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生活の建築知識.56

おはようございます。

近年、リノベーションを行う際にバリアフリーをご希望される方が多くなりました。
しかし、新築なら初めから検討することも可能なのですが、リノベーションとなると実施が叶わないこともあります。
さらにバリアフリーを目指すにあたり、段差解消だけに注目されることもありますが、実際にはその他の工夫で利用のしやすさが変わることもあります。
今回はバリアフリーや身体的に不自由さを感じる方のためにどんな対策があるか、そして実施のための注意点を説明していきます。

冒頭挙げました段差解消は代表的なバリアフリーの方法と言えます。
各部屋への出入り口で段差をなくし、躓き防止を計る目的があります。
身体的に健全な方はなかなか想像しづらいかもしれませんが、やはり段差はない方が理想的だと言えます。
段差にも大きさによって特徴があります。
3mm未満の段差であれば、段差としては扱わなくても良いと思います。
3mm〜30mm未満程度の段差は、1番躓きやすい段差となります。
段差が小さいため、あまり目に付かず注意を怠り躓く原因になります。
30mm以上の段差は、しっかりと障害になります。
過去にギックリ腰を患ったことがありますが、足をすって移動するしかなく、身を持って段差が障害になるのだと感じたことを鮮明に記憶しています。
私の場合は一時的なものでしたが、毎日の動作で障害があることはさぞ大変だと思います。

次に手摺を設けることで動作がスムーズになることがあります。
段差は解消したいが、どうしても発生してしまう場所がいくつかあります。
玄関や階段、浴室の湯船も段差として考えることも出来ます。
このような場所では手摺を設け、手の力で障害を乗り越える補助として効果的です。
さらに段差でなくても、玄関での靴を脱ぎ履きする動作やトイレでの着座などの動作においても手摺があることで、動作を補助することが可能です。

玄関での靴の脱ぎ履きに話が及びましたが、手摺だけでなく、腰をかけるスツールのようなものがあるとさらに動作補助が可能です。
私の祖母も立ったままでは靴が履けません。
椅子などに腰掛け靴を履きますし、着座や立つ際には手摺を利用することで、安全に靴を脱ぎ履き出来ています。
ですので、玄関に手摺を付ける際には着座出来るものも合わせて計画するのが良いでしょう。

歳を重ねると目も機能低下してきます。
特に白内障・緑内障などになる方は珍しくなく、光に対して感度が下がったり、視野が狭くなってしまうことがあります。
視野の機能低下があると段差に気がつかないこともあり得ますので、段差を知らせる工夫も必要です。
段鼻(段差の鼻先)に他とは異なる色を使った滑止めなどを施すと、その役割を果たしてくれます。
ただし、加齢とともに認識しにくくなる色がありますので、それらは使用するのに適していません。
淡い色や、黄色も認識しづらいようです。
意匠的に何色を採用するかは難しくなるかもしれませんが、ヴィヴィッドな色を採用すると認知しやすくなります。

最後に、通路幅を広くすることもバリアフリーに繋がります。
車椅子での生活や、車椅子を使わずとも補助をしてくれる方がいる場合に狭い通路では何かと不便になります。
理想としては900mm、出来れば800mm以上の通路を設けることで、対処できることも多くなります。

いくつかバリアフリーの手法を羅列しましたが、この中で簡易的に実施できるものは、残念ながら段差を認知しやすくする色を施すことくらいでしょう。
他の対策には手間がかかってしまいます。
まず段差解消ですが、現状で段差があるのには理由があります。
床の下地が躯体で変更出来なかったり、配管ルートのために下げられないというケースです。
その時は下がっている側の床を上げなければなりません。
当然床を上げるので天井までの高さは低くなります。
天井高さを変えたくないとお望みの方は、合わせて天井高さを上げられるかも検討する必要があります。
手摺の設置に関しては、取り付けるために下地があることが必須となります。
手摺は大きな荷重がかかることが前提となりますので、必ず下地を入れなくてはいけません。
下地がないまま設置すると、荷重に耐えきれず外れてしまい、それが原因で怪我をしてしまう可能性があります。
下地を入れるには壁を開口して下地を施し、さらに損傷した仕上げも直すことが必要です。
簡易的には、今ある下地を利用して板を壁に固定させてからそこに手摺を付けることも出来ます。
デメリットとして、板の厚み分通路などが狭くなったり、都合の良い場所に下地があるとは限りません。
また、美観も損なわれてしまうことでしょう。
通路幅の拡張は、もう言うまでもありませんが壁を撤去して造り直さなければいけません。
場合によっては、電気配線や衛生設備配管などが壁の内部あったり、壁の位置がズレることで床の補修ややり直しが発生する可能性があります。

これから新築実施をご検討の方は、先に下地を入れ込んだり床下地や天井高さをご検討頂く時に考慮することが賢明です。
また通路幅も広いに越したことはありません。
どこまでやるかは、保険に入るようなものでやっておけば安心だし、やり過ぎると使わず仕舞いになることも考えられます。
ただ歳は必ず取りますので、ずっと住み続ける予定という方は、前向きにご検討頂ければと思います。
リノベーションやリフォームをご検討の方は、手摺までは設けられますが、特に段差については叶わない場合があります。
可能であれば物件取得前に部屋の構造を把握することをおすすめします。
管理会社や不動産屋に物件の図面資料を提供してもらい、そこにどのような構造となっているかの記載があります。
図面を見てもわからないという方も少なくないと思いますので、合わせて床の構造をお聞きするとよろしいかと思います。
もしくはすでに設計事務所を決めていれば相談するのも良いでしょう。

家のメンテナンスは大切だという話は聞くこともあると思いますが、月日が経てばご自身の身体も徐々に衰えていきます。
長く住宅と付き合っていくために、今後のご自身の変化についても一度配慮して頂ければと思います。

では、また。

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