見出し画像

【ANGELs ユーザーインタビュー】


はじめに

 近年、エンジェル投資はスタートアップにとって必要不可欠な資金源として注目を集めています。エンジェル投資による資金調達にあたって、専門家の協力は必要不可欠ですが、専門家自身の手で作成されているエンジェル投資のための雛形などは、ほとんど存在しませんでした。
 そこで、BAMBOO INCUBATORは、専門家集団として有志を募り、エンジェル投資に必要不可欠な投資契約書雛形である「ANGELs」を開発・公開しました。


 今回、実際にANGELsを利用してエンジェル投資を実行されたユーザー様にインタビューを行い、その貴重な意見や体験を記事としてまとめました。
※記載の状況は、取材当時(2024年5月27日)のものです。


インタビュイー

起業家
横井一隆:株式会社moze 代表取締役
 株式会社ZUUで、Webメディア事業の編集やマーケ、事業部長を務めた後に、合同会社暗号屋でブロックチェーン・エンジニアを経験。2023年9月に株式会社mozeを設立。DAU7000万を超えるUGCプラットフォーム「Roblox」上で事業活動を行っています。
https://www.moze.ai/

エンジェル投資家
福田和博:株式会社ハンズオン 代表取締役
 横浜で経営者・起業支援家・エンジェル投資家として活動。
「神奈川ワーケーションNavi」編集長。日本ワーケーション協会公認コンシェルジュ。iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授。実業の傍らエンジェル投資家としても複数社に出資を行っている。https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41



サマリー

・特に最初の資金調達では、メリット・デメリットを比較勘案した上で、起業家サイドから資金調達方法を提案するのは難しい。

・プレシード、シードでの普通株式での出資については、投資契約書を締結せず募集株式引受契約書のみで出資を行っているのが実情である。

・今回、普通株式・みなし優先株式について雛形群が示されたことには大きなインパクトがある。
・起業家がこれからの士業に求めるのは、クラウドツールに精通していることである。

・ANGELsご利用にあたり毎月3社無料サポート実施中!



インタビュー内容


1.自己紹介と馴れ初め


Q.お二人の自己紹介をお願いいたします。


(横井氏:起業家)
 横井一隆と申します。現在、アメリカのUGC(ユーザー生成コンテンツ)プラットフォーム「Roblox」上で事業活動を行っています。このプラットフォームは、主にゲームや3D空間を提供しており、毎日約7700万人のユーザーが訪れる巨大なプラットフォームに成長しています。しかし、日本の企業やクリエイターはまだ進出していないため、私たちはその支援を目的とした会社を共同創業しました。  
 当社は、若年層向けのゲームやメタバースコンテンツを提供しており、現在までに3つのゲームをリリースしています。また、日本企業がRoblox上で自社の事業や商品を宣伝するためのメタバース環境の開発も行っています。

(福田氏:エンジェル投資家)
 私は福田和博と申します。エンジェル投資家として起業家支援を行っており、元々は東芝での研究開発やソニーでの商品企画に携わっていました。現在は株式会社ハンズオンで起業家支援やメディア運営を行いつつ、個人でもエンジェル投資をしています。これまでに約20社のスタートアップに投資しており、最近は横井さんの会社にも投資しました。


Q.お二人の出会いについて教えてください。

(福田氏:エンジェル投資家)
 出会いは、横井さんからのナンパでした(笑)。というのは冗談で、
東京・八重洲にあるコミュニティバー「THE FLYING PENGUINS」で偶然声をかけられました。そこで横井さんと話す機会があり、彼の事業プランに興味を持ちました。
(横井氏:起業家)
 福田さんに声をかけたタイミングで、エンジェルラウンドでの調達を検討している段階でした。福田さんは、お話していて落ち着きを感じ、非常に親身になってサポートしてくださる姿勢を感じました。


Q.なぜ横井さんに投資することを決められたのですか?


(福田氏:エンジェル投資家)
 わたしは、全くゲームをしない人間なんですが、前職でかなり早い段階からメタバースの研究には関心がありました。正直、最初の事業プランを聞いた段階では成長性に疑問を感じましたが、若い起業家の場合には、いくらでもピボットすることもありえますし、横井さんが学生時代の友人を共同創業者として迎えいれている点に興味を持ち、詳しく話をきいてみることにしました。
 詳しくきいてみたところ、創業チームが中高だけでなく同じ大学で同じVRサークルに所属していて、強い信頼関係で結ばれていることがわかりました。また、横井さんが事業開発を行っているプラットフォームであるRobloxは他ではできない若い世代にリーチできるプラットフォームであり、今後の市場性も高いと感じました。
 つまり、わたしは「起業チームの信頼感」と「高い市場性」から横井さんの会社に投資することを決めました。

Q.初めて外部から調達するにあたって福田さんをエンジェル投資家として受け入れることを決めたポイントはありますか?


(横井氏:起業家)
 福田さんは非常に相談しやすい人であると感じていました。最初のイベントで出会い、その1週間後ぐらいに1回30分のオンラインミーティングでピッチを行い、さらに1週間後ぐらいには横浜の野毛で一緒に飲みに行く機会がありました。その際、福田さんが「応援するよ」と言ってくれたことや、かなり具体的なアドバイスをいただけたことが大きな理由です。

 また、最初に入る投資家としては、起業家と同じ目線にたてる普通株としての出資で入ることを福田さんから提案くださり、起業家と同じ立場で考えてくれる投資家であると感じました。これらのやり取りなどから、ぜひ福田さんとご一緒させていただきたいと思うようになりました。

2.ANGELsと他の資金調達手段の比較


Q.普通株という話がでましたが、投資のスキームを考えるにあたりどのようなものを比較検討されましたか?また、最終的にANGELsに決定された理由はなんでしょうか?



(横井氏:起業家)
 最初は、詳細まで理解していたわけではないのですが、なんとなく普通株で出資していただくことをイメージしていましたが、同時にJ-KISSの話もでていました。特に、普通株の投資契約書の雛形もなかったので、雛形のあるJ-KISSにしようかとも考えましたが、J-KISSだと投資いただいた年にエンジェル税制が使えないという問題がありました。
(福田氏:エンジェル投資家)
 横井さんからJ-KISSの提案を受けた際には、多くの起業家が採用しているポピュラーな資金調達手法であることは認識しつつも、特に他のエンジェル投資家との兼ね合いから、上記のような問題点があり、これはわたし自身には問題ないのですが、他の投資家にとってはどうかという点も考慮し、わたしのほうからは普通株も検討すべきだと提案しました。

(横井氏:起業家)
 わたしのほうでもともとJ-KISSを採用しようと考えた理由は、最近J-KISSによる資金調達が一般的になっていることや、雛形があること、そして株主間契約が不要なためです。
(福田氏:エンジェル投資家)
 ええ、確かにその理由は理解できます。しかし、今回のような状況では、直近X(旧:Twitter)でBAMBOO INCUBATORが普通株・みなし優先株の雛形であるANGELsをリリースしたことを知り、雛形がないという問題は、ANGELsがリリースされたことで解消されており、普通株でも良いのではないかとわたしから提案しました。

(横井氏:起業家)
 わたしは、それまでANGELsの詳細については理解していませんでしたが、福田さんの提案を受け、その雛形の詳細な内容を確認しました。
確認したところ、これならフェアに合意できると感じたので、普通株による提案をおうけしようと思いました。
(福田氏:エンジェル投資家)
 提案を受け入れてくれてありがとう。最初にJ-KISSの話が出たときは、それでもいいかもしれないと思いましたが、最終的には普通株のほうが合意がとりやすかったように感じます。


3.ANGELsに対する感想


Q.「ANGELs」をつかってみていかがでしたか?


(横井氏:起業家)
 起業家の立場から見て、ANGELsの契約書の中身は非常に読みやすく、理解しやすかったです。雛形だからとりあえず中身を理解せず使おうとすることなく、内容についてもしっかりと理解した上で使用することができました。契約についてもスムーズに進めることができました。また、契約書以外にも登記に必要な書類が一式揃っていたため、全体的にスムーズに手続を進めることができたと思います。
(福田氏:エンジェル投資家)
 エンジェル投資家の立場から見ても、ANGELsの契約書は好印象でした。まず、普通株とみなし優先株の2つの選択肢がある点が非常によいと感じました。
 プレシードやシード期では、J-KISSが使用されるのが一般的ですが、投資した年にエンジェル税制を即時適用できない、というデメリットがあります。株式に転換した年に適用できる可能性はありますが、その時点で会社や投資家がどのような状態であるかもわかりません
 これまで、普通株で投資する際には、多くのケースで投資契約書を締結せず、募集株式引受契約書のみで出資されているのが実情でした。しかし、これは双方にとって大きなリスクを伴うものであり、出資の際には、投資契約書が同時に巻かれることが必要だと考えていました。
 しかし、プレシードシード期のSUが、弁護士さんのリーガルレビューをうけて投資契約書を締結することは現実的ではありません。個人的には、エンジェル投資家側から契約書を提示することは好きではないですが、普通株で出資をうけるのは初めての資金調達の起業家が多いことを考えると、ANGELsのような専門家によるリーガルレビュー済みの標準的な投資契約書雛形が存在することは非常に重要だと感じます。
 ANGELsのリリースを知ったときには、正直なところ「待ってました!」という気持ちでした。改めて内容を確認しても、中立的な立場で作成されたものであり、納得できるものでした。忖度しているつもりは全くなく本音でそう思っていますよ(笑)。
(横井氏:起業家)
 実際に使用する際にも、今回は司法書士さんへの登記申請の依頼をすることもなく、弁護士の先生からのリーガルレビューをうけることもなく使用することができました
 個人的に懇意にしている大手法律事務所の先生にリーガルレビューを依頼しようとしたところ、ANGELsであれば、特にリーガルレビューは不要です、というアドバイスをうけそのまま使用しました。

Q.ANGELsのみなし優先株に関する雛形の利用も検討されましたか?

(福田氏:エンジェル投資家)
 実は、今回、横井さんとの交渉の中で、みなし優先株も検討してみませんか?と提案しました。他のエンジェル投資家との兼ね合いもありますので、1つの案として検討してくださいとお伝えしました。最終的には、横井さんが普通株での出資を希望されたので、それに従いましたが。
(横井氏:起業家)
 確かに、最初のラウンドで、最終的には普通株を選択しました。BAMBOO INCUBATORさんのみなし優先株に関するウェビナーも拝見しましたが、最終的には全てのエンジェル投資家との間で、普通株でよいとの合意がとれたためです。

(福田氏:エンジェル投資家)
 投資家側は、普通株ではなく、エクジットの際の残余財産分配を想定し、また、未来の成長を信じて、将来優先株に転換する可能性のあるみなし優先株を希望するかもしれません。しかし、わたしは最初期のエンジェル投資家は、起業家と同じ権利の弱い普通株でよいと考えています。また、超マイノリティ出資でよいと思っています。今回のラウンドのリードエンジェル投資家として、契約交渉をリードする立場ではありましたが、他のエンジェル投資家も含めて、普通株で合意が取れて良かったです。
 エンジェル投資家として、最初期の投資は起業家と同じリスクを共有することが重要です。普通株での投資は、起業家との信頼関係を築くためにも重要です。

Q.ANGELsを利用してみて使いづらかった部分や改善してほしい部分はありますか?

(横井氏:起業家)
 特に、登記申請については迷いがでやすいところなのかなと思いました。この登記申請の際に、どの書類をどのように提出すべきかで迷いました。特に、投資契約書をどのように処理すべきかなどについて、迷いが生じました。
 それについて、より細かい部分も含めたガイドがあると、もっとスムーズに進められたと思います。
 また、今回は、登記は司法書士さんにお願いせずに自分で登記してみましたが、書類提出方法の不備により、法務局から差し戻されるというトラブルもありました(笑)。
(福田氏:エンジェル投資家)
 登記は司法書士さんにお願いしましょう、ということですね(笑)。


4.今後について


Q.これからの士業について、どのようなサポートを望みますか?

(横井氏:起業家)
 最近、スマートラウンドなどのクラウドツールを使い始めました。こうしたツールを利用することで、会社のバックオフィス業務が効率化されてきていると感じます。また、こうしたツールを利用することで、特に創業期の会社は、迷いなく事業を進めることができます。
 このようなクラウドツールを使って、どのように士業の方々とコミュニケーションをとっていけばいいのかについて、具体的な情報が提供されると、さらに利便性が高まると感じています。


Q.ANGELsのような書式・雛形群でBAMBOO INCUBATORに今後開発を期待するもの、公開してほしいものなどありますでしょうか?

(福田氏:エンジェル投資家)
 いまSOの標準書式も開発中ということで非常に期待しています。また、わたし自身スタートアップのバックオフィスを支援することも多く、次の課題は人を雇用して大きくする際の労務関係書類を整備することだと感じています。
 具体的には、スタートアップの労務で必要になる「就業規則」や「雇用契約書」等の雛形作成を期待しています。上記のような労務関係の書式の雛形は厚労省のHPにも示されてはいますが、どうしても労働者寄りの内容に寄っており、ミニマムなSUにはフィットしません。
 SUの最初の一人目の雇用から数人までの雇用をサポートしてくれるような、また、それを元にキャリアアップ助成金のような一番初期の助成金を取得できる要件を満たした雛形群の開発・公開を期待します。


Q.士業団体であるBAMBOO INCUBATORに対し、どのような役割を期待し、どのような魅力を感じていただけているのでしょうか?


(福田氏:エンジェル投資家)
 BAMBOO INCUBATORさんには期待しかありません。
 たくさんある魅力の中の1つをご紹介します。まず、一番素晴らしいのはスタートアップに強い士業の先生方が可視化されており、地域や属性や保有資格・得意分野で検索して繋がれることが非常に便利です。

 また、BAMBOO INCUBATORの先生方は、様々なメディアで情報発信されていることも多く、それぞれのメディアからその人となりを知ることができる点も、面白いです。士業の先生方は、情報発信されている方が少なく、特にスタートアップに強いという切り口で情報発信されているのはBAMBOOさん以外にありません。そういう意味では、今後も情報発信を継続していただけると、非常に有り難いです。BAMBOOの代表からスポンサー料などをもらっているわけではないですよ(笑)。
 横井さんの会社では、いまBAMBOO INCUBATORのメンバーの税理士さんを顧問として迎え入れていますが、司法書士さんや社労士さんもBAMBOO繋がりでご依頼する予定です。


5.終わりに

 今回の起業家・エンジェル投資家の場合には、普通株の雛形としてのANGELsご利用でしたが、普通株の発行だけでなく、みなし優先株の発行及びその転換時の雛形も提供していることにANGELsの最大の特徴があります。ぜひ、資金調達で、みなし優先株を発行されている起業家・投資家の皆様も、ANGELsをご利用ください。

ANGELsについて

 ANGELsは、まだ顧問弁護士などの専門家コストの負担が難しい起業家にも安心して使っていただけるように、完全無料で公開しています。こちらのページ下部の入力フォームからお申し込みいただければ、どなたでもDLいただけます。


BAMBOO INCUBATORについて

 BAMBOO INCUBATORは、「専門知識は力なり Expertise is Power.」を合言葉に集結した弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、社会保険労務士、弁理士及び行政書士などの専門家で構成される団体です。

 当会では、広くミッションに共感する専門家の方を募っております。ご興味ある方は、下記のフォームからお申し込みください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfFp-37vrlwjCgtGU6qGYdf97x00Emxjgr9p9YvvzF8CyRwGQ/viewform


無償サポートプログラム実施中!!!


 なお、BAMBOO INCUBATORでは、現在「投資契約書雛形『ANGELs』無償サポートプログラム」と題して、毎月3社限定で、ANGELsのご利用に関する、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士など専門家の無料サポートを提供しています。この機会に是非ご利用ください。
 詳細については下記をご覧ください。


 最後に、このインタビューと記事化の取り組みが、業界全体にとってのベストプラクティスを形成し、エンジェル投資の分野での標準を高める一助となることを期待しています。

インタビューにご協力いただいた、横井さん・福田さん誠にありがとうございました!

(文責:司法書士 石本憲史

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?