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"ケープタウンはいいところ"Khayelitshaのドキュメンタリーから

南アフリカのケープタウンは、世界中からの観光客を魅了する美しい都市だ。海もあり、山もあり、世界でそこにしかない植物区があり、ケープペンギンなどの動物も見ることができる。
アフリカというイメージからはきっと想像つかないラグジュアリーなサービスが比較的安価で提供される。

例に漏れず、私たちもヨハネスブルグに住んでいるが、年に1回くらいはケープタウンに行く。こちらに住んでいる日本人の人の方からも「ケープタウンに老後住むのもいいかも」という声を聞くことがある。
南アフリカに留学しようと思う(というだけでレアなんだけど)人の多くも、ヨハネスブルグよりはケープタウンがいいかな、という人が大多数だ。

ケープタウンは美しい

それに異論がある人は少ないと思う。

「人種差別の匂いがする」

面白いエピソードがある。南アフリカ人でノースウエスト州出身の友達は、ケープタウンについてこう述べたのだ。

「ケープタウンが美しいことは間違いないし否定しないけど、私は好きじゃない。人種差別の匂いがするから。あそこに行くと自分の国にいる気がしない」

ヨハネスブルグが嫌で、ケープタウンに行く人の話も聞くが、少なくとも私の接するコミュニティでは、同じくらいケープタウンが嫌でヨハネスブルグに住んでいる(あるいは仕事上仕方なく2拠点している)人の話も聞く。

いわゆる、アパルトヘイト時代に差別されてきたグループの人たちだ。

ケープタウンで最も危ないエリア(の一つ)

Khayelitshaというタウンシップがある。そこのドキュメンタリーが最近公開になったので紹介したい。
全編英語の字幕がついているので、英語がわかる人や勉強中の人はぜひ見てみてほしい。

Khayelitsha(カヤリチャ)は、おそらくケープタウンに行ったとしても、この場所に足を運ぶ人はとても少ないはずだ。ただ、ケープタウンに行ったことがある人は、誰もが見るであろう、空港から市内に車で向かうときにみる、明らかに貧困なエリアがあるのだが、それがKhayelitshaである。

Khayelitshaも含めて、ケープタウンにはいくつかのタウンシップがある。タウンシップとは、アパルトヘイト時代に人種ごとに隔離するために作られた居住区で、白人以外の住民にあてがわれた地域だ。今でも失業率や貧困率、犯罪率が高いことが多い。

Khayelitshaは、その中でも貧困率・犯罪率が高く危険な場所だと言われてきた。しかも犯罪率は近年どんどん上がっているという。

ギャングスターリズム
ドラッグ
GBV(ジェンダー・ベースド・バイオレンス、ジェンダーに基づく暴力)
・・・暴力が蔓延するこの一帯では、夜中は警察のパトロールすら危ないくらい治安が悪いのだ。

ケープタウンの周辺には、他にもこうした”危険地帯”がある。
例えば、ケープフラットという元々カラードと呼ばれるいわゆる”混血”の人にあてがわれた居住地だ。そこもドラッグが蔓延して危険地帯の一つ。
こうしたエリアに暮らす人たちは、日々暴力の危険に晒されている。観光客や一部の特権を持った人が、自然を楽しむ中で、タウンシップの暮らしには、自然がない。元々人為的に作られた都市であり、自然資源からは隔離されているのだ。
出口の見えない負のスパイラルの中でも、若者がギャンスター以外のロールモデルを見つけて、希望を持って生きることができるように、活動している人たちもいるが、そうしたものの多くは民間主導のもので、政府によるサポートはほとんどない。

ケープタウンの山の向こう側とあちら側


ケープタウンの美しい自然の象徴的なものの一つが、美しい山である。
テーブルマウンテンは、名前の通り頂上が平らになっていて、その上にしか生息しない珍しい植物の生態系が広がっていてとても神秘的な場所である。

しかしそうした美しい山の海側(アパルトヘイト時代からの富が蓄積され、欧米からの観光客で溢れる)と、反対側では全く異なる現実があるのだ。

海側だけ見ると、ケープタウンは他の南アフリカの地域よりうまく行っているように見えるかもしれない。計画停電も少なく、ダウンタウンも比較的歩けると言われている。(とはいえ、観光客狙いのスリや財布などの強奪はあるので皆さんお気をつけください)
一番は、お金さえあれば、ジェネレーターや警備員がしっかりついた良い設備があるから、快適に過ごせるというのもあるかもしれない。

しかし、その繁栄の裏には、見捨てられてコミュニティがあることに、思いを馳せる人が少しでもいるといいな、と思い今回のエントリーを書いてみた。

ケープタウンの不動産の価格は、アパルトヘイト後にグッと高騰した。30年以上現地で暮らしている日本人の方は「欧米の人が不動産をどんどん買い上げるので、ローカルの人の暮らしが経ちいかなくなっている」と嘆いていた。ドイツ系など外国資本の学校も増え、物価も賃貸も上がって生活が苦しい人も多い。ダウンタウンを見ると、人種限らずホームレス状態の人が多いのも目に付くと思う。

そして、Khayelitshaはじめとしたタウンシップの現状がある。元々分断するために作られた地域なので、ある程度お金さえあれば、見なくても暮らすことができる。臭いものに蓋をするように、放置してされているようにも見えるのだ。

そうしたエリアからの安い労働力に頼った搾取的な経済から、南アフリカが抜け出す日はくるのか。

最近の選挙の結果を見て、なかなか道は遠いなと思いながら考える日々である。


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