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池波正太郎の食べ物エッセイ「散歩のとき何か食べたくなって」

「散歩のとき何か食べたくなって」池波正太郎著・新潮文庫

著者は食い物好きの作家として有名である。この本は料理エッセイの名著「食卓の情景」の続編である。

読むと判るがこの本は著者が出かけて行った料理店の案内では全くない。著者が感じた日本の歴史と文化について書かれた随筆である。

著者が作家になる前の職業、日本橋兜町の株式仲買店に勤めていた頃の「銀座・資生堂パーラー」、「室町・はやし」、「神田・連雀町」の項は、立派な文化論であり、一流の時代評論と言える。

学生時代、「神田やぶ蕎麦」の前を通りながら、値段が高そうで御茶ノ水駅の立ち食いそばを食べた。明治大学裏の山の上ホテルを見ながら、就職したら、いつか泊まって、ここの天ぷらを食いたいと思った。

「名古屋懐旧」の項に出てくる大須の餃子「百老亭」は、サラリーマン当時、私が会社の上司に連れられて、飲めない酒を必死で飲んだ記憶が鮮明に思い出される。更に下町大須の情景と歴史が何とも言えない感覚で表現されている。

最終に近い項「京にある江戸」の茶屋・平野屋では、著者の代表作「鬼平犯科帳」長谷川平蔵と木村忠吾が今にも食事と酒を飲むシーンが目の前に現れ出てくる感じがする。

さすがに人気作家だけあって、文章にも無駄がなく、小説のように読める名随筆と言える。この随筆に小説以上の感動を受けたのは私だけであろうか?


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