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どうすれば日本人の賃金はあがるのか?

「どうすれば日本人の賃金は上がるのか」野口悠紀雄著・日経プレミアム新書2022年9月発行

著者は賃金水準は企業の稼ぐ力、粗利益である付加価値の増加に連動する。それは就業者一人当たりの付加価値であり、生産性であると主張する。

米国のIT業界エンジニアマネージャーは年収1億円を稼ぐ。米国の平均賃金は7.28万ドル、日本の平均賃金は3.85万ドル、米国の53%に過ぎない。米国は物価上昇以上に賃金が上昇している。そのうえ、日本の賃金は韓国より低賃金水準である。

日本の賃金が上昇しないのはパート等非正規労働者が多いためである。一世帯当たり平均所得額は552万円、中央値は437万円。夫婦子供からなる世帯の中央値は550万円、つまり共稼ぎで所得を確保している。

賃金格差の原因は何か?それは業種別、企業規模別に大きな賃金格差があるためである。電気、ガス供給業の平均賃金は815万円、宿泊、飲食サービス業の平均賃金は159万円とその格差は大きい。

更に大企業と中小零細企業の二重構造がある。資本金10億円以上の大企業の平均給与は575万円、資本金1,000万円未満の零細企業の平均給与は235万円、2.4倍の格差がある。

格差の理由は生産性の高低にある。生産性は資本装備率(設備投資)に比例する。日本の設備投資はモノつくりのための有形固定資産への投資、大量生産方式、薄利多売のビジネスが中心である。

他国と同じ土俵では、低賃金の新興国やモノつくりの中国には勝てない。必要なのは経営組織の高度化、特許権、技術力等の無形資産、人的資産である。米国はIT革命でデジタル化、データビジネス化に成功した。GAFAM企業がその中核である。

著者は、「日本はこれからも物価は上がるが、賃金は上がらない」と言う。

理由の一つは、労働需給がひっ迫していないこと。有効求人倍率は1.2であり、事務職は0.4と更に低い。ホワイトカラーは人あまりである

もう一つは、従業員一人当たりの付加価値(粗利益)が増加していないこと。稼ぐ力が不足している。

更に労組は解雇、人員削減を恐れ、雇用維持を優先、賃上げに集中していない。春闘も物価上昇率に追いつかず、実質賃金は減少する。

大企業は、円安メリットで円建て売上高は上昇し、円建て利益が増加する。見せかけの増収増益である。ゆえに無理に技術開発の必要はなく、表面上利益が伸びる。

円建て売上が伸びても、国内労働者の賃金は増えない。円安は日本の消費者と国内労働者の犠牲のもとで、輸出企業の利益が増加する。

円安政策とは、古い製造業を残し、雇用を維持する政策である。韓国はアジア通貨危機によって通貨価値の下落で国家破綻寸前まで行った。日本は通貨安の本当の怖さがわかっていない。

日銀及び政府は「金融緩和」で円安を招き、結果的に技術開発、産業構造、ビジネスモデルの転換を遅らせた。

株主利益と企業収益確保、政府債務維持のため、これからも国民、消費者に犠牲を求めるのだろうか?大人しい日本国民は反乱を起こさないとの自信があるからだろう。

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