、口に…出せるんですか…?』タケやんは顔を強張らせて云った

『なるほどわからん。ソースは?』と腐魔女が平然と答える

『は…?』

『おいらがおまいを裏切ったソースだよ、ソース。証拠はよ』

『し…証拠も何も、あ…あなたは…お…覚えてるでしょう…!?』

『忘れた。一々覚えとらんわwww チラ裏にでも書いとけ、板違いにも程があるわ糞コテがw とりまソースは無いってことでおk?』

『お…降りてきて、下さい…』

『断りますしおすし。怠いですしおすし。マンドクセ。。。』そう云うと腐魔女は再び元の姿勢に戻す。それを見たタケやんは急に手を伸ばし、腐魔女の服を掴んで引きずり落とそうとした『…!な、何すんだよおい!やめろや変態ッ!はい通報しますた、おまわりさんこっちです、変態がおいらに触れてきました!タイーホして下さい』ポリコーが慌ててタケやんを止めに入る『つとむ落ち着け!放っておけこんな奴!』タケやんは名前を間違えられている事に気付いたが、それ所では無かったので訂正しなかった。騒動に割って入る様に大きな揺れが発生、ポリコー達は倒れ込んでしまった。頭上から岩が降ってきた、タケやん達は頭を庇う。『おいポリコー!ここもヤバイぜ!』『た、隊長さん!たん瘤完成しますからね、ぐぐ、グラグラですから、全体的に!』『もう無理ぽ。。。人詰んだ。。』巨大な物の怪が溶岩の中から姿を現わした、その尺は十メートル以上。全身大炎上の物の怪である。『つとむ!あ、あれがパッズーなんちゃらか!?』タケやんは実際パッズゥッレィーノを見た事が無いので困惑している、背広男が立ち上がり矢を放つ。しかし炎を貫通する様に通り抜けてしまい物の怪は微動だにしない、炎の物の怪は口から強烈な熱風を吹き付けて来た。ポリコーの服が燃え、シケモク太郎達が慌てて鎮火している矢先『…パッズゥッレィーノじゃねェだろ、この山に住む化けもんだこいつァ』dark knightはそう云いながら、剣の柄の部分にビー玉の様な青い玉を流し込んでいる。剣は途端に青く発光し始めた。炎の物の怪がdark knightに向かって息を吹き付けた、剣で受け止める様に構えている。何事も無いかの如く、青く発光した剣を物の怪の頭部目掛けて放つ。見事突き刺さった。物の怪は見る見るうちに炎からシャーベット状に変化していき、遂には溶けて溶岩の方へ流れ落ちてしまった。ケーブ内には溶岩が煮えたぎる音だけが鳴り響いている。タケやん達が唖然としているとdark knightはゆっくりと剣を拾い上げ、近づいて来た。突起した岩場に座ったままの腐魔女を見付け、そこへ向かっていく。『…よォ、俺の右腕が世話になったなァ糞尼。アイツから見付けたら宜しく言っといてくれって言われてんだ、お元気でしたか?腐れビッチ野郎がッ』腐魔女は嫌そうな顔をしながら小声でこう呟いた『チッ。。しぶてぇなきてたのかよ。。。』dark knightは剣を左手に持ち替えると、右腕で腐魔女が座っている岩場を軽々と粉砕した。腐魔女が転がり落ちる『れ、レディーに手を出すのかよテメェ!』『…黙れ。殺す価値もねェよお前には』dark knightはそのまま通り過ぎてしまった。振り向き様にタケやんを見付けると、左手に持った剣を振り回した。タケやんは条件反射で尻餅を付いたが、額が大きく割れて大量の血が流れ出た。瞬く間にタケやんの顔が真っ赤に染まっていく。ポリコー達が駆け寄った、背広男がdark knightに向けて矢を放ったが弾き返されてしまった。皆が慌てふためいているとdark knightはケーブの奥へ歩き出した。『…言っとくがもう戻れねェぞ。入り口は噴火で流れ出た溶岩に浸っちまってる、きたきゃ頂上目指す事だな。ま、どの道パッズゥッレィーノを成敗しねェと終わっちまうが』それを聞いた腐魔女は笑いながら『/(^o^)\ナンテコッタイww /^o^\カレーソーホンザーンがドッカーンwww』シケモク太郎は急いでタケやんの頭陀袋から青い薬草を取り出し、タケやんに飲ませた


 総本山の溶岩は王宮のある城下町の方へ流れ出ていった。民衆は更に大混乱となり、今度は港ではなくより高い場所へ避難しろと近くの山や王宮などに人々は詰め掛けた。しかし公開処刑を控えた白人兵士側は受け入れを拒否した為、暴動へと発展。鎮圧する為に兵士達は数人の民衆を取り押さえ、重傷を負わせた。それを見た人々の中で流言蜚語を流す者も現れた。総本山の噴火で王室側がおかしくなってしまったので、これを治すには生贄が必要だと騒いでみたり、この噴火は黒人達の祟りだから墓標を作ってやらなければ噴火は収まらないと騒いでみたり、この天変地異は隣国による攻撃だの、魔女による復讐だ、裏切った魔導士が起こしたものだ、噴火はこの星がもうすぐ爆発する前兆だの、私に賽銭すれば噴火は収束するだ、あのマグマの中へ飛び込めば違う星へワープ出来るなど、様々なデマが人々を混乱へと導いた。その騒ぎの中に混じって住職と鉄火、河童や納豆が口論している。内容は新香を兵士側に売ったのは住職だというもので、住職も躍起になって反論している。『親父ィ!一体どういう事なんだ、新香が処刑だなんて』大声を発しながら大衆を掻き分けて来るのは楽大である。住職達の云い合いは更に続いていった


 タケやん達がdark knightの後を追っていくと、辿り着いた先にはパッズゥッレィーノと勇者、瓦礫の山の上には泣きながら星梅子を抱き抱えているちさとが居る。巨大なパッズゥッレィーノを相手に勇者の顔には涼しい表情が浮かんでおり、両手には金色の剣と銀の盾を構えていた。『…随分と余裕な面してるじゃねェか、え?おい、ザッセン』と、dark knightは剣の柄の部分に黄色い玉を流し込みながら云う。『なんだきていたのかグロッソ・バスタ。だろうな、猿は逃げ足だけはすばしっこいって云うからな。もう少し待ってろ、今この化け物に止めを刺すから。貴様を葬るのはその後だ』ザッセンは顔だけ向けながら笑った。悍ましい容姿をしたパッズゥッレィーノが怯んでいるのを見ると、どうやらザッセンと交えた後の様だ。ザッセンは臆する事無くパッズゥッレィーノに近付いていく。ケーブの外では無数の鴉が風を切る様な威光で総本山へと向かっていた、一羽だけ石製の光沢を帯びた杖を咥えている、総本山の頂上付近でその杖を落下させた。杖はちさとの頭上へと転がり落ち、杖から紫色の煙が湧き出る、その煙は忽ちちさとの母親である魔女へと姿を変えた。『全く何考えているんだい、パッズゥッレィーノがあんな若造の手に負える訳無いだろうに…とんでもない怪物が目覚めちまったよ、全く。放っておいたらこの大陸どころの話じゃ無いね』魔女ママは深刻そうな顔をしている、ちさとが泣き喚きながら星梅子が瀕死の状態である事を伝えると、魔女ママは暗い表情のまま梅子の顔に手を当てた。遠くで誰かの声が聞こえ、一本の矢がちさと達の側へ放たれた。見ると矢には青い薬草が括り付けられている。飛んできた方を見るとタケやん達が居た。ちさとは思い出した様にヱビスの鎧をタケやんの方へ投げた、兄である楽大からタケやんへ渡す様に頼まれたらしく、表面の層は予め割られた状態であった。タケやんは慌ててそれを身に付けている。魔女ママは梅子に薬草を与えながら『梅ちゃん、梅ちゃん、しっかりしてちょうだい。あの化け物がまた目を覚ましたみたいだわ。どうやら私達の最後の力を発揮する時が来た様だよ、梅ちゃん』と言った。梅子はゆっくりと目を開き、苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべた『……またアイツが復活したのかい…あたしゃ思い出すだけでも御免だよあんな化け物…まさかこの歳で再び目にする事になるとはね…これなら死んだほうがマシだったね…』『何言ってんの梅ちゃん、まだまだ長きしなきゃだヨ』『…そういえばね、ボボンガと訣別して来たよ…昔はシュッとして男前だったのに…すっかり化け物の姿になっちまってさ…』『そうだったの、辛かったでしょ梅ちゃん』『いや良いんだ、いつかはケジメを付けなきゃ駄目だったんだから。心残りが無くなってスッキリしたよ』『さぁ本当にこれで終わりにしよ、私はこれから流れ出た溶岩を止めに行かなきゃ、梅ちゃんはパッズゥッレィーノを封印して。最後だから、ほれがんばんな、がんばんな』そう告げると魔女ママは外へ飛び出して行った

 ザッセンが止めを刺す様に怯んだパッズゥッレィーノを切りつけた途端、辺り一面が漆黒に覆われた。照らされている訳でもないのにザッセン達の姿が闇の中に浮かび上がる。闇の奥で何かが蠢き始めた『キタ———(゜∀゜)———— !これあかんやつやww』ザッセンが再び剣を振り上げた瞬間、爆破される様に左腕が吹き飛んだ。倒れ込んだザッセンは呻き声を上げている。タケやん達が凍りつく中『BBAがアップを始めたようですwww』腐魔女が指差す方を見ると、梅子が準備体操をしていた


タケやんは再びヱビスの鎧を手に入れた。

最終話へつづく

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