見出し画像

ジョブ型雇用・人より仕事を重視する人事ができるか?

「ジョブ型雇用社会とは何か・正社員体制の矛盾と転機」濱口桂一郎著・岩波新書2021年9月発行

著者は1958年生まれ、労働省入省、現・労働政策研究研修機構労働政策研究所長。

著者は、2009年「新しい労働社会・雇用システムの再構築」岩波新書で、日本労働社会の矛盾、その解決法としてメンバーショップ型と対となるジョブ型雇用を提起した。

しかし、ジョブ型雇用は提示した概念と似ても似つかないものとなった。本当のジョブ型とは何か?を改めて世に示したいと記述する。

ジョブ型は最初に職務があり、人は職務に付いてくる。賃金は職務に対する値段、人の能力に対する値段ではない。従って人を育てるメンバーシップ型とは全く異なる。

1995年バブル崩壊、氷河期を経て、日本雇用は少数精鋭主義、若者の非正規化が始まった。従来の業績主義が再活用される。更に企業内組合がこれを助長する。

日本の労働社会は戦前の生産第一主義から生まれた産業報国会が労働組合の出発点。企業業績成果の分捕り合戦、インサイダー利益獲得の組織である。本質的にメンバーシップ型雇用を前提としている。

日本の歴史は市民革命を経験していない。権力奪還、労働者権利獲得の経験もない。唯一、戦後、総評を中心とする官公庁、三池争議の産別、職別組合運動の経験があるのみである。それも国鉄解体と共にその労働運動も終了した。

メンバーシップ型雇用は企業組織と一体となった幻想共同体的組織論である。トーマス・ホッブスは「リヴァイアサン」で株式組織ほど効率的組織はないと言う。これを社会契約論で批判的に継承したのが、ロックとルソーである。

欧州では社会契約、個人の労働契約の考え方が徹底している。日本は江戸時代儒教思想、朱子学から「忠義」「公儀」が基本思想にある。メンバーシップ型労働社会とは親密性がある。

日本においてジョブ型雇用を導入するには全面的社会構造の転換が必要となるだろう。

日本経営者の人事評価は能力評価ではない。当初から職務分析もない。白紙から人を育て、企業の色に染める考えである。評価も能力評価でなく、情意(やる気)評価である。

現在の労働組合は従業員代表制でなく、過半数労働組合制である。従って、存在する労組は大企業中心正社員組合の「少数派」と団結も参加もないそれ以外の労働者の「多数派」の二つしかない。

これは現在の日本の政治状況と似ている。与党と野党支持の「少数派国民」と非政治的無党派の「多数派国民」が存在する。投票率50%前後、25%支持の代議院制ですべての政治、政策が決定される。エリート代議制民主主義である。

ここに成立する民主主義が真の民主主義でないのは明らかである。メンバーシップ型雇用社会の日本に真のジョブ型雇用を導入する困難さ改めて確認せざるを得ない。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?