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「中東の大混迷を解く」混迷の原因とは何か?

「中東大混迷を解く・サイクス=ピコ協定百年の呪縛」池内恵著・新潮社選書2016年5月発行

著者は1973年生まれ、東大先端科学技術研究センター准教授。「イスラーム世界の論じ方」等、多くの中東、イスラム関連の著書がある。

パレスチナ・ハマースとイスラエルのガサ地区攻撃が毎日ニュースとなっている。今までも世界の火薬庫・中東の武力戦火が絶えない。第4次中東戦争寸前である。

中東火薬庫の出発点は1916年5月、英仏間で締結され、ロシアが同意したサイクス=ピコ協定にあると言われている。協定締結から107年が経過した。ではサイクス=ピコ協定とは何か?

この協定は第一次大戦後のオスマン帝国崩壊で、同帝国の支配領域・トルコ南東部とシリア、イラク、パレスチナ、ヨルダンにかけての一帯を英仏が直接統治、支配圏に分割した協定である。

西洋列国が、民族、宗教、宗派の分布が合っていない不自然な国境線を引いたことによりアラブ世界が混乱、民族、宗派の争いが絶えない状況が生まれた。その後、ソ連、米国の冷戦による支配競争が続き、現在はロシア・中国と米国・EUの対立の狭間にある。

パレスチナ・イスラエル戦争も大国の政治的対立の対象となり、国連安保理事会も拒否権の応酬となり、住民の生命・安全は二の次になっている。人道主義、平和主義は機能せず、大国の政治的エゴ、分断そのものである。

今回のハマースのテロ行為、人質から問題をスタートすると本質を見失う。週刊金曜日10月20日号、東京経済大学教授・早尾貴紀氏の記事が参考となり、かつ本質を突いている。

記事は言う。「ガザの抵抗、ガザの反撃が意味するもの」即ち、「イスラエルのパレスチナ収奪の歴史を見ない戦局談義は無駄話か、イスラエル同化を意味する」と主張する。

日本のメディアは過激派ハマースのテロを非難する。「天井のない監獄」と言われる現実はテロではないのか?空爆はテロではないのか?ゴザ現地に入らず、イスラエル支配地の安全地帯からの報告、イスラエル目線のサラリーマンジャーナリストと言える。

1967年第三次中東戦争後、ガザ地区、西岸地区ともにイスラエルの軍事占領下にある。西岸地区のファタハは、ハマースに選挙で敗北後、武力クーデターによって、イスラエルのパレスチナ占領の代理機関に成り下がっている。

2008年から2023年までパレスチナ人の犠牲は、イスラエルによって6,400人余りが殺害されている。うち5,000人以上がガザ地区住民である。今回のハマースの攻撃は、1993年自治権承認のオスロ合意、イスラエルの責任逃れに対する批判、イスラエル弾圧に対する抵抗である。

ハマースの背後にイランが居る、ゴザ支援金が武器に変化した等、空爆、地上戦の有無の論議は本質を見失う。それは歴史的展開を無視した、イスラエル寄りの同化の論理であり、無駄なお喋りに過ぎないと言えるだろう。

シリア・ヨルダン一帯は人類最初の文明発生地である。この地域から西へ、ギリシャ、ローマへと西洋文明、都市国家が成立した。東へは、中国文明、東洋文化国家が成立した。歴史の出発点である。

現在、この地域で残虐な殺戮、殺し合いが起きている。これは文明からの復讐であろうか?それとも人間の愚かさの証明であろうか?

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