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始まった戦争は止められない・マーガレットの「戦争論」

「戦争論・私たちにとって戦いとは」マーガレット・マクミラン著・えにし書房2021年10月発行

著者はカナダ生まれ、曾祖父は第一次大戦中の英国首相・ロイドジョージである。トロント大学トリニティーカレッジ学長を経て、現在オックスフォード大学名誉教授。

「戦争論」ではプロイセン王国の軍人カール・フォン・クラウゼウイッツが有名である。彼は「戦争とは、敵に対し、我々の意思を成就させることを意図した暴力行為」と定義した。

英国の政治学者ヘドリーブルは言う。「暴力は政治単位の名で行われ、かつ別の政治単位に対して行われるのでなくば、戦争と言えない」

1990年から2017年まで25年余りの間に200万人以上の人が戦争で亡くなった。現代戦争は核兵器使用せずとも、武器の進歩でその殺傷力は格段に進歩した。

イラク、シリア、アフガニスタンで見るように近代戦争は都市戦であり、ゲリラ戦である。それだけ一般市民の犠牲が大きい。しかも始めるのは簡単である。反対に終わらせるのは難しい。

戦争の理由は何か?ホップス・トマスは言う。「人間は『些細なこと』から戦争を始める。それは一つの言葉、違う意見、侮蔑の感情など」

戦争の口実は自国の威信の確保にある。その背後には貪欲、自己防衛、感情がある。故に戦争にはそれぞれの正義がある。

正義があっても、戦争で死ぬのは同じである。正義の死、不正義の死も残虐な死に変わりはない。

ロシアのウクライナ侵攻は典型的なヨーロッパ戦争である。英国、ドイツ、仏、ロシアはかつてのオスマン帝国の領土の分捕り合戦である。過去二つの世界大戦がそれを示している。

戦争で利益を得る者が必ずいる。今回は、米国の軍需産業、天然ガス、石油業界、低成長に悩む中国等である。

戦争が国家を作り、国家がまた戦争をつくる。国民はその戦争の中でただ激しく涙を流すほか術がないのだろうか?

戦争は人間の活動のなかで最も効率的に組織され、さらに今まで以上に国家、社会の組織化を進める。それは国家が社会を完全に統制することを意味する。現在は情報戦、IT化で更に深く浸透している。

戦争は残忍である。しかし一方で、勇敢な兵士の勇気を称え、正義の戦争を称える。

戦争は開始した時は「自利」であっても、自分の命を国のため捨てるという究極の「利他」「無私」に魅了され、戦争は継続される。

戦争のルール「降伏した者、一般市民は殺さない」と言われる。しかし戦争はゲームではない。ゲームでないものにルールは存在しない。核兵器が抑止力でなく、現実の兵器となった以上、文明的戦争も非文明的戦争もない。

本書は過去の戦争の現実、歴史をたどり、戦争が人間にとって不可避なものであること、更に戦争自体が人間を魅了する誘惑を持っていることを示す。

唯一希望は「戦争は始まってしまうまで、避けられない戦争はない」という言葉だけである。反対に言えば、始まった戦争は止められないと言うことか?

戦争の残酷さ、人間の愚劣さを示す哀しい書である。

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