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家政婦は労働者か?否か?「家政婦の歴史」

「家政婦の歴史」濱口桂一郎著・文春新書2023年7月発行

著者は1958年生まれ、労働省入省、退官後大学教授を経て、現・研修機構労働政策研究所長。「働く女子の運命」文春新書、「ジョブ型雇用社会とは何か」岩波新書の著書がある。

2022年9月29日東京地裁で、家政婦兼訪問介護ヘルパーAさんの過労死裁判の判決が出た。Aさんは2015年5月業務終了後、都内入浴施設で倒れ、急性心筋梗塞、心停止で死亡した。Aさんは家政婦紹介あっせん業㈱山本サービスから、93歳のCさん宅へ派遣されていた。

Aさんの夫は過労死による労災給付訴訟を提起した。しかし東京地裁は下記理由で労災不支給の判決を出した。

Aさんの業務は、家政婦として「家事介護業務・家政婦業務」と訪問介護ヘルパーとし「訪問介護業務」は、二本建ての業務である。うち家政婦業務は独立自営業で、家事使用人は労基法適用除外となる。労災保険も自営業の特別加入未加入で、訪問介護業務のみの労働時間数では過労死要件を充足しないと言うのが判決の結論である。

原告側は、両業務は㈱山本サービスが派遣業務として一体の介護、家政婦業務と主張したが、裁判所は一切認めなかった。

本書は、家政婦業務いわゆる戦前の「女中業務」のうち、1918年(大正7年)に大和俊子が設立したのが「派出婦会」である。未亡人、暇な主婦がアルバイト的に家庭の臨時労働者・女中を派遣する職種である。この派出婦会の歴史を辿り、当該判決の矛盾点、不合理性を解明した書である。

「派出婦会」は労働者供給請負業であった。今でいう労働者派遣業である。れっきとした事業所に雇用される労働者であった。しかし戦後、GHQによって、労働基準法、労働組合法、職業安定法などの労働法制が成立した。

なかでも職業安定法成立によって、労働者供給事業が全面禁止された。ヤクザ的支配の労働者供給業ピンハネを排除する目的である。そのため、労働者供給業の「派出婦会」は「有料職業紹介業」の仮面を被って、この禁止規定を逃れた。

派出婦会は有料職業紹介業扱いとなったため、家政婦は個人事業者に変更、家事使用人となった。雇用者は一般家庭である。これにより労働者としての労基法、労災法の保護規定から除外された。

このように本来事業所に雇用される労働者が家事使用人となった原因は、法令解釈運用を、行政、司法、労働法学者らが現実を無視して、単眼的に法令を判断したためであると著者は主張する。

本来の家事使用人に該当する女中業務に従事する労働者は、現時点、全国で1,000人以下であり、実質存在しないと言える。

一方、ホームヘルパー、介護業務従事者は、2020年現在、27万人以上存在する。その労働者の家事業務に対し、労働保護、労災保護が及ばない現実は極めて問題である。

この課題は早急に解決しなければならない。

解決策は、法令改正の手続きは必要なく、過去の労働法制の歴史を検討して、解釈運用の変更で十分対応が可能である。その意味で、この問題は行政、政治、司法の怠慢と言える。

安保法制、専守防衛策は、安倍政権によって簡単に解釈変更され、変質化された。家事業務従事の労働者保護は、法改正云々と言わずに最優先で解釈変更、改善すべきであろう。

(資料)2022年9月29日東京地裁判決文・令和2年(行ウ)第89号

091529_hanrei.pdf (courts.go.jp)


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