見出し画像

生活の建築知識.59

おはようございます。

建築の意匠を計画するのは難しい仕事です。
要因としては、クライアントによって要望が都度異なること、多くの素材を理解して使い分けていかなければいけないこと、そして予算を調整していかなければいけないことが挙げられます。
最終的な予算は施工を実施する会社の見積もりによりますので、見積もりを提示するわけではない設計事務所が予算を調整していくには、経験と知識が必要になることは間違いありません。
話は少し変わりますが、街を歩いているといくつか目を引く建築物に出くわすことがあります。
それは住宅であっても例外ではありません。
意匠的に優れていると感じるものもあれば、良い材料を使っているなと気付く瞬間もあります。
設計者なのかクライアントなのかはわかりませんが、こだわりたい箇所だということはわかりますし、それが住宅にどのような影響を及ぼせているかを考えると参考にもなります。
今回は過去にふと気付いたお金をかけてこだわったであろう住宅の部分に関して説明をしていきます。

・ガラス
東京を中心に仕事をしていますので、行く街もほとんどが都市部となります。
都市部であると防火区域・準防火区域であることが多く、さらに隣地や前面道路とも距離がない状態で建てられた住宅が多くなります。
そして建物と隣地境界線などとの距離によっては、開口部を火災時に延焼を防ぐための仕様としなければなりません。
その時多くの場合は網入りガラスが採用されます。
また、プライバシーの確保も現代では大切な事項であり、周辺から室内が見えてしまう環境ですと磨りガラスなどを用いることは珍しくありません。
そんな中、たまに透明ガラスを採用している物件があります。
通常のフロートガラスでは法的に延焼を防ぐ設備とはならないため、耐熱強化ガラスを採用したことになります。
耐熱強化ガラスは高価格となるため、あまり採用されることは多くありませんが、採用したということはそこにお金をかけても叶えたい何かがあるということでしょう。
網入りガラスであっても景色を見ることは出来ます。
磨りガラスなら視線を遮りながら採光の確保も叶います。
しかし透明ガラスであるということは、やはり外の景気を楽しみたい、もしくは内と外との関係を連続してさせたいなどと考えたのでしょう。
このような物件を見ると、住人の方は生活空間が外にも向いているのだろうと感心します。
全てそのようにする必要は決してありませんが、空間をどこまで捉えるのかを考える上で、非常に有効な方法だと思います。

・内装仕上げ
街ではなく現地調査で訪れた住宅内部の話になってしまうのですが、ほとんどの部屋で天井・壁が漆喰の押さえ仕上げのお宅を見たことがあります。
押さえ仕上げは左官特有の鏝のパターンもほとんどなく、フラットに仕上げる方法です。
かなり遠目からでは壁紙なのか、塗装なのか、漆喰なのかは正直わかりません。
しかし間近で見れば、天井・壁に反射する光がユラユラと独特な雰囲気を出し、上品で柔らかい白を感じることが出来ます。
そこのお宅を訪れた時はすでに築20年経っていたのですが、驚くほど天井・壁が綺麗だったことを覚えています。
未だにあれほど綺麗な物件を見たことがありません。
きっと住まい方が良かったのは疑う余地もないのですが、どれほど丁寧に住んでもそれなりには劣化していきます。
実際に漆喰を利用した住宅に住んだことがないのであくまで推測にはなってしまいますが、寺院などでも外部で漆喰を利用していることがあります。
また、兵庫県にある姫路城も壁だけではなく、瓦の目地部分に漆喰を使っており、その見た目から白鷺城と言われるのは有名です。
どちらも美観に優れていると同時に汚れが付きづらく、その美観を維持しています。
さらに漆喰には調湿作用もあり、一年を通じて変化する湿度に対して調整をしてくれますので、室内であれば快適性は上がることが想像できます。
全面漆喰を実施するとなるとかなり高額になることは間違いありませんが、数多住宅を見てきた私からしたらあの衝撃は忘れられなく、憧れてしまいます。

・軒下
日本建築は軒を延ばすことで、外部からの影響を緩和し住空間の快適性を向上させる工夫をしてきた歴史があります。
しかし現代では敷地いっぱいに建て、高性能な設備により内部の快適性を確保するのが主流です。
土地に対して目一杯面積を利用して建てたいのはもちろんわかります。
ただし、だからこそか、大きく伸びた軒を目の当たりにするととても贅沢な計画だと感じるのです。
先の通り軒を伸ばせば、室内環境の向上に有効です。
しかし本当の魅力はその軒下の空間にあると感じます。
ニュアンスは違いますが、わかりやすいのがオーニングやテントに近い側面があります。
外でありながら室内のように振る舞える空間です。
都市部であると敷地に余裕があるということの方が珍しく、容易に出来るものではないのですが、やはりこれも憧れてしまうものです。

・屋根
軒とも通じるところありますが、都市部において屋根はほとんどが上から見えるだけのもので、地上面から見ることはあまりありません。
斜線制限などの制約から消去法で屋根形状が決定することも多く、注力するのが難しい部分と言えます。
しかし、良いと感じる住宅は共通して屋根に表情があるように思います。
それは何も全ての屋根が良いというわけではなく、玄関先の屋根だけこだわったものでも目を引きます。
どんな屋根が良い屋根だという定義は特別ありませんがいくつか例をあげたいと思います。
例えば、素材です。
金属を採用すると、屋根自体を薄く表現出来ます。
その見た目の薄さから非常に軽快さを感じることが出来ます。
今ではガルバニウム鋼板を利用した屋根もありますし、古くは銅板を利用したものもあります。
銅板においては酸化して緑青となり、その色合いもまたカッコいい雰囲気を出してくれます。
別の例としては、屋根流れの向きです。
先ほど話しましたように、消去法的に形状が決まりがちな屋根ですが、積極的に屋根形状を計画する方法を取ると、その躍動感は非常に住宅に個性を出してくれます。
以前二階建ての新築木造住宅を実施した際に、二階のボリュームを一階のボリュームからセットバックさせることで、一枚の片流れ屋根で繋がっている計画としたことがあります。
雨水の処理量や全体の面積調整、天井高さの調整など多くの課題はあったものの、最終的に出来上がった住宅は迫力のある、そして無駄を削ぎ落としたような整然とした住宅となりました。

まだまだ他にもこだわれるポイントは多々あり、その場所も人や環境によって異なってきますが、何か一つこだわることだけで住宅に魅力が出てくることがあります。
もちろんそれが設備であったり、趣味の部屋でも良いと思います。
ご自身がどんなことに興味があり、住宅のどの部分に反映出来るのか検討することで、個性的な魅力ある住まいにできるかもしれません。
街にある参考例を見ながら検討してみてはいかがでしょうか?

では、また。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?