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言葉を信じるということ

"時代は言葉をないがしろにしているーーあなたは言葉を信じていますか。"

『長田弘詩集 (ハルキ文庫)』より「最初の質問」

2020/12/31

2020年もあとわずか。ほとんどすべての人にとって何がしかの変化がもたらされた、かつてないような一年だったのではないでしょうか。
歴史を紐解けばこうした環境の変化は常に、生命に選択を迫ってきました。世界を変えるような発明を生むこともあれば、適応できずに滅んでしまったこともある。進化できるかどうかは、私たち自身の選択にかかっている。それは個人にとっても、会社や国レベルでも同じことだと言えるでしょう。
まだまだ解明されていないことも多く、真冬ということもあって大変な状況ではありますが、何も見えない闇のなかでも光を求めて手探りで歩き続けた世界中の人たちによって少しずつ道筋が見えてきた今年。すでに轍を整え道を拡げているところもあれば、道を繋ぐことすらできていないところもある。私たちがこの先も無事に歩き続けられるのかどうか、来る2021年はまさにその分かれ道に差し掛かることになりそうです

今年はなによりも、私たちの言葉こそが社会をつくるのだということに、改めて気づかされた一年でした。世界中で同時多発的に起きたできごとに対して、根拠のない発表が繰り返されデマや虚言がこれでもかと飛び交う一方で、論理と科学といった共通言語によって多くの人々が繋がり、異分野や異業種の対話もこれまでになく進んできました。
知ること、考えること、行動すること。そのすべての基礎には言葉があって、その意味をごまかせば容易に道を誤ってしまう。結果は残酷なほどに明らかです。

約20年前からのインターネットの普及はまさに革命的な進化で、言葉はどんどん速く軽く、私たちのもとに届けられるようになりました。今では多くの人がほぼリアルタイムに、こうして自分の言葉を世界中に発信できるようになっています。
しかし、そもそも言葉はあやふやなもので、100%正確に伝わるようにはできていません。また言葉の届け先であるところの読者の私たち自身は、さほど大きな変化を遂げたわけでもありません。速く軽く多くの言葉を流せるようになった一方で、言葉の確かさはますます低下していき、私たちもそれに慣れていったなかでパンデミックが起こり、いまや言葉は、かつてないほどないがしろにされている。その反動からか、大切な言葉と向き合い、より確かな言葉を求め、想いを言葉にする人が増えたようにも思います。

古くから言葉は、書物によって届けられてきました。物理的な制約によって一冊に留められることで読むことができるようになり、たとえ届くのが遅くとも確かな積み重ねがあるから読むに値するものになる。出版というプロセス自体が、言葉の確度を上げる取り組みだとも言えるでしょう。
そう遠くないうちに、遅くとも重みのある「本」が気軽に速く読めるようになる時代が来るかもしれない。しかし私たちの社会が言葉を信じられなくなってしまえば、いくら技術革新が進んでもそんな未来は訪れません。だからこそ今、この時代に「本という方法」の確かさを保証し続けなければならない。それが本屋の役割だと思います。
遠回りでも寄り道になっても少しでも前へ歩いていくためには、信じられる言葉が必要です。長い冬を明ける者たちと共に立って、確かな言葉を届け続けます。

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