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低物価、低賃金・なぜ日本病に陥ったのか?

「日本病・なぜ給料と物価は安いままなのか」永濱利廣著・講談社現代新書2022年5月発行

著者は1971年生まれ、第一生命経済研究所首席エコノミスト。

ドル円は151円、32年振りの円安となり、消費者物価は3%上昇となった。黒田日銀総裁は、物価上昇は一時的、円安は日本経済に有利と、金融緩和を継続すると発言した。

本書は、黒田総裁同様、リフレ派のエコノミストによる長期低迷の原因を探る日本経済論。著者は基本的にアベノミクス政策の功績を高く評価する。

日本の長期デフレの原因はバブル崩壊後に、大胆な金融緩和をしなかったためと主張する。

遅れながらもアベノミクスで異次元金融緩和の結果、円安と株価上昇を招き、就業者雇用数増加でやっとデフレでない状況まで改善したという。

民主党政権時代の実質賃金上昇は、リーマンショックによる派遣社員、パート社員の雇止めで、低賃金労働者層の解雇が進み、労働者全体の平均賃金の上昇と物価下落の結果であるという。

アベノミクスの失敗はデフレが回復しないうちに消費税引き上げによる緊縮財政実施が原因という。

金融緩和と財政政策の二本柱の重要性を主張する。今になってデフレとは貨幣量の問題との主張を財政政策の問題にすり替えている。

金融緩和は一時的な政策、それに続く財政政策も一時的な政策に過ぎない。本質は成長戦略である。ここが欠けている。

著者は、「低所得、低物価、低金利、低成長」が蔓延する日本経済を「日本病」と名付ける。

米国の主流派経済学を正統派として、米国の金融政策をお手本にしなかったかつての日銀、政府の政策を批判する。日本政治手法と同様に対米従属の考え方と見事に一致する。

グローバル時代の経済成長は海外の富をいかに獲得するかが勝負である。それに成功したのが韓国、日本は内需と海外の中途半端な対応で失敗したと言う。

日本固有の問題、人口減少、生産性の低さ、ゾンビ企業の存続、新しい産業の不足などの課題をもっと重視するべきである。

即ち、低金利政策による「流動性の罠」の発生、中立金利の低さ、金融政策の有効性、潜在成長率の低さの課題を取り上げる必要がある。

アベノミクス後も日本の潜在成長率は1%未満、現在では0.2%まで低下している。この状態で金融緩和を続けても効果はない。

生産性向上は、生産人口が減少する日本では、資本ストックの向上と技術革新が必須。女性総活躍とシニア労働力への期待では力不足である。

円安が日本経済に有利とする根拠は、1年目は、輸入物価上昇で家計に負担があるが、2年目には、競争力向上で、雇用が増加、給料も上昇し、メリットが出る。それまでの我慢と言う。

MMT理論も単純な理論だが、リフレ経済学はそれ以上に単純な経済学である。

給料と物価が安いままなのは、金融緩和の不足と早すぎた緊縮政策の実施と結論付ける。

黒田総裁同様、泥沼に体半分を浸かりながら「進め、進め」と号令を発する部隊長に似ている。

著者の解決策は、世界に目を向けて、ガラパゴス化した日本から脱皮、グローバル経済と新自由主義的改革に戻れと叫ぶ。従来の主張の繰り返しが多い。

解決策に日本の第一次産業の見直しを挙げている。農業、漁業の復活は今までにない視点であり、興味深く、評価できる。

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