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下半分の沈黙

僕の表情筋は硬い。

誰かと話す時、上手く笑えないことがたまにある。昔からだ。
自分が今相手の目にどう映っているのか。気にし始めると、どんどん表情はぎこちなくなる。笑っている方がいいと思いながら話していると、口は横方向にばかり広がっていって、う段の発音が下手くそになる。

とはいえお手洗いに抜け出して鏡を見ると、意外と変ではないことに安堵する。そして少し滑らかに話せるようになる。


先日、大学の学科の同期と久しぶりに飲みに行った。
学科同期でありサークル同期でもある彼とは馬が合う。考え方や趣味に近いところがあるので、話していると非常に心地よい。飲むのはかなり久しぶりだったからか、最初は表情筋が言うことを聞いてくれなかったのだが、楽しく話すにつれてほぐれてきた。そこでふと僕はこんなことを口にした。


「人間性って顔の下半分に出ると思わん?」


先入観

僕のインターン先はシフト制なので、どうしても出勤の被らない同僚が数人いる。その中でも一人、とても面白い女の子がいる。面白いということをなぜ知っているかといえば、定期的に行われる研修では顔を合わせるからだ。言いたいことをしっかりと自信を持って伝えられ、ツッコミにも慣れており、上司のいじりにもキレッキレの返しをする。世渡り上手タイプだ。それでいて鼻につく感じもないので、人として非常に魅力的な子。しかし、僕はこんな性格なので彼女とは正直上手く話せなかった。キラキラオーラに圧倒されて、失礼ながらちょっと怯えてしまうのだ。
ここで大事なのは、圧倒されていたのは彼女の言動に、だけではなく、彼女の目線に、だった。ぱっちりした二重にキリッとした目元。内面の潔さがまぶたに宿っていて、まさに「目力が強い」のだ。とても素敵なことなのに、僕は少しそれを怖がってしまっていた。

しかし、そんな彼女に対するイメージが崩れる出来事があった。

先日、忙しい彼女がようやく参加できた同僚飲み会があった。
マスクを外した彼女。


あれ?

思ってたんと違う。


目元から想像していたよりも、はるかに顔全体の印象が優しげだったのだ。


彼女の頬は笑うとグッと盛り上がって、親しみとあたたかさを感じさせてくれる。しっかり上がる広角もチャーミングだ。
目元からして顔全体が「強い女」系だと勝手に思っており、勝手に苦手だと感じていたのだが、全くそんなことはなかった。拍子抜けした。一方的に失礼な印象を抱いてしまっていた。以後、飲み会では彼女に対して感じていた心の壁を取っ払って、フランクに接することができた。

彼女の「攻めの気持ち」は目元に表れていたかもしれないが、「人の良さ」は顔の下半分に表れていたのかもしれない。



いい写

そういえば僕のカメラロールを見返してみると、写りのいい写真はたいていマスクをしている。
コロナ以降のマスク生活の中でのお出かけなので当然といえば当然なのだが、そういえば、かつて写真写りで気にしていたのは口元だった。

真顔も変だし、モデルみたいな口元にしても白ける。
とはいえ、唇を閉じた状態で笑うのもぎこちなくなってしまう。

だから大体は満面の笑みで写真に写り、それが最善だと思っていた。まあこれは誰にとっても最善なんだろうけど。

顔の下半分に人間性が表れる、という仮説が正しいとしたら、マスクは被写体の人間臭さを覆い隠し、目元を中心とした頭部のファッション性だけに見る側を誘導しているのではないか。目元にも感情は宿るけれど、感情全体を答え合わせするには口元も必要で、目は見る側によっていかようにも解釈できるような、複雑な光を放っているのではないか。
何といえばいいのだろう。口元には本音が表れるとしたら、目元には嘘をも含んだ感情のエキスが滲み出ている、とでもいうべきか。口元に本音が表れるというのは、例えば漫画やアニメのワンシーンで嘘をついた悪役が「ニヤリ…..」としたり、逆に、無理して笑っている口元が逆に悲しみを示していたり、突然の推しの供給に電車の中でニヤニヤが隠せなかったり、みたいなところから僕が勝手に考えていることだ。
いやでも目は口ほどにものを言うともいうよな….いやその場合の口というのは言葉という意味だろうけど……..

やや話が脱線したが、写真映りの良さにも顔の下半分は大きな影響力を持っているのではないかという話。




今日はこの辺で。続きはまた今度。
本当はもっと書きたいのだが、ちょっとやらねばならぬことができたが故。
そして疲れたが故。^^


マスク生活の中で他人を知るというのは極めて難しくなった。
同時に自分のことを知ってもらうのも難しくなった。
だから尚更、自分の顔を晒すのが怖くなってきてはいるが、
もしそれで僕への理解を深めてもらえるのなら僥倖だ。


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