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「妻、小学生になる。」の感想

設定は嫌いじゃない。未知の読者のために説明すれば、10年前に最愛の妻の新島貴恵を交通事故で亡くした夫の圭介と娘の麻衣は、その間家族の死を乗り越えられずに失意のうちに暮らしていた。そこへある日突然亡くなったはずの貴恵を名乗る小学生が現れる。

どうやら10年前に死んだ貴恵が転生した姿だということがわかって、家族は再開を喜ぶ。けれど妻は現世では他の家庭の子供、白石万理華として生活しているため新島家には戻ってこられない。もどかしくも奇妙な交流が始まるという話だ。

繰り返すけど、設定は嫌いじゃない。けれど、40を過ぎた中年親父が近所の人目憚らず元妻に抱きついたり、デートの誘いを大声で叫んだり、会社の部下に自分の妻だと紹介しようとしたりはしないだろう。

さすがに貴恵に諌められるけど、圭介はまったく意に介さない。それどころか周囲に対して嘘で誤魔化すことは「夫婦だってことを否定するみたいで」嫌なのだと言う。それは妻が生まれ変わったという奇跡によって与えられた幸運を「ごまかしや演技なんかに費やしたくない」からなのだそうだ。

いい歳して分別もつかないのはどうかと思うけど、それだけ愛情が深いのだと好意的に受け止めたいところだが、正直気持ちが悪い。妻が8年後の18歳になるまで待ってまた再婚したいようなことまで口走ったのにはぞっとした。

もしそれが実現したとして8年後の圭介は50歳前後だし、18歳の貴恵との年の差は30歳程度も違ってくる。この意味が圭介にはわからないのだろうか。その場で話を聞いていた娘の麻衣は笑って流していたけれど、笑い事じゃない。

いくらなんでも圭介が幼稚過ぎるだろう。いや、これはもはや正気ではない。ここまで来れば立派なサイコホラーだ。そうか、一見ハートウォーミングな作品に見せかけた、まったく違うジャンルのサプライズ作品だったのか。いやはや、すっかり騙された。

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